4、伝説の刻
「その女の生き血が必要なんだよな? 」
海賊ゴブリンの王は、自分の前に跪く女を舐めるように見つめる。
「あ~、そうだ。だから連れてきた。俺には必要ないが、お前には必要なものだろう? 」
「わしにも必要はないぞ。男爵の手元になければそれでいいんだからな」
交渉になってないぞ! 奴等からすればヒカリの生死は関係ないんだから。メナスの野郎、下手くそもいいとこじゃないか!
「そうか? お前が人間を食べるのが大好きだって聞いたぞ。生きたまま内臓を喰らうのが特に好きだって事もな」
メナスはヒカリの首に剣をあてて告げる。
「お前が強くなれたのはヴァンパイアのように人間の女の血を吸い、生きた内臓を喰らい、殺し続けてきたって事は調べてあるんだよ。これだけの少女を目の前にして、生き血は必要ないのかい? 」
「何を言ってるんだ? 」
「約束を破れば、この少女は俺が殺す。それから俺達とお前達で殺しあいさ。少女の生き血は絶対に手に入らないって事だけは確かさ」
メナスの美しい煌めきを放つ片手剣に血が彩り始める。
「待て。必要はないが、取り引きをしないとは言ってないぞ。すぐに『海神の紅い実』を持って来るだろう」
男爵に勝つ事も目的だろうが、それ以上に生き血を欲しているのか?
わからない。
何故、生き血をそんなに欲しがるのか?
何故、メナスはゴブリン王がそうすると自信があったのか?
いや、わかったぞ!
ゴブリン王は、生き血を吸って、内臓を喰らって、敵を殺した時に強くなったのをたまたま感じたのだ。生き血なんて、内臓なんて必要ない。生命を奪えば強くなる。だが、それを知らなければ、その儀式を行わないと強くなれないと勘違いしていてもおかしくない。
儀式を行っても生命を奪い、強くなるのは間違いないのだから。
そして、メナスはゴブリン王の行動、儀式を知っていたんだ。
玉座の間といえ、洞窟の大広間でしかない。水滴の落ちる音が寂しく響いている。立派なのは玉座だけ。横に並ぶゴブリン達の姿は整然としていて、精鋭としての美しさは感じる。百名に少し届かないくらいか?
対して、僕達の方は『朱殷の鎧』の鎧そのものには美しさがあるが、20名に整然さはなく、傭兵なのだというのが良くわかる。
偽クレメンスがただ異彩を放っている。見た目は一番傭兵っぽいのに所作が一番美しい。
メナスは局面場面で演じわけているのか、今一、人となりがわからない。
海賊ゴブリンの王は巨体を大きな玉座に沈ませている。余裕を見せる為か、油断しているのか、それはこの際どちらでもイイ。強い相手を確実に殺すなら、不利な状況に相手を追い込むべきなんだ。
ゴブリンシャーマンが、紫の上質な布地で覆われた丸い玉を持って表れる。隠されたままでもその魔力が本物であることを証明していた。王の横に立つと、彼は頭を下げて、布地を取る。
不思議な宝石だった。大きさは鶏卵くらい。そんな大きな宝石は、透き通るような美しい海、そしてその海中に炎を宿している。光の当たり方で中央の紅い煌めきが揺れる。
敵味方すべての視線を奪う、その宝石の名は『海神の紅い実』――海を産み出した炎と言われる伝説の宝。
あっ、これはやっぱり読み通りの展開だわ。
こんなん金を幾ら積もうが、美女を何人並べようが、絶対渡すわけない。僕達同様に最初から相手のモノを奪おうとしか考えないわ。渡すわけがない。
ゴブリンシャーマンは宝石を持って僕達に近付いてくる。
メナスもヒカリを引っ張り上げて王に近付いていく。
メナス自身で連れてくとは、相当な自信だな。偽クレメンスも腕は立つだろうし、信用もしてるだろうに……。
偽クレメンスが秘宝を手にした時、ヒカリも王の手に渡る。
王は立ち上がり、右側にいたゴブリンから巨大で凶悪なメイスを受け取ろうと手を伸ばす。だがメイスはゴブリンの腕ごと床に落ちる。一斉に攻撃を始めようとするゴブリンの猛者達。ゴブリンの腕を切り落としたメナスはそのまま王に斬りかかる。王はその脇腹でその片手剣を止めて、腹の筋肉で挟んだまま、メイスを引き上げようとする。
縄に縛られていたヒカリの足が王の右眼に突き刺さる。ヒカリは縛られたまま、身を翻して、オーバーヘッドキックを決めていた。王はその足を掴もうとするが、右眼に突き刺さって止まった足を軸にして逆さ吊りの状態から腹筋だけで身体をお越し、手に隠し持っていたナイフを王の左耳に突き刺す。
王が身体を崩した瞬間に今度はメナスが片手剣を腹から取り出し、王の左眼に突き刺す。そして、ヒカリは王の大きな口のなかにナイフを刺し入れる。
大きな叫び声が響き渡る。




