2、悪党達の正義
遅くなりました
「お久し振りです。いやー、本当に凄い方だったんですね」
軽薄な、いや、軽快な口調、愛想のいい表情、こんなものを持っていたら、幸せな人生が送れる気がする。
弦楽器が奏でる調べが物悲しくはあるが、それはこの酒場にぴったりな洒落た感じでもあり、そこに立ち、僕達を迎える青年の佇まいにも華を添えている。
「どうぞ、中へ」
とりあえず僕達全員で店の中に入る。
「可愛らしい猫ちゃんと、そちらの方もお連れ様ですか? 」
「何か食事を出してあげて、連れと猫ちゃんに」
ヒカリは、僕とフードをかけて耳を隠している美女に座るよう言って、青年に注文を頼む。
ヒカリは人付き合いを好んでするタイプではないようで、此方に来てから必要最低限の、仕事以外で知り合いを作ってなんて事はない。独りが(僕は除く)苦にならないみたいだった。美女にも知り合いはいなかった。つい昨日まではいなかった。
「パック。ちょっとお願い事があるんだけとな? 」
「出来る事でしたら、なんなりと」
この店、凄くいい店なのに客がいない。最初は僕達との交渉の為に人払いでもしたのかと思ってたけど、そうではないみたいだ。今日何か僕達が来る事なんて予測できない。
会員制のクラブとかってこんな感じ何だろうか? いや、政治家が利用する料亭とかかな?
日本ではそんな物とは縁がなかったので、あまり理解ができない。
「人を匿いたい。この街の中に」
「それだったら、後でグレゴリウスさんをお呼びしますよ」
ちなみに僕には雨夜亭のマスターから食事が出された。猫には豪勢な食事が。この老人も間違いない、組織の人間なのだ。
「前回の仕事の報酬が残っています。さらにお預かり物も。一度、グレゴリウスさんが会いたいと言ってましたし」
ウサギ耳を隠している僕達の連れにも、それはそれは立派な食事が出されていて、落ち着いて食べようとしていたが、フォークの扱いがどんどん荒くなってきている。
「ここで待っててもいい? 」
「はい。――お預かり物さえ後でいいなら」
「あー、重いかな。預けっぱなしにしとくわ。多少使ったとしても怒ったりしないから大丈夫よ」
洋琵琶を弾いていた女性もカウンターで酒を飲んでいる。マスターはグラスを拭いている。グレゴリウス待ちだ。
「ヒカリさん、もしかして結構噂が出てる事知らないんですか? 」
「知らないよ」
「黒猫を連れた賞金稼ぎ。師匠から受け継いだのは、隠しきれない剣の腕と、可愛らしい黒猫。魔物を切り、悪人を切り、毎夜酒場で喜びを分かち合う黒髪の美少女――」
僕は酒にむせ混んでしまう。皿に酒を注いでもらっていた。
「パックは吟遊詩人でもやってるの? 」
ヒカリは角砂糖を舐めながら、蒸留酒をチビチビとやっている。彼女の最近の飲み方だ。
「ちょっとでも戦場に出たことある者や荒くれ者にはヒカリさんの剣気は丸わかりだとの話で表でも裏でも話題ですよ」
「盛りすぎ何だよ、噂話は」
「ここの近くの村まではそんな噂話があります。ただカラハタスに入った話はないですね? 剣気抑えてます? 」
そう、ウサギ耳の美女を伴って、この街に来る事になった僕達は目立ちたくなかったのだ。ヒカリは身体から溢れる出る魔力を制御している。普段溢れさせ目立ち捲っているせいか、それを隠すだけで意外と気付かれないようだ。
「彼女――ツキヨミって言う、匿いたい人なんだけど、彼女がいるからね」
「内緒ですけど、訳ありな奴ばかりですよ。ここにいるのは」
「そんなものかもね。裏組織だし」
パックは首を振る。
「もうね、残ってないんですよ。もちろん伝手はあります、残ってます、客もね。でももうこれだけ何ですよ」
「どういう事? 」
店の奥の扉がゆっくり開く。
「私が直接お話します」
金色の髪、鳶色の瞳。身体着きは小さいが、今日は以前あった時より大きく見える。成長期だから? いや、背筋を伸ばした堂々とした姿勢か?
「もう賭けに出るしかないんです」
グレゴリウスの言葉には隠すものは何もないと色がはっきり出ている。
落ち着いているのは変わらない。だがやはり以前と何か違う。
「で、私が直接話すべきはヒカリさんですか? ――それともエンダラ様ですか? 」
僕の元いた日本での名前は遠藤。僕の名前を初めて聞いたゴブリン達――ナパート族は僕の名前をエンドウではなく、エンダラと呼んだ。
ナパート族に古くから伝わる神話に出てくる霊獣の名前と同じくして呼んだのだ。
それをグレゴリウスがはっきりと僕だと知って、僕に話しかけてきた。
さて、殺すべきなのか? 生かすべきなのか?
この裏組織のボス、この悪党をどうするべきなのか?




