21話 サイヤク
奴は着々とこの街に向かってきている。それはルート25までたどり着いたわたしには明らかだった。
どこまでも続くような直線道路、その先はまるで全てを吸い込むようなブラックホール。
篤の協力を得たわたしはパトカーで送ってもらうこととなった。
「これ以上は無理だぞ!」
篤が叫ぶ。
「ここまでで良い! ありがとう!」
わたしの叫びに篤は力強く答える
「街のことは任せとけ! 絶対に返ってこいよ」
「とーぜん!!」
そう返すと篤は笑った。わたしは振り返らずに進む。振り向くと、前に進めなくなってしまいそうだったから。
いつもより集中してできているのだろうか。風を全身にまとうようにイメージすると、体がふんわりと浮く。イメージしたとおりに飛ぶことができる。
これだけ魔法をコントロールできる感覚は初めてだった。
――今ならあいつとも戦えそうな気がする
わたしにはわたしの、篤には篤の仕事がある。街のことは全て任せ、わたしはあいつをなんとか倒すことに集中する。
奴に近づけば近づくほどわかる。奴の強大さが。
――それでも
ありったけの力を炎に込める。
「燃え尽きろ!」
わたしは今までよりも格段に大きくなったであろう火の玉を奴に向けて飛ばす。
一瞬奴の体の一部が燃え上がるが、とうてい、奴の巨体の前では意味をなさなかった。
「何となくわかってたけど…… やっぱり」
燃え上がった部分が、他の部分とくっつくようにして、再生していくのがわかる。
「火力が足りない……」
それは理解したが、あまり悠長に奴と戦っているわけにも行かない。奴が一歩また一歩と踏み出すたびに衝撃で飛ばされそうになる。何とかして、これ以上街に近づくのは防がなければ。
氷魔法を試してみるが、やはりあまり意味をなさない。
――どうしたらいいのか…… 持久戦はだめだ、火力を上げて一発で決めなくては……
そのとき、わたしの脳裏に一つのアイディアが浮かんだ。
うまくいく保証はないけど……
やるしかない!
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――任せたぞ
篤は街の人たちを守るため、中央街へと戻ってきた。
そんな中、一人のやせた小柄な少年が篤の目にとまった。少年はまるでこの世の終わりかと思うような表情を浮かべ座り込んでいる。
「おい、大丈夫か?」
篤が声をかけると、少年は目を見開き、驚いた様子で答える。
「だ、だいじょうぶです……」
そう言うとそそくさとその場を離れようとする。
「きみ、ほんとに大丈夫?」
そう言った瞬間、少年は走り出した。まるで篤から逃げるかのように。
「待ちなさい!」
警察官として、普段から訓練を重ねている篤にとって、か細い少年を捕まえること自体は容易であった。
「ぼくのせいだ……」
少年は震えながら言い出した。
「ぼくのせいで、ぼくのせいで」
少年は気が動転しているようだ。少年が落ち着くのを待って話を聞く。
彼も篤達と同じように、日本から来たらしい。そして、願い事を聞かれた彼は、こう答えた。
――全て終わらせたい
聞けば、学校でもうまくなじめず、半ば引きこもりのような生活を送っていたらしい。そして、家から外に出たときに、偶然この街に引き込まれた。耐え重なるいじめは、少年の心を静かに蝕んでいた。そして、願い事を聞かれた際に、勢いで言ってしまったようだ。本当に実現するとは夢にも思わずに。
「本当に、こんなことになるとは思わなくて…… ごめんなさい…… ごめんなさい!」
こうなってしまったのは、彼だけのせいではないし、むしろ彼も被害者である。
それを理解していた篤は、彼を責めることができなかった。
――頼む、ナギサ
彼のためにも、あいつを倒してくれ。
篤は今、災害ともいえるそれに、たった一人で戦いを挑んでいる少女を応援することしかできなかった。




