4話 ナニカ
喫茶店から出ると外は大分暗くなっていた。
京子は意気揚々と言った。
「今日はお二人をデビルスターズの試合に招待したいと思います!! デビルスターズには今エースで4番のオーヤマ選手がいるんですよ!! 大スターです!!」
おそらくあのビジョンに映っていたプロ野球選手であろう。そんなすごい選手を生で見れることにわくわくしていた。
試合はデビルスターズとフェニックスというチームの一戦だった。正直野球に関してはあまりよくわからなかったのだが、オーヤマ選手の特大ホームランが飛び出し、デビルスターズは逆転勝利を収めた。
帰り道、わたしは彼に告げた
「試合もすごかったけど、スタードーム滅茶苦茶大きかったね! キミもここでライブするんだよね! 楽しみにしてるね!」
彼もあの広さには少し驚いたのだろう、自信なさげに
「頑張るよ」
とだけ告げた。京子はいつものように元気な声で
「大丈夫です!! 奏くんとうちの事務所が組んだらもう怖いものなしです! 絶対成功しますから大船に乗ったつもりで構えていてください」
やはりこう言うときは京子は頼りになる。
しかし、京子の矛先はわたしにむかってきた。
「そういえば、ナギサちゃん、契約の件考えてもらえましたか!」
私と契約して魔法少女になってよと言わんばかりの輝いた目で京子は迫ってくる。たじろいでしまったわたしだが、内心はもう決めていた。勇気を振り絞り、口を少し開こうとしたその時、平和を切り裂くような鋭い女の人の悲鳴が聞こえた。
「キャーーーーー!! 誰か!!」
しかし、中心街から少し離れていた通りであったため、通行人は女の人と、わたしたち3人しかいなかった。
わたしは恐怖心もあったが、何があったのかという好奇心にも駆られていた。そして思わず彼の制止を振り切り悲鳴のする方へと走り出していた。
女の人は腰を抜かして動けないようだ。彼女の前にはなにやら暗闇でうごめく人影のような何かがあった。ここでわたしがなんとかしないと彼女はその何かに襲われてしまうことは容易に想像出来た。
わたしは暗闇でうごめく良く見えない何かの方に向けて、火の玉を飛ばした。命中したらしい。少し低いうめき声が聞こえた。
それの攻撃の対象はわたしへとうつったのであろう。こちらの方に向かってきた。街灯に照らされたそれはまるで原型が何か分からないが人型をかろうじて保っているようなこの世のモノとは思えない見た目だった。
わたしは覚えたての魔法で応戦しようとするが、恐怖心からなのか思ったように魔法を扱えない。気がつくと、それはわたしの目の前に迫っていた。
鋭い爪のような何が見えた。その刹那、それは腕を振り上げ攻撃態勢へとうつった。
――やばい
そう思った瞬間、わたしは地面に転がっていた。彼と共に。
彼が必死でかばってくれたのだろう。攻撃自体は当たっていないっぽいが、わたしをかばった影響なのか、腕にすり切れ傷が見えた。
――情けない
わたしの軽率な行動で彼にまで怪我をさせてしまった。自分が許せなかった。
わたしの身体は考えるよりも前に、次になにをすべきか理解していた。そして、わたしがそれに向けて飛ばした火の玉は今までにないほど大きかった。
それに命中すると、瞬く間にそれは炎に包まれた。炎の威力が格段に上昇していたのが自分でも分かった。
炎が収まると共にそれは消えてなくなった。同時にわたしの緊張の糸がほどけたのか立てなくなってしまった。彼は立てなくなったわたしを優しく支え、静かに告げた。
「無事で良かった」
その言葉に思わず今日二回目の涙腺崩壊が生じた。ごめんなさい、ごめんなさいとわたしはだだっ子のように泣きじゃくっていた。