プロローグ ワタシ
「進路希望調査来週までに出せよー! あと今日も面談あるから対象者はよろしく!」
高2の冬になるが、わたしは将来やりたいことがまだ決まっていなかった。
まあみんな大学行くだろうし、適当に入れそうな大学行こうかなー
将来何がしたいかなんて、どうせみんな考えてないよね?
小さい頃は魔法少女になりたいとか、ケーキ屋さんになりたいとか、お嫁さんになりたいとか考えていたけど、さすがに高校生にもなればそんな子どもみたいなことを言うわけにもいくまい。部活も引退したし、そろそろ本格的に将来のことを考えなければならないのはわかっているが、考えれば考えるほど自分が何をしたいのかわからなくなってしまう。
「あーもうお嫁さんになりたい……」
思わず口から出てしまったのだろう、隣の席の綾香のツッコミで我に返る。
「あんた、高2にもなってお嫁さんって……」
ちょっと恥ずかしくなってしまい誤魔化そうとしたのが、綾香にとっておもしろかったのだろうか、さらに弄られることとなった。綾香もさすがにいじりすぎたと思ったのだろうか、わたしをフォローするように言った。
「まあでも、実際何がしたいかなんてわからんよねー」
いつものように、他愛もない話を綾香としているとすっかり日も暮れ、5時になろうとしていた。
「あっごめん、わたし今日5時から先生と面談あるんだった、綾香先帰ってて!」
先生との面談は思いの外スムーズに終わった。とりあえず大学進学を考えているけど、何をしたいかは決まっていないと先生に伝えると
「まあ、焦らんでもええ、ゆっくり考えなさい。 キミの成績なら選べる大学はたくさんある」
先生は微笑みながらそう言った。その後、面談はいくつか雑談をしただけだった。自慢じゃないが、勉強はそこそこできたし、将来にたいして焦りも持ったことがなかった。まあそのせいで、今わりと悩んでいるのだけれど……
学校を出たのは午後6時半過ぎくらいだった。家までは特急に乗れば電車で45分くらいだけど、その日は疲れていたので各駅停車で座って帰ることにした。
途中、乗換駅で電車を待っていると、ふとギターを持った大学生位の男の子が目に入った。バンドマンらしからぬ落ち着いた風貌でよくみると結構顔が整っていた。モテそうだなーどこの大学なんだろうとか思っていると、乗換電車の到着を告げる放送が流れた。
いつものように、2両目扉横のわたしの指定席に座ると、いつものように、急激に眠気が襲ってきた。わたしはいつも終点の駅でおりるので、寝ていても乗り過ごす心配はない。そうしていつものように夢の世界へと誘われた。
どのくらい、電車に揺られていたのだろうか?
目が覚めるとわたしは、いつもとは違う見たことのない駅に着いていることがわかった。
夢の中なのかな?
でもやけに鮮明な夢だ。
混乱していると、ふと同じ車両にもう一人乗客がいることに気がついた。彼も目が覚めたのだろうか?思わず、視線があった。