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アノマチ  作者: 惟名 瑞希
第1章 アノマチ
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3話 アイビー


 同居生活2日目


 今日もけたたましい京子のモーニングコールで目が覚める。


 身辺の世話をしてくれているのは京子なので、全く文句は言えないどころか大変感謝はしているのだが、朝の起こし方だけはなんとか考えて欲しい。


 朝の食卓で、京子が焼いてくれたパンを頬張りながら、昨日アラタに言われたことを、彼と京子さんに話した。

 

 京子はカミカクシのことは全く知らなかった。


 わたしはもう一つ、昨日の進捗があったのだ。それを彼と京子の前で披露する。

 わたしが考案した謎の呪文を唱えるやいなや、服装がよく知られるような魔法少女のコスチュームへと変化した。一丁前に杖なんかも再現してしまった。


 いやーなんかやっぱり形から入りたいタイプでして……昨日夜必死に練習してたんですよ……それっぽくなるように呪文なんかも考えちゃって……


 彼は思わず見とれてしまったのか、持っていたパンを落としてしまい、小さく呟いた

 

 「かわ…」


 すると横から京子がアイドルを前にしたファンのような声で


 「きゃああああああああ!! かわいい!!!!! かわいいです!!!! もうこれはうちのプロダクションでモデルとして契約して貰うしかないですね!!!! 魔法少女ナギサちゃんってアイドルで売り出しましょう! もうそれしかないです!」


 興奮した京子を、わたしと彼でなんとかなだめた。でも正直まんざらでない自分がいた。


 興奮しすぎて鼻血が出てしまった京子は鼻にティッシュをつめながら話した。

 「今日は奏くんはオフなんです! そこで私京子がお二人にこの街をご案内してあげようかなと思いまして! こうして朝から頑張ってきてしまったのです!!」


 オフなら朝の7時からモーニングコールを鳴らさなくてもいいのに……と内心ちょっと不満に思いながらも、京子の提案はありがたかった。だって、カミカクシだなんだって急にシリアスファンタジーみたいな展開が待っているとは夢にも思っていなかったから。京子からは元気をもらえるし(もらいすぎな部分はあるけど……)、彼はまあずっと一緒にいたわけだからなんだかんだ一緒にいると安心する。


 そうしてこの日は、わたしと彼と京子と3人で出かけることとなった。


 とりあえず昨日のように中央駅へと向かう。タクシーの中でも京子は、


 「ナギサちゃん、うちの事務所と契約しましょう」


 と必死に勧誘を続けてきた。実際問題として、わたしにはお金を稼ぐ手段がない。それは彼や京子さんに依存して生きるという事であり、あまり好ましいことではないのはわかっていた。


 「今日一日、考えさせて貰ってもいいですか?」


 ただし、やはりアイドルは抵抗があった。17歳にもなって大衆の前で魔法少女ですとか言ってる自分を想像しただけで顔から火が出そうであった。


 そうこうしているうちに中央駅前へと着いた。昨日とは何処か違う雰囲気がしたが、その理由はすぐに分かった。


 「見てください! あのビジョン! なんと奏くん仕様なんですよ!!」


 ビジョンには彼がぎこちない笑顔で映っているのと、2ヶ月後に行われる予定であろう星空フェスティバルの宣伝が流れていた。


 車の中はひたすら一人でしゃべり続ける京子さんのソロステージであった。ふと横に座る彼の方を見ると、彼はうつむいたまま顔を上げようとしない。しかしその顔が赤くなっているのはすぐに分かった。

 

 わたしはなんとかフォローしてあげようと、

 「すごい素敵です! 絶対見に行きます!」


と言うと、彼はただ小さな声で


 「恥ずかしい……」


とだけ呟いた。なんだかちょっと愛くるしかった。


 京子によると、この街は空飛ぶタクシーだけじゃなくて電車も地下鉄も走っているらしい。今住んでいるマンションから中央駅までは電車で2駅、なんて便利な立地なんだろうか。


 京子による京子のための『案内という名のショッピング』に付き合わされたわたしたちはへとへとになっていた。ふと周りを見るとおしゃれな喫茶店があった。わたしはそこで、すこしお茶していくことを提案した。


 店内も、店の外見同様に非常におしゃれなお店で、木の香りが漂うとても落ち着く空間だった。お店の中をいろいろ探索していると、奥にライブスペースがあった。わたしは興味本位で彼に提案してみた。


 「キミの音楽、聞いてみたいな」


 彼は少し照れくさそうにしながらも、マスターから使い古されたアコ-スティックギターを借りて、ライブステージに一つだけ置いてあった椅子に腰掛けた。


 「じゃあ、ぼくの作った曲から一曲、『アイビー』って曲歌います」


 そう言うと彼は繊細にギターを奏ではじめた。


 演奏がはじまるとわたしはすぐに鳥肌が立った。繊細且つ力強いギターサウンド、そして彼の優しくも何処か儚げな声、今まで聴いた音楽の中で一番わたしの心に刺さってきた。


 演奏が終わると、わたしはおもわず立ち上がって拍手してしまっていた。無意識のうちに泣いてしまっていたのだろう。頬を伝う冷たい滴も気がつかないほどにわたしは彼の音楽に夢中になっていた。


 「なんていうか、言葉で言うのは難しくて、上手く言えないんだけど、キミの音楽は最高でした!」


 私は本心からそう伝えると、彼は少し照れくさそうにはにかんだ。


 ふと横を見ると京子さんは涙がナイアガラの滝のようになっていた。それどころか鼻からもナイアガラだ。汚い。


 「うあああああああ!!!! やっぱり奏くんは天才です!!!! もうフェスも成功間違い無しです! 私は奏くんに関われて幸せです!!!!!!」


 京子のこの感想には珍しくわたしも共感した。それほどまでに彼の音楽は素晴らしかった。彼は、微笑みながら


 「まずは来月のライブ、全力で成功させなきゃ」


 と意気込んでいた。


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新しく連載開始いたしました。マイペースにかいていこうと考えておりますので、お付き合い頂ければ幸いです。

動物のお医者さん、転生して今日からモンスターのお医者さんになりました!
よろしくお願いいたします。
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