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アノマチ  作者: 依那 瑞希
第1章 アノマチ
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20話 ワタシニシカデキナイコト


 「ナギサちゃん大丈夫ですか?? 何かあったんですか??」


 京子もわたしがいつもと違うことにすぐ気づいたのであろう。わたしたちのことを一番気にかけているのはよくわかっている。


 「大丈夫です……」


 わたしは振り絞るように何とか声を上げる。


 ――みんなわたしのせいで


 ――魔法なんて使いたいなんて願ったから


 そんなことを考えていると、あたりはすっかりと暗くなっていた。3回目の満月はまるで、おまえに逃げ場はないと言わんばかりにわたしをあざ笑っていた。


 家に着くと彼の方が先に帰っていたらしい。


 「おかえり」


 「……」


 今は返す気力もない。彼には悪かったが、ぐっと飲み込んだ。言葉も。思いも。


 「ご飯、京子さんが作ってくれたよ」


 「……ありがとう」


 その場を静寂が包む。心地の良い静寂ではなく、それはまるで毒沼のように精神をむしばんでいく。彼は静寂に耐えきれなかったのだろうか、口を開く。


 「昨日もいったけど……」


 「わかってる! わかってるから!!」


 「どう考えてもわたしが悪いでしょ! 私があんな願いなんて言わなければ! 魔法が使えるなんて調子に乗らなければ! 何がこの街の役に立てたらよ!!」


 ため込んでいた言葉のダムが決壊した。


 「わたしがみんなを不幸にしたの!! 魔法使いなんて優しいものじゃない。 悪魔だよこんなの」


 「いやでも、君のおかげで救われた人もいるし、ボクもその一人だから……」


 なんとか励まそうとしているのは伝わる。そして彼の優しさも伝わってくる。しかしわたしの幼い部分はそんな優しい彼をも受け入れることができなかった。


 「今はそんな言葉いらない!何もわかってない!!どうせキミにはわからないの!!」


 彼の表情を見て私は冷静に返る。

 

 ――言ってしまった


 その場の空気に耐えられなくなったわたしは、衝動に任せて家を飛び出した。当てもないまま、わたしは彼から逃げたい一心で走った。


 「待って!!」


 彼の言葉に足が止まった。彼は息を切らして追いかけてきた。


 「来ないで!!」


 それは嘘でもあり、本心でもあった。


 彼はそれでも静かにこちらへと歩いてくる。


 「なんで……」


 「わかったんだ」


 彼は静かに言う。


 「少なくともぼくはキミが必要なんだ」


 何も言葉が出てこない。


 「君からいっぱい大切なモノをもらえた。 それはきっとぼくだけじゃない、篤もまどかも、きっと京子さんだって」


 「君は誰かのために、自分の力を使った。 素敵なことじゃないか」


 そう言うと彼は静かにわたしを抱き寄せてくれた。こんなに安心できる場所があるだろうか。


 「だから、これからも人のためにその力を使うんだ」


 「つかってもいいの……?」


 「当たり前だよ、君にしかできないんだ」


 ――わたしにしかできないこと


 そのとき、世界がまぶしい閃光で包まれた。街への新たな来訪者を知らせるその光は、まるでわたしたちを切り裂くかのように鋭く空を貫いた。


 それは、空を引き裂くような閃光と共に現れた。


 まるで世界が終わりを迎えるかのような地響きがなると、立っているのが精一杯なほどの強風が街を襲う。


 「なに……?」


 

 ただ事ではないことを察した人達で瞬く間に街は埋め尽くされた。軽いパニック状態となっている。


 わたしたちは何とか状況を理解しようと、人混みをかき分け、マンションの自室へとたどり着く。そして窓から見たその光景は絶望へと引き落とすような光景だった。


 街は所々炎を上げ、赤く染まっていた。泣き叫ぶ声や、怒鳴り散らす声が聞こえてくる。夜の静寂は一瞬で喧噪へと変化した。


 一番わたしたちを絶望させたのは、街の奥に存在した、山のような何かであった。おそらく、リゾートの方であろう、街からだいぶ離れているのにもかかわらず、そいつは、まるで目の前に存在しているかのような威圧感が感じられた。暗くてよく見えなかったが、そいつはわたしには良く心当たりがあるものだった。


 ――奴だ


 今まで、幾度となく現れては、炎へと消えていった奴ら。しかし、今度の奴はとうていわたし一人の手には負えないような、まさに災害そのものだった。


 闇がさらに恐怖を引き立てる。山のようなそいつはまるでブラックホールのように夜の闇をさらに深めていた。


 「行かなきゃ…… わたしが……」


 おそらく行けば無事では済まないことはわかっている。それどころか、たぶん相手にならないであろうこともわかっていた。それでも……


 「待って」


 彼はわたしの手を引き静かに告げる。


 「本当に行くのか……?」


 わたしは彼と一緒に逃げてしまいたい気持ちをぐっと押し込み、静かに答えた。


 「わたしの……わたしだけができることだから……」


 その言葉を聞くと彼は静かに手を放した。そして一言だけ、わたしに告げた。


 「かえってこいよ」


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新しく連載開始いたしました。マイペースにかいていこうと考えておりますので、お付き合い頂ければ幸いです。

動物のお医者さん、転生して今日からモンスターのお医者さんになりました!
よろしくお願いいたします。
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