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3、赤い魔法、黒い猫

「一番大事なのは、すきを突く事です」


「? 」


「油断させたり、意識できない場所や瞬間を知る事です」


「? 」


 ゴブリンが僕の代わりに答える。もちろんヒカリは刀に手をかけている。刀を抜いていないのは、そのゴブリンが緑色の両手を挙げて無抵抗を示していたからだ。

 ヒカリはゴブリンの言葉の内容にこそ反応出来ていなかったが、身体は油断なく準備を整えていた。




「やあ、バロック。久しぶり、僕だ、今はクロって呼ばれてる」


「お久しぶりです。クロ様」


「申し訳ないが、少し休ませて欲しい」



 ゴブリンと話しだした僕を見て、ヒカリはすぐに落ち着きを取り戻す。てか、彼女の凄いところなのかな?


「ヒカリ、隠れさせてもらうつもりで、ここに逃げて来たんだ」


「ゴブリン? 」


「はい、そうです」


 バロックが答える。バロックは人間と比べて少し小柄で、肉付きは薄く骨張っていて、白い髭があって、服は着ているが、そこから覗く肌は緑色だった。


「いいゴブリンだ。人間にもいい奴と悪い奴がいるだろう? 」


 ヒカリは頷く。


「こちらへ」


 バロックは僕達を岩場の奥、隠された洞穴に案内してくれる。

 洞穴を奥に下って行くと、地下の少し広い空間に出る。洞穴内は入り口付近を除いて、光苔が生えていて、薄い明かりを発している。何人ものゴブリンがいて、他のゴブリン達も僕に気付くと、声を掛けてくれる。


 やっぱり落ち着くな。こういう場所も僕にはもうほとんど残っていない。


 ひとつの部屋、扉なんかないが、御座か敷いてある岩肌がそのまんまの所に通され、僕達は休ませてもらう。部屋には僕とヒカリとバロックだけ。他のゴブリン達は挨拶以外せず、僕達だけにしてくれた。


「そろそろ、説明してね」


「申し訳ない。ヒカリがこの世界『カテーナ』に来てから、ほとんどまともな説明が出来てない。詳しく話すよ」


 タイミングが悪くて、いきなり実戦。まぁ、おかげで少女を救えたけど。


「僕が以前から仲良くしてるゴブリン達で、ナパート族っていうんだ。で、こちらがバロック」


「バロックと申します」


 バロックにも紹介する


「僕が召喚したヒカリ。カテーナに来たばかり」


「よろしくね、バロックさん」


 さて、何から話そう。考えているとヒカリが尋ねてきた。


「気配を消す魔法とかアイテムとかあるの? 」


 そこから聞くのか?


「バロックも達人なんだ」


「達人とまでは、エン……」


「クロだよ」


「クロ様に教わったのですよ。ちからなき者が勝つ為の方法を」


「どういう事? 」


「自分より圧倒的に強い敵を倒す方法のひとつさ。さっきバロックも話してたけど、彼は気配を消す達人なんだ」


 ヒカリの感覚がよく理解できない。異世界に来てしまった事や、異世界であるカテーナがどんなところかには興味が湧かないのだろうか?

 例えば、ゲームや小説なんかでは悪役である事の多いゴブリンが仲間らしい事とか。


「ヒカリがこの世界で生き残る為に、何かを成し遂げる為に、出来たら僕の願い――復讐を果たしてもらう為に、この世界『カテーナ』の物理法則というか……自然法則かな、それを説明するよ」


 ヒカリは静かに頷く。


「僕はかなり強力な魔法が使えた。特に火を操る魔法」


 部屋に小さな炎を灯し、すぐ消す。収穫祭で、多分伯爵が見せようとした魔法だ。


「赤魔法と呼ばれてる。火の矢を放つ事も、炎の壁を創る事も、イーヤムの街程度なら一瞬で灰にする事もできるくらいにね」


 僕はまぶたを閉じる。あの時の事を思い出す。


「それでも負けるんだ、油断したらね。……助けたい人達を護れないんだ。……悪人どもから」


 少し言葉がおかしい気がする。文章になってない? いや、それだけあの時の事を過去に出来ていないんだ。


 バロックが補足してくれる。


「あれを、あの時の事を油断とは申しません。ただ裏切られただけです。そして、確かにそれは隙を突かれた事になりました」


 バロックの言葉を受けて、僕が続ける。


「魔力は使ったら減るんだ」


「ゲームでもそうだからわかるよ。なんとなくね」


「減る量が半端ない。そして回復する量が少なく、時間がかかる。それに一定量を越えて魔力を使った場合は回復すらしない」


「? 」


「ここはそういう世界なんだ。ゲームならマジックポーション飲んだりすれば回復するけどね。そんなのないんだ。魔法使い達と戦う時は、二回三回と魔法を使わせて、こちらが生き残れば勝ちと思っていい。魔法でまともに攻撃されて生き残るのはそもそも難しいけどね」


 そして、僕は大きなため息をつく。


「僕ははっきり言って超一流の魔法使いだった。だから二回三回当たり前、何十回何百回と魔法を使えるくらい魔力がチートだったんだ。勿論、極大魔法ならそんなに数打てないし、魔力を戻すのにどれだけの生命が必要かわからないくらい」


 ヒカリは真剣に話を聞いている。自慢話にも聞こえるだろう、ここまでの話を。


「で、無敵だぁ、なんて思ってたわけ。人間と敵対する強力な魔族と戦った直後、魔力が尽きたところを味方に裏切られて負けるまでね」


 ヒカリはつぶやく――


「坊やだから、だな……」


 ヒカリの実年齢っていくつだったんだろう?









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