4、臆病者の正義
スッチーデント公爵を暗殺出来るか出来ないか。そこが問題だ。先走って思考を進める僕にヒカリの声が聞こえる。
「いいでしょう。公爵っていうか帝国のやり方が嫌いだから、その話にのるわ。クロ、いいね? 」
僕に確認を一応してくれるのは嬉しいかな。ヒカリに僕の願いは叶えて欲しい。ただ強制とかは嫌いだし、今はヒカリの方が僕より強いだろうし、ヒカリのやりたい方向が僕と同じなら助かる。
「もちろん。ありがとう、ヒカリ」
そう答えながらも不思議に思う。ヒカリの本当にやりたい事って何だろう?
僕の復讐には乗ってくれている。逆に僕の覚悟を問い質したくらいだ。ヒカリはもしかしたら『正義の味方』より復讐の手伝いがしたいのではないか?
ヒカリはさっそくグレゴリウスに公爵の居場所を尋ねている。
「北への遠征を本格化させるにあたって、北部のゴブリン、ナパート族を黙らせるらしいです。公爵はいつも陣頭指揮はされませんが、前線に近い位置には来ていて大まかな指示は出しています。ここカラハタスに来ていて白邸にいると言われています。」
僕は公爵の狙い、ナパート族討伐に焦り、口を出してしまう。
「ナパート族のアジトはわからんだろう? 」
「何か手があるようです」
どんな手を使う? ナパート族は会戦なんてしない。というかまともには戦えない数だ。ゲリラ戦しか出来ない。そんなナパート族を黙らせる方法。戦争の天才と言われてる奴がアジトがわからないゲリラ相手に戦いを仕掛けるのか?
もちろん、僕はミリタリーオタクでも、歴史オタクでもないからよくわからないが、どんなに国力があろうと、どんなに軍事力があろうとゲリラを相手にするのは大変じゃないのかと思う。
いや、あれかこの世界ではゲリラ戦とか、今まではなかったのかも。それで戦争の天才は簡単に考えているのかも知れない。
「もうひとつグレゴリウスに質問がある。どうやって僕の名前を知ったの? 」
グレゴリウスに確認する。ここが一番大事だ。
「二つのルートからです」
二つ?
ひとつはナパート族だろう。僕がカラハタスに持ってる拠点のひとつがここだし、何か連絡したい事があったのかも知れない。
もうひとつは?
「ナパート族とブラッドムーンからです」
「どっちが先? 」
「ブラッドムーンです」
ナパート族からグレゴリウス、グレゴリウスからブラッドムーンに漏れたという形にはならない。
「クロ、そこ大事なの? 」
ヒカリは大分機嫌が戻ってきている。
「ブラッドムーンがどこから情報を手に入れたか気になる」
「まあ、そうだけど……」
「敵か味方かわからない」
グレゴリウスは慎重に話す。
「ブラッドムーンからヒカリさん達への金貨500枚をお預かりした時に、クロ様がエンダラ様じゃないかと尋ねるように、反応を探っているように言われました」
確信はないか、グレゴリウスにかまかけたかってところだろう。
「その時は私も知らなかったのでご安心下さい。その二週間程後にナパート族のバロックさんがいらっしゃって、ヒカリ様とクロ様と連絡が取りたいと言われて……」
「その時に聞いたわけか」
「ゴブリンが何故おふたりを知っているのか、何故連絡を取りたいのか尋ねました。勝手に情報を漏らすわけにいきませんし、その頃にはおふたりを私自身高く買っていたので」
ふむ、グレゴリウスの対応に不自然さはないね。ヒカリはじっと彼を見つめて、彼の言葉に嘘がないかを確認している。
「なるほど。グレゴリウスはバロックから話を聞いて、僕がエンダラだと当たりをつけて、今回の申し出にかけたって理由か」
僕が伝説の霊獣であり、ナパート族が味方になれば公爵に対応出来ると考えた。そんなところだろう。
この都市を治めていたカイン伯爵ではない。スッチーデント公爵が敵になるのだ。ヒカリの強さをある程度予測し、僕がエンダラであって初めて公爵を敵にした図を描けたのだろう。
グレゴリウスは初対面の時から慎重で有能に見えた。その男が決意したんだ。それくらいでないと、僕も組み先として選べない。
その時、雨夜亭の扉をノックする音が聴こえる。
「お久しぶりです。ヒカリさんとお話がしたかったんですよ」
聞き覚えのある台詞と声。扉をノックするまで存在を感じさせない男。
こいつは間違いない。アイツだ!
僕は緊張する。このタイミングでこの場所でアイツがノックしている。これは――。
ヤバいかも。




