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我が初恋は花の姫に捧げる

三話完了予定です。彼には、是非とも頑張ってもらいたい作者です。

  昔、むかしの物語、ある時、ある場所、ある空の下、今日も今日とて賑やかに、笑いさざめく神の国、愛と恋とが世界を創る。


 夢と希望が、心をつくる。しかし今宵の主役『死神』は、愛しき姫を喪いて、嘆き悲しむこと数百年。


 そろそろ次の愛しき姫を見つけよと、花の宴を催した。彼の心を射止める乙女は、今、いづこ……



「ほぉれ、選びたい放題じゃぞ!可愛き我の娘達、精霊界の美人、美少女、海のニンフ達、集めに集めた!選り取りみどりじゃ!好きなのを持って帰れ!主君たる我が許す!」


 神様達が、まだ霊山キュロス山脈の頂きに、『創造の地』と呼ばれる神の国で下界の人々と近く暮らしていた時代、


 全ての神を率いる、全知全能の神は『主君』と称され、皆に愛されていたが、少々困った御方でもあった。


 そう、彼は無類の女好き、しかも年齢構わぬ上に、側仕えの者達は、すべからく美少年を集めているという、節操の無さ、


 彼の奥方、女神『生命を育む母』様におかれては、最早『ご病気、一度死んであそばせ』と最終通告されてる有り様。


 ……ほれほれ、胸の大きいのが良いか?ワシは小さいのも、大きいのも好きじゃのぉー、


 尻の大きいのも、小さいのもいいのおーと、鼻の下を長くして、嬉しそうに彼の女性観を話している。


 大広間に集う百花繚乱、あちこちに配置されている、大瓶に活けられた、色とりどりの花々よりも


 艶やかな、美しく装い咲き誇る女性達を眺め、今日の主賓である彼の義弟の『死神』にどれが好みかと、ウキウキしながら聞いていた。


「いえ、義兄上、私は興味はございません」


 黒い瞳に哀しみを宿した彼は、神界きってのイケメン『麗しの漆黒の君』として女性達の憧れの的、一族揃って美男、美女のと誉れ高い一族の長。


 彼の素っ気ない言葉に、主君はのけぞる様に驚く。


「ぬお!お前ほどのモテモテ顔の奴が、女に興味が無いとは!お主、そっちだったのか!では我が自慢の、美少年お小姓達のだれか、ぐぉわ!」


 ゴッ!青銅で作られ、美しく宝石類で装飾された酒器で、奥方の全身全霊の力で、後頭部を殴られる主君、


「ぬおおー!頭がくあん、くあん、するぞよー」


 その美しさが、神の国の中でも三本の指に入る彼の奥方が仁王立ちで、背後から全てにおいて、だらしがない旦那を睨み付けている。


「貴方!わたくしの真面目な弟に、ご自分のご病気を、お移しにならないで下さいませ!」


「し、しかし、奥、そろそろ、彼も新しい妃を迎えてもいい頃かと」


 涙目で、後頭部をさすりながら、主君は憤怒の表情の彼女に反論をする。


「それは良いお考えで御座いましてよ!でも、わたくし達女性達の事を、モノか何かの様に、扱わないで下さいませ!それに、貴方、何故か、ものすごく!ふしだらな空気が漂ってましてよ!」


 鋭く、突き刺さる様な言葉を放つ奥方、旦那はそれが胸に突き刺さり、しゅんとうなだれている。


「姉上、私の為に今宵の宴を、用意してくださった義兄上を、あまりお責めにならないで下さい」


 くっくっと笑いながら話す、姉夫婦の仲睦まじい様子に、笑いが込み上げる彼。


 そうであろう、そうであろうと身をのりだし、で、どの『おなご』にするのじゃ?と再び話を持ち出す、とことん女好きな主君。


 義兄の懲りない様子を目にすると、苦笑を浮かべながら、彼は立ち上がると、少し外の風に当たってきます、と場を離れてしまった。


 その寂しげな背中を見送った彼の姉、主君の奥方は、旦那に眼を向けると、ニコニコとそれはもう嬉しげに、咲き誇る物言う花達を眺めている。


 スパコーン!再び主君に奥方からの、愛のムチが贈られる。


「いい加減、おなごからお離れ下さりませ!それでも、神を率いる主君で御座いますか?あっちに、ふらふら、こっちでチョロチョロ!情けない!」


 ならば『おのこ』ならよいのか、と聞き返そうとした主君だったが、それを口にしたら最後、命の危機が訪れる事を察知し、


 とりあえず今は、大人しく頭をさするだけで終わらしておく。


 流れる音楽、さざめく笑い声、美しい女達、これに興味が無いとは、あやつはやっぱりそっちなのか?と主君は思いつつ、


 酒器を片手に玉座を降り、奥方の監視下の元、花園探索へと向かう。


 ――「義兄上も、よいお方なのだが、困った」


 死神の彼は、賑やかな神殿から少し離れ、庭園に植えられている、木立の中をゆるりと歩く。


 白亜の石造り、壮大かつ、華麗に造られている神殿から外に出ると、見上げる夜空は満天、綺羅に星が輝く。さわと吹き抜ける、花の香を含んだ夜風が心地好い。


 そして、その香に包まれている内に、彼の心の中には、先に旅立った愛しの妃、ケラソスの姿が蘇る。


 白き肌、流れる金の髪、緑の瞳、花のようなその姿。彼女は、美しき花木から生まれた精霊だった。


 薄紅色の小さな花を、たわわに咲かせる彼女、


 キュロス山で根を下ろしていれば、永久に暮らせる事も、可能だったかも知れないが、残念な事にその身は、人間達が住む、下界の森の中にあった。


 ――ある日の夜、戯れに下界の森の中を探索していると、夜の闇に、浮かび上がる様に花を咲かしている大樹と出逢い、即座にその美しさに心を奪われ、近づくと幹に手を触れた。


「美しき、ケラソス、そなたの名前だ、名も無き花よ、我が名を与えし君よ、今宵の出逢いを愛しく思う」


 彼は、心の動くままに大樹に話しかけ、寄り添う。


 そして、長い年月を生きてきた『ケラソス』もまた、名を与えられた事により、熱き想いにとらわれ、自然のままに動き出す。


 さぁぁぁと、彼の足元から風が立ち上ぼり、そよと花びらを散らしながら、美しき花木の精霊がふうわりと、光を放ちながら艶やかな姿を現す。


 白き肌、背に豊かに流れるる金の髪、桜色の頬、若葉に踊る木漏れ日のごとき明るい緑の瞳、薔薇色の唇。


 一目見るなり心を奪われ、ただ立ち尽くす事しか出来ぬ若き死を運びし一族の長。


 闇夜に出逢う、淡く光をまとう美しき精霊と、漆黒をまとう麗しい容姿の死神の彼。


 ケラソスは、その白き手を彼に差し出す。たおやかに微笑みながら、


 初めての恋に出会った寡黙な彼。彼は、突然わき上がった己の感情に戸惑いつつ、ドキドキと胸を高めらせながら、そろりと彼女の手を取る。


 見つめあう二人。やがて沈黙に、たえきれず彼は彼女には問いかける。


「愛しき、花の姫よ、この私の想いは、どう表せばいいのだろう。胸が高まり痛みが走る、そして熱く、何故だろう、とても幸せな心持ちだ、時が止まれと思う。このような気持ちは初めてなのだか」


 長い年月、彼女の元で人間の恋人達が寄り添う姿を見てきた彼女、微笑ましくいとおしく見守ってきた。


 優しく広がる枝には、小鳥達が睦まじく戯れ、花が咲き誇る時には、空を舞う虫達が賑やかに訪れてはいたが、そのじつ彼女はただ独りで、長きの時を大地と共に生きていた。


 ……今宵初めて出逢いし彼は、彼女に手を触れると、率直に心からの想いを伝え、名の無き花に、ケラソスと名を与え、いとおしくと思うと熱い想いを伝えてくる。


 今迄、美しさを称えられても『名前』を与えられた事など無かった彼女、


 想い想われる恋人達の睦言を、風に乗り彼女の元へと届いていたが、自らに告白された事など無きこと。

 

 花の精霊は深く心をひかれる。彼の前に、姿を形取るほどに心が動いた。


 そして優しく微笑みながら、純朴な彼に甘い声で教える、自身も同じ気持ちを抱きながら……


「それは『恋』というものでございますわ、わが君様」


 それから二人は、幸せに時を重ねていたのだが、地上に置いて、精霊として具現化出来る力を蓄える迄に、時を生きてきた彼女は、彼との時間は永久では無かった。


「初恋は、儚きものと申しましてよ」


 精霊、神において百年もただの一夜、ある時、地上に置ける大樹が寿命を迎え、その精霊である彼女は、


 出逢った時と同じ色の闇空の下で、彼に別れの言葉を述べる。


 そして、私達は、あわかたの夢の様な存在、なので、次にお逢いする時には、貴方様にふさわしい身体でお逢いしたいですわ、と残すとさらりと姿をけして逝った。


 ―――あれから、貴方を想い、待っている私はおかしいのでしょうか、ただ、死神として命の側近くに使えている私は知っている、だからこそ諦めきれない。


 花の香りを含む夜風に包まれながら、夜空の星達に手を差しのべ、そして誓う。


「ケラソス、貴方は最後、ふさわしい身体で私に再び会いたいと、そう言ってくれた。大樹にも命が宿っている。ならば私は待とう、望み通りに生まれ変わりし、花の姫を」


 ――貴方を想うと、夜空の白き月の光を、思い出す


 貴方の声を思い出せば、夜に歌うナイチンゲールが心に浮かぶ


 我の愛しき姫、ケラソスよ


 貴方は私の命、貴方は私の喜び、貴方は私の全て


 だから待とう、幾千年も時が過ぎようと再び生まれし花の姫を





















































































































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