8、義賊の正義
皆既月食に、生け贄と再生の女神の話なんてあるんだ。
まあ、この世界の文明水準で考えると皆既月食は不可思議で、何かの予兆を示すとか、神話の題材になってるとかあり得る話だ。もちろんこの世界の皆既月食が地球の皆既月食と同じとは言い切れないが。
「さて、話を再開しようか」
メナスは再びみんなを見回してから、話始める。
「遠征を今回行い、ナパート族を倒す。倒した事にする。で、戦勝の報告に帝都へ向かう。初代皇帝に、昔から因縁のあるナパート族を完全に滅ぼしました、とね。滅ばした事にすれば、お祝いに伺ってもおかしくない」
僕とグレゴリウスは目を合わせる。
「そう、今回のお膳立てをしてくれるのはスッチーデント公爵なんだ」
あの男の息子。戦争の天才で、ついさっき僕達が狙おうとしていた公爵。父親殺しをしようと言うのか?
「とりあえず私達を陥れようとして、というのは無いでしょう」
「今、僕達を捕まえにきても良いわけだしな」
メナスは笑いながら答える。
「初恋だそうだ」
「なに?」
「いや、初恋の相手さ」
「もったいつけずに教えてくれ」
「公爵の初恋の想い人がアータルの娘だったそうさ」
うーん、本当か、それ?
初代皇帝の息子か……何番目だっけ?
でも、普通にアータルの娘と知り合うなんて、きっとあの男が皇帝になる前だろう。幼い頃の想い出か?
「現皇帝には特に恨みはないらしいが、邪魔するようなら殺してもいいそうだ」
初代皇帝の愛する有能な息子を無き者にするっていうのは、僕的にかなりイイ復讐だと思ってたが、公爵自体に恨みはない。
僕的にはね。
グレゴリウスはどうだろうか?
「こちらの組織には2つの道が用意されてる」
店にいた人間にとっては一番大事な部分かも知れない。
「公爵の裏の仕事を専門に請け負う組織になるか、カラハタスの裏社会を公爵の意図を酌んで取り仕切るか。どちらかだ」
店にいる組織の人間は四人。マスターに、洋琵琶を弾く女性、パックに、グレゴリウス。これが全てと言っていた。お互いに顔を見合わせていたが、グレゴリウスのみ瞼を閉じている。
「ブラッドムーンと公爵の関係は? 」
そうだ。ブラッドムーンだって、義賊と呼ばれているが盗賊は盗賊、裏社会の人間だ。裏社会の人間と公爵の関係って――
「実は長いこと協力関係だ。法で取り締まれない悪徳商人や貴族どもの情報をもらう、こちらからも情報は出すし、資金提供も今はしている。使いきれないお金を寝かせておいても仕方ない」
そら捕まらないよ。腕は間違いないが、バックに有力な貴族がついているんだ。このカラハタスから必要なものは盗んで、残ったカラハタスそのものは公爵に渡す、そんな事が各地でも起こっていたかも知れない。表では善政を行い、裏から敵対勢力を引き摺りおろして……あの男そのものにも見えてくるくらいだ。
「まあ、悪い話じゃないよ。どちらにするかは今すぐ決めなくてイイ。ゆっくり話し合って決めるんだな」
「メナスにそんな決定権あるの? 」
「あるよ」
そういって残りの酒を飲み干す。
「ただ皇帝暗殺をするか、しないかだけは決めてくれ」
僕はヒカリを見てみるが、その表情には答えがあった。舞台はどんな所になるか、どういう風な作戦になるか、初代皇帝がどんな男なのか。想像するだけで興奮が止まらない、って顔で僕に教えてくれていた。
「ヒカリ、決めていいよ」
「やるよ」
即答だった。
「あたしからの注文はひとつだけ。計画を始める前に公爵と一度会わせて」
ここまで軽快だったメナスの表情が鈍る。
「表に出ることは嫌いらしいんだ」
これだけの計画をやるのに、顔合わせなし? そこまで信用できない奴とこんな計画をするつもりなのか?
「ヒカリ、独りなら応じるように説得しよう。エンダラ様は遠慮してもらう」
メナスは僕に、それでもいいか? と顔を向ける。プリム人からしたら僕は伝説の霊獣ではなく、悪の化身だからね。わからなくはない。
「大丈夫、あたしだけで会いに行く」
もう僕の言葉を待つ気もないらしい。




