第0話
“珠玉”が落ちた“歪み”からつながった世界を特定出来たという報告を受けたのは、
あの痛ましい事件から十六年も経ってからのことだった。
人の子であれば、赤子から青年まで成長するような時の流れであったが、
それは彼らの感覚でいえば、決して長い年月ではない。
十六年前の出来事も、普通なら「この間の出来事」と言える。
そう。普通ならば。
悠久の時を生きる彼らにしても、この十六年は長かった。
“珠玉”が消えてからというもの、彼らは半狂乱で“珠玉”を探し続けた。
この世のありとあらゆる場所を探し、そして見つからなかった。
その事実と目撃者の証言から、彼らは結論付けた。
“珠玉”は“歪み”から異界に飛ばされたのだと。
いくら彼らといえども、異界に飛ばされた“珠玉”を見つけ出すのは容易ではなかった。
それでも彼らは諦めなかった。諦め切れなかった。
世界同士は通常、関わりを持たない。
“歪み”などの偶発的な事象で持ってのみ、ごく短時間、ごく一部つながることがある。
渡ろうと思ってもなかなか渡れるものではないし、
たとえ渡ったとしても無事である保障はない。
彼らはそう知っていたが、一縷の望みをかけ、捜索を続けた。
“珠玉”が飛ばされた世界を特定出来たのは、まさしく奇跡だった。
執念が呼び起こした奇跡かも知れない。
そして“珠玉”の飛ばされた世界と再び重なることが分かったのは、
もはや運命といって良い。
彼らは狂喜した。
その時は十日後。
十六年に比べればあっという間の期間だというのに、
彼らにとっては十六年より長い十日だった。