3、最良の奴隷商
ヒカリの発言『楽しめたらね』は、何か意味があるのかな?
努力すれば強くなれる? ある程度はね。確かに努力しないよりはまし。でも、兵士になって生き残れるかは別だ。
ヒカリは僕を見て微笑む。
「何で強くなりたいの?」
「カッコいいから」
チビッ子の発言を聞いて、また僕を見て微笑む。
「とってもいいと思う。復讐とかなら楽しめないもん」
ヒカリは僕に喧嘩を売ってるみたい。僕の執念や情熱を否定してくれるわけだ。いろんな経験をすると、夢や希望が簡単じゃないとわかる。それでもヒカリは、これまでそんな僕のやり方に乗ってくれたのに。
ヒカリはチビッ子に手を振って、馬車を再度尾行する。
「クロ、怒ってるの? 」
「別に」
「楽しめたなら強くなれるなんて思ってないよ」
ヒカリは僕の方には目を向けずに続ける。
「でもチビッ子にはそう言ってあげたかっんだ。カッコいいから」
どことなく恥ずかしそうに言う。
「正義の味方はさ、チビッ子にも嘘ついていいと思うよ。叶うかどうかは別として夢を奪うのは、自由を奪うのは悪だと思う」
「そんなもんかな? 」
「汚い手段を使う正義の味方が夢を語るって、素敵じゃない。それにね、強くなれるかはわからないけど、楽しめたら、幸せにはなれる」
「とりあえず黒猫流はやめてね」
馬車が一軒の屋敷に入る。奴隷商の屋敷かな。
「中の様子を見て、ここでどうにかするのか、男爵様のとこでどうにかするのか決めよう」
ヒカリはそう言って、屋敷に入って行く。
この世界では、多くの国で扱いは違うが、奴隷が存在し、奴隷商なんかがいる。
「これで荷物運びに良さそうなのはいないか? 」
金貨を10枚程入れた革袋を見せながら、入ったところでいきなり話出す。
屋敷に入ったところにはカウンターがひとつ。そこに綺麗な身なりの男がひとり、そばにいかにも用心棒的なのが三人立っていた。綺麗な身なりの男は自分が主であると言う。優しい顔をしていて、僕が知っている奴隷商の中では一番ゆったりした雰囲気をしている。
「買えなくはないですが、今、フィート男爵領では奴隷が品薄で高めなんです。それをご理解していただけるなら」
つまり金貨10枚で買えるが、他の地域に比べて品質が落ちますという意味だ。
「見て決める」
「どうぞ」
そう奥の大部屋に着くと、10人くらい出てくる。老若男女いろんなタイプがいたが、どの人も一長一短ありそうに見えて、逆に値段が適正であるように思えた。
もちろん、今回は本当に買うつもりではないので、一番見たかったのは健康状態とその扱われ方だ。
「みんな血色がいい」
「ありがとうございます。フィート男爵領で奴隷を買えば健康面については絶対に損はないですよ」
「なるほど」
少し時間をもらった上で、今日はピンと来ないと屋敷を出てくる。
どの奴隷達も本当に健康的に見えた。力持ちで、荷物を何でも運べるってタイプはいなかったけど、それは値段の問題だろう。新しい痣なんてモノはひとつもなかった。付け加えると目付きがみんな穏やかだった。
馬車に乗っていたあの茶髪の男の子はいなかった。来たばかりだろうし、荷物運びに向いているとも思えない。
今回は噂通り手厚く奴隷達を扱ってそうな事が確認出来て良かった。いや噂以上に思えた。
残念だったのが、悪人殺して助けるというシナリオが出来ない事。小悪党を倒して強くなって行く方法が今回は使えない事。
正義の味方をやって行くにはとんでもなく強くならなきゃ行けない。それには雑魚悪人が大量に必要だ。
「海賊ゴブリンどもの船を魔法で撃破するのは難しいの? 」
「うーん、一隻なら難しいとまでは言えない。それなりの魔法使いなら出来る。何隻も、何度もってなると難しい」
「クロは? 」
「今の僕? 昔の僕? 」
「ははっ、とりあえず今かな」
「一隻なら出来る」
「そんなもんか」
「魔法技術は高いけど、絶対的な魔力量が減っちゃったの! 」
この世界の魔法は戦車の砲撃や戦闘機のミサイルくらいなら威力は再現できるだろう。ミリタリーオタクじゃないから詳しくわからないけど。
ただ現代の兵器との一番の違いは弾切れに関して。弾は用意出来れば問題ないが、魔力は保管することが出来ないし、回復はゆっくりだ。
「魔法使いって何人くらいいるの? 」
「多分、帝国では貴族以外使える人はほぼいない。船一隻壊せる魔法使いになると貴族でも少ない。名のある魔法使いくらい」
「そんなに少ないんだ」
「だから男爵は魔族に疑われたのさ。調査依頼の主は公爵かもと思ってるよ」
「スッチーデント公爵? 」
「そう」
スッチーデント公爵。カラハタスの新しい領主だ。帝国の良心とも呼ばれる善政を領地で行っている。軍人としてもいくつもの戦果を上げている。
「帝国軍人として強さとその限界を知りたいってところじゃない? フィート男爵の」
男爵が錬金術師だったと聞いて、新しい魔法の使い方を作り出したかもと思っている。そうでなければありえない。




