1話 ネガイゴト
あなたの願い事、なんでも一つ叶えます
そんな嘘にだまされ、恥ずかしい言葉を口走ってしまったわたしはまともに彼の顔を見ることが出来なかった。高校生にもなって、魔法が使いたいなんて……まともじゃない!!
改札が近づくにつれ、その街の風景がより鮮明なものとなっていった。少なくとも、わたしの知っている日本ではないことだけはわかった。まるでファンタジーかなんかの世界に迷い込んでしまったのか?
謎の空飛ぶ車は走っているし、空中にでっかいビジョンが浮いている。この世界のスターなのだろうか、プロ野球のユニフォームを着た青年がどでかく映っていた。
デビルスターズ?
そんな球団は聞いたことがない。やはりここは日本じゃないんだろう……しかし何度手をつねってみても夢から覚める気配は一向にない。
そうこう考えているうちに、改札をくぐり抜けた。するとなんだろうなんだか不思議なオーラに包まれた感じがした。
――貴方の願い事、何でも一つ叶えます
さっきのやりとりがフラッシュバックしてきた。まあホントに魔法が使えるようになったなら火くらい出せるだろう。そう考え、わたしは指先に意識を集中した。
火よ出ろ……火よ出ろ……
その刹那、指先が急劇に温かくなるのを感じた。自分の目の前に映る光景がとても信じられなかったが、たしかに指先に小さな火の玉があった。
「出ちゃった……」
思わず零れた言葉に、彼も振り向く。
女子高生の指先から火が出ている光景をとても信じられない様子だった。苦笑い混じりで彼は呟く
「おいおい、まじか」
「マジだよ! 大マジだよ! これって魔法?? さっきのやつ??」
わたし自身興奮していたのか、ほぼ初対面の彼の前で無邪気な姿を出してしまう。
――他にも魔法使えるのかな?
いろいろ試してみようと思った矢先、わたしと彼の前に空中タクシーが止まる。なにやらスーツを来た髪の長い美人な女性が焦った様子で降りてきた。
「探しましたよ! 烏丸くん! 烏丸 奏くん!」
彼は奏くんっていうのかー。音楽やってるしなんかそんな感じするなー
とかなんとか考えていると、あまりの勢いにたじろいでいる彼を尻目に、彼女は矢継ぎ早に話し出した。
「今日から貴方のマネージャーを務める丸太町 京子ともうします。 早速ですが、打ち合わせしたことがあるので、乗ってください! 詳しくは車内で話します。 お連れ様もどうぞ!」
京子の勢いに負け、わたしたちはタクシーへと押し込まれた。
車内でも京子の一方的な言葉のドッジボールは続いた。私たちは何一つ状況を理解していなかった。
「奏くんは今日から私どものプロダクションと契約することになりまして! 早速ですが、来月にライブが1つと、あとラジオのお仕事ですね…… CD制作の予定も入ってます、あと、2ヶ月後の星空フェスティバルの出演と、そのちょっと後にあるスターアライブっていうフェスの出演も決まってます!」
彼の理解が追いついていなかったのだろう。彼は京子のマシンガンのような話をなんとか遮った。
「ちょ、ちょっとまってください! ぼ、ぼくがプロダクション? フェス? さっ、最初っからお願いします」
そう言うと京子も冷静になったのだろうか、自分を落ち着けるようにゆっくりと話し出した。
「私どもはミュージシャンだったり、アイドルだったりが所属している、いわゆる芸能プロダクションでございます。 奏くんは今日から私どものプロダクションでプロのミュージシャンとして契約して頂きます。 身辺の世話やスケジュールの調整は私、マネージャーを務めさせて頂きます、丸太町 京子が担当いたします。 お仕事の件は後ほど改めて整理してお伝えさせて頂きますので、まずは、私どものオフィスまで来て頂き、契約書の方にサインを貰いたいと考えております」
――そういえば、さっきミュージシャンになりたいっていってたよね
わたしの理解が追いつくと同時に彼も状況を察したようだった。
契約の話は流石にわたしも同席させて貰うことは出来なかったので、彼が偉い人と話している間、わたしはオフィスがあるビルの前の広場で魔法をいくつか試していた。
火のコントロールは難しく、なかなか思うように調整が出来なかったが、30分もすると何となくコントロール出来るようになってきた。とりあえず火が出せること、風を起こせること、水を動かせることは何となく分かった。
箒で空を飛べるんだろうか、なんか光線みたいなの出せるだろうかと幼い子供の様な想像を膨らませていると、契約を終えた彼が京子と一緒にオフィスから出てきた。
京子さんは満足げにふんふんと鼻を鳴らしご機嫌そうだったが、彼は未だに戸惑っている様子がうかがえた。
「とりあえず、契約は終了したので、次は住居ですね! 早速向かいましょう!!」
京子の言葉にわたしははっとした。
彼はまあ身辺の世話を京子さんにしてもらえるとして、わたしはどうやって生きていけば良いんだろう……家もお金もないし……魔法なんて使えても生きていけないじゃない!
魔法が使いたいなんて幼稚な願い事を言った自分が情けなく感じた。すると元気がなくなったわたしの様子を見たのか京子は、
「安心してください! お連れ様も一緒に住めるように3LDKのお部屋を手配させて頂いております!!! もちろん生活費は私どもの方で負担いたしますので、奏さんは音楽活動に集中してください!!」
ほっとしたのもつかの間、わたしはさらなる重大な事実に気がつく
「ど、どどどど、同居……?」
いや、別にいいんですけどね!魔法も使えますし!まあなんか大人しそうだから襲われることもなさそうだし……いや、でも男は野獣って綾香も言ってたし、いやでも魔法使えるし…!
すっかりテンパってしまったわたしを見かねたのか、彼はわたしに声をかけた。
「ぼくらの世話は京子さんが主にしてくれるらしい。 無理にとは言わないけど、部屋に鍵を付けるよう頼んだし、行くところもないだろうし、なんかよくわからない状況でお互い不安だしどうだろう? しばらく一緒にすまない?」
テンパリも最高潮に達したわたしは思考がショートしてしまい
「はい…」
と一言返すのがやっとだった。
こうして、わたしと彼の奇妙な同居生活が幕を開けるのだった。




