24話 モシモマホウガツカエタナラ
いよいよライブ当日を迎えた。彼自身もう迷いはなかった。
開演を待つ人で、会場は埋め尽くされていた。もちろんなぎさも篤もまどかもその中の1人である。
「大丈夫かな?奏」
まどかは少し心配するように、篤に問いかけた。
「大丈夫だよ。あいつは、そんなに弱くないさ」
あれから何回か、篤は彼と会う機会があったが、もう大丈夫だと感じていた。優しさも持ち合わせた彼の強さがうらやましくもあった。
「あの2人は、本当に強くて、優しさを持っているから……」
篤は自分に言い聞かせるように言う。まどかには伝えなかったが、篤はこのライブに災厄をもたらした少年も誘っていた。確かに少年の願いのせいで、少女が消えてしまったのも事実であり、許せない部分はあったが、篤はどうしても放っておくことが出来なかった。
会場の照明が一気に落ち、真っ暗になると共に、客席からは喚声が上がる。災厄に見舞われたこの街を照らしているのは間違いなく、ステージの上で輝く彼であった。
「かっこいい……」
思わずまどかは呟いていた。今なら少女が彼に惹かれたのも分かる。そしてそれは篤も同様であった。
「あいつの音楽に、きっとみんな、救われてるんだな……」
そして、彼の姿に少女の面影が重なった。
「俺も…… あんな風に、誰かを救えるのかな……」
彼は少女との思い出の曲を奏でた。
『アイビー』
初めて、彼女に聞かせた曲
――アイビーの花言葉、永遠の愛って意味なんだよ
そうきっと、彼女がいなくとも
ぼくがいる限り、彼女は生き続けるから
セットリストの曲もユメトカで最後を迎えた。彼が去った会場に響き渡る客席からのアンコールの声。彼自身もう何を最後に演奏するのか決めていた。それは、あの日から今日のために書き上げた曲であった。
「アンコールありがとう! 今日はどうしてもみんなに、伝えたいことがあって新しく曲を書きました!」
彼の知らせに客席からは歓喜の声が上がる。
「この前は本当にみんな大変だったけど、いまここに無事にいれることに本当に感謝しています! ぼくは1人の女の子に励ましてもらえました。だから、今度はぼくがみんなを励ませたらと思います」
盛り上がる客席と対照的に彼は淡々と告げた。
「そして、ぼく自身どうしても残したいものがありました。だからこそ、みなさんが、今日この日を、ぼくの音楽を、いつまでも忘れないでいてくれたら、きっと……」
そこで、彼は言葉が詰まった。その目には涙が浮かんでいた。客席からはがんばれー!という声が上がる。
「きっと、彼女も喜んでくれると思います!!」
「『もしも魔法が使えたなら』」
ライブ終了後、楽屋で彼は1人座っていた。
――キミにも聞いて欲しかったな
そう思うと、彼の中でいろいろなものがこみ上げてきた。楽屋のドアを開ける音が静かに鳴り響いた。
「奏くん、お疲れ様です」
京子は今までにないような優しい声で語りかけると、彼の元へと近寄った。
「よくがんばりましたね」
そう言うと、京子は彼の背中にそっと手を添えた。同時に、彼はやりきった疲れからか、はたまた、安心からか、静かに意識が遠のいていった。




