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アノマチ  作者: 惟名 瑞希
第1章 アノマチ
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8話 ハツデート

 その日、わたしはテレビ番組の収録を行っていた。あの騒動後、わたしに仕事のオファーが殺到し、いくつかの番組に出演させていただく事が決まったのだ。今日はそのうちの一つの収録だった。


 慣れないながらも、ベテランの司会進行のフォローでなんとか収録を乗り切ったわたしは控え室で疲れ果てていた。その様子を心配したのだろう、京子がわたしにある提案をしてきた。


 「明日明後日はナギサちゃんも奏くんもお仕事をオフにしたんですよ-!!! そしてなんとわたしの手にはこの街で一番有名なリゾートホテルのペアチケットが!!!」


 京子は不敵な笑みを浮かべながら続けた。


 「やっぱりリフレッシュは必要だと思うんですよね!!! ということで、どうでしょう? 奏くんとデートしに行くというのは!!!」


 わたしは思わず飲んでいた水をふきだしてしまった。


 デ、デ、デデデデ、デート……?しかも……ホテル?


 でもでもでも、ままま、まあ同じ家に住んでるわけだし……??いやでも部屋は違うし……


 焦るわたしを尻目に京子は続ける。


 「奏くんも最近いろいろ思い詰めてそうですからねー! やっぱりナギサちゃんと一緒に遊びに行くのが一番彼もリラックス出来るでしょう!! なんて名案なんでしょうか!!」


 マネージャーがそんなんで良いのかと内心思ったが、確かに、彼も最近疲れているようだし良い機会ではあった。余談ではあるが、後から聞いた話だと、彼も京子さんからこの話を聞いたとき飲んでいた水をふきだしたらしい。


 そうしてわたしたちの事務所公認(?)初デートが決まった。


 聞くところによると、中央駅から1時間くらい車で走った海沿いにそのリゾートホテルはあるらしい。


 流石に電車で移動するのはまずいと思ったので、少し値は張るが、タクシーを使っていくことにした。


 デート当日、空は快晴で最高のデート日和であった。


 中央駅から15分も走ると、郊外へと出た。ルート25とかいてあるその通りは、地平線まで真っ直ぐに続いているかのように直線が続く広い通りだった。車から見る郊外の景色は新鮮でまるで違う国にいるような感覚を覚えた。どこまでも続くような道に、どこまでも続いているかの様な海、そしてまばらに広がる住宅地、日本では見ることの出来ないような風景に、わたしは夢中になっていた。


 1時間も走ると、周りは平原が広がり、海側は一面白い砂浜が広がっていた。そして平原の中にぽつんと巨大な真っ白なリゾートホテルは建っていた。砂浜はちらほらと人がいたが、まるでプライベートビーチのようで、日本の海水浴場では考えられないような光景であった。


 ホテルに着くとわたしたちは早速チェックインをした。なんとスイートルームらしい。京子さんナイス!


 私自身スイートルームというものに泊まったことがなかったので、部屋に案内されるまで大変わくわくしていたが、部屋についた途端わたしは唖然とした。


 こ、これがスイートルーム……?


 それはパーティ会場の様な広さで、ホテルなのにいくつ部屋があるのか一目で把握出来ないような部屋だった。ベッドはお姫様ベッドといえば良いのだろうか、とにかくスケールが何から何まで違っていた。スイートルームはわたしの想像の遥か上を言っていた。


 彼も驚いたのだろう、口をあんぐりと開けて言葉を失ったような表情のまま固まっていた。


 スイートルームってすごい!!!


 部屋には客室露天風呂までついている。オーシャンビューって言うらしい。テレビも今まで見たことのないような、オーロラビジョンかと思うくらい大きなものだった。


 そしてこのリゾートホテルの推しは部屋だけではない。なんと温泉までついている。天国のような場所だ。


 わたしと彼はまずビーチに向かうことにした。どこまでも続くような砂浜の先にわたしたちが住んでいるであろう大都市が見える。しかしいつもの都会の賑やかさとは異なり、浜には数人の人の笑い声と波の音だけが響いていた。


 「せっかくだし泳ごうよ!」


 彼の方を向くと、彼はすっと視線を逸らした。照れているのだろうか?ちょっと不満におもったわたしは、無理矢理彼の腕を引っ張り水辺へと引っ張って行った。だってせっかく来たんだし楽しまないと損だよ!


 「えいっ!」


 いたずらに彼の顔に海水を飛ばすと、彼は吹っ切れたのか笑いながら


 「やりやがったなこんにゃろ」


 と水を飛ばしてくる。

 

 そんなこんなで海でひたすら水を掛け合った。小学生のようにはしゃいだわたしたちは泳ぐのにも疲れ、ビーチでくつろぐことにした。


 ビーチを照らす太陽は温かくわたしたちを包み、風も波の音を優しく運んでくる。なんだかこの街に来てから初めて心から楽しめている気がした。


 ビーチでくつろぐうちに太陽も傾きはじめ、周りはオレンジ色の世界へと変化しつつあった。


 「このまま、ここで暮らすのも悪くないかもね?」


 わたしが彼にそう訪ねると、彼も笑いながら


 「そうかもね」

 

 と答えた。


 「もし、このまま帰れなかったらどうする?」


 わたしはちょっと意地悪そうに笑みを浮かべ彼に尋ねた。


 「どうしようかな…… その時考えるよ!」


 彼はおどけたようにわたしの意地悪な質問をかわした。


 「きれい……」


 わたしたちは海へ沈んでいく、宝石のように輝く太陽を静かに見届け、ホテルへと帰った。


 ホテルではものすごい豪華な夕食がわたしたちを出迎えた。立派なスーツに身を包んだお兄さんが数人、見たこともないような料理を次々と運んでくる。口に入れた途端に、はじけるように濃厚な香りが広がった。こんな美味しいものは生まれてこの方食べたことがない。気がつくと出された食事はあっという間になくなっていた。


 ビーチ、食事とリゾートホテルを存分に満喫したわたしたちは遊び疲れ、部屋のソファで転がっていた。


 しかし、本日の楽しみはまだ残っていた。そう温泉である。


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新しく連載開始いたしました。マイペースにかいていこうと考えておりますので、お付き合い頂ければ幸いです。

動物のお医者さん、転生して今日からモンスターのお医者さんになりました!
よろしくお願いいたします。
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