プロローグ ボク
「今日もよかったよー奏ちゃん」
ライブが終わると、ライブハウスのおっちゃんは決まって同じ感想を伝えてくる。
――どこがよかったんだろうか
正直言うと、もうこんな上辺だけの感想なんて聞きたくなかった。もう大学2年も終わりにかけ、就職も見えてきたぼくは、焦り始めていた。音楽は好きだけど、音楽で生きていくのが難しいことはよく知っている。ライブハウスの客は常連と友達しかいない。
「また次もよろしくねー!」
いつものおっちゃんの台詞を背にいつもと同じ道を帰る。
――もう音楽やめて公務員試験の勉強でもしようかな
ぼくがこう思い始めたのも無理はない。あれだけ飲んで、遊び回っていた回りの連中が、急にオンシャ、オンシャと呪文のように唱え出したのだ。
将来のことを考えると気が重い。
そしてぼくはいつもの乗換駅で帰りの電車を待っていた。スマホの画面からふと顔をあげると、女子高生だろうか、制服を着た女の子も電車を待っていた。
高校生が、こんな時間まで頑張っているのに自分は一体何をしているんだろうか
そう思うとますます気が重くなっていった。
気がつくと電車は到着していた。発車のベルでふと我に返ったぼくは慌てて電車に乗り込むと、ライブの疲れもあったのだろう、刹那に眠りの世界に落ちた。
どのくらい、電車に揺られていたのだろうか?
明らかにいつもより長い時間電車にいたことだけは分かった。しかし、車内にいたはずのサラリーマンやおばさん達は消え、ぼくの周囲はまるで世界に取り残されたような静寂に包まれていた。
ふと右を見ると1人だけ乗客がいるのが分かった。例の女子高生だった。
おそらく言いたいことは彼女も同じであろう。視線が合った彼女と共に電車から降りるまで時間はかからなかった。
――ここはどこなんだろうか?