16話 カイエン
星空フェスティバル当日の朝。街は明日への期待からか、いつも以上に活気に溢れているような気がした。
「いよいよかあ……」
京子の粋な計らいにより、わたしたちは関係者席を用意してもらった。わたし、篤、まどかの3人分である。
スタードームでは出演アーティストの物販が行われているらしい。まだ開演までは時間があるにもかかわらず、スタードームへの人の流れは止まる気配がなかった。
「そういえばね今日は奏君うちわ作ってきたのよ!」
まどかがとんでもない爆弾をぶち込んできた。そのピンク色のうちわには彼のドアップの顔と、I love 奏 というきらきらな文字がデザインされていた。
「あんたたちの分もあるから! はい!」
そういうとまどかは手提げ袋から、わたしと篤の分のうちわを取り出した。篤が顔をしかめているのがよくわかる。
「まどかさん…… ちょっと恥ずかしくない?」
「そんなことないわよ」
まあライブとかでこういうのよく見るし、普通なのだろうか、わたしのだけ、やけに電飾がいっぱいついているのが気にはなるところだが。
周囲を見ると、いろいろなアーティストのTシャツを着ている人が街中を埋め尽くしている。中でも、彼のTシャツはピンクとイエローとライトブルーと言うことで、黒色だったり濃い色のシャツが多い中、非常に目立っていた。
わたしも今日はちゃんと彼のTシャツを着てきた。というか京子に半ば強制的に着せられた。
「奏君の出番は夜の…… トリ前ね……!」
プログラムを見ると、10時から夜の22時までぶっ続けで15バンドくらいが順番に出演するらしい。
星空フェスティバルはいわゆる夏フェスのようなものであり、ライブだけではなく、スタードーム周辺にはたくさんのお店が出店し、賑わいを見せていた。露店を眺めているとかわいらしいギターのアクセサリを見つけた。
「これかわいいー」
わたしは彼に買ってあげようかなと思って、そのアクセサリを手に取ると、まどかが横から話しかけてきた。
「それダーリンにプレゼントするの?」
思わず吹き出しそうになってしまった。でも実際その通りだったから仕方ない。
わたしは少し恥ずかしかったが、うなずいた。
「うん…… 喜んでくれるかな……」
「きっと喜んでくれるわよ! 自信を持ちなさい」
まどかはわたしの肩をぽんとたたくと、篤の腕を無理矢理引っ張り、他のお店の方に歩いて行った。
「ナギサちゃん」
わたしを呼ぶ声がした。アラタだ。隣には化粧により、いつも以上に美人姿のナオもいた。
「アラタさん! アラタさんも来たんですね!」
「実は昔からライブが好きなんだよ。 日本にいたときはよくナオとライブに行っていてね。」
嬉しそうに話すアラタとナオは、彼のTシャツを着ている。
「今日は奏君のライブがどうしても見たくてね…… お店を休みにして来てしまったよ」
アラタは笑いながら言った。
アラタは開演からラストまで、参戦するらしい。すさまじい体力だ。アラタ、ナオと少し世間話をした後別れ、わたしは一度関係者席に向かうことにした。
星空フェスティバル開演まで30分を切り、会場のボルテージも上がっている。わたしは京子と二人で開演を待っていた。彼は出演者と言うこともあり、バンドメンバーと楽屋の方で待機しているらしい。まどかと篤はまだ来ていない。
「ナギサちゃんいよいよ始まるわよ!」
京子がそれを言った直後、DJのかけ声と共に、スタードームは一気に真っ暗になり、巨大ビジョンに映像が流れ出す。気づいていなかったが、どうやらスタードームには透明な屋根がついていたらしい。そして一気に真っ黒に変わる、現代よりも遙かに進んだテクノロジーを持っているようだ。まあ空飛ぶタクシーとかの時点で理解がついて行かないのだが。
「レディース!!!!!! エンドジェントルマーン!!! いよいよやってきたぜ!!星空フェスティバル!!! 準備は良いか おい!」
その言葉に、客席から一気にいえーいというレスポンスが代える。その迫力はすさまじいものであった。
フェスの諸注意を言った後、最初のバンドの出番となる。ざわざわとした会場を切り裂くように鋭いギターのディストーションサウンドが鳴り響く。それと同時に、観客の歓声は燃え上がる炎のように一気に大きくなる。そして、屋根が一気に透明になり、スタードームは一気に明るくなる。
わたしの目に飛び込んだ光景は、ステージで輝く4人と、スタード-ムを埋めつくす聴衆、それが全てであった。なんて圧倒的な光景なんだろうか。そしてフェスとはなんと熱いモノなのだろうか。
激しいロックサウンドに合わせ、客席も地鳴りのようなすさまじい音を上げる。そして最初のバンドの演奏は気づいたときには終わっていた。




