プロローグ コノマチ
あなたの願い事、なんでも一つ叶えます
見知らぬ駅で駅員さんがただ一人、駅員さんは電車を降りたわたしと彼に近づくやいなや、そう告げた。現代とは思えないような大都会、キラキラした幻想的な夜の街はどことなく不気味さを放っていた。街は空に浮かぶ大きな満月に照らされていた。
突然、願い事って言われても……
お金持ちになりたいとか?いやでもつまらないしなあ……わたしが事態を飲み込めないまま悩んでいると、隣にいた彼は静かにこう告げた
「プロのミュージシャンになりたい」
駅員さんは静かに頷くと、お前の願いはなんだと言わんばかりに、わたしの方をじっと見つめた。彼も恥ずかしそうなそぶりを見せながらもちらっちらっとわたしの方を見てくる。わたしはなにか言わなきゃとますます焦り、必死になりたいものを探した。
焦れば焦るほど、くだらない考えしか出てこない。
そして、半分無意識だったのだろう、気がつくと小さな声で
「魔法が使いたい」
と呟いていた。呟くやいなや、わたしは自分のからだが熱くなっていくのを感じた。
「承りました! ようこそこの街へ!」
そういうと駅員さんは古びた駅の奥へと消えていった。ここはどこなのか訪ねる暇もなかった。駅員さんを追いかけようとするも、駅舎は真っ暗で鍵かかっていて扉は開かない。
「ここはどこなんですかね?」
彼もミュージシャンになりたいといったことを少し恥ずかしく思っているのだろうか、様子をうかがうような感じで話しかけてきた。
彼と少し話したが、結局現在の状況に関しては何一つ分からなかった。わかったことは彼は音楽が趣味の普通の大学生だということ、そして、彼もわたしも偶然同じ電車に乗り合わせていたことだけだった。さっきまで使っていたスマホは、故障してしまったのか真っ暗な画面のままうんともすんとも言わない。
「とりあえず外に出てみよう」
彼の提案に混乱していたわたしは頷くことしかできなかった。わたしの頭のなかは、ここがどこなんだろうと言うことよりも、むしろ魔法という言葉で埋め尽くされていたからだ。なんであんなことをいったのだろう?普通よく知らない人の前で魔法が使いたいなんて言う?しかも別に特段なにも変わってないし……穴があったら入りたい、そんな気持ちで彼と共に駅の改札をくぐり抜けた。