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俺って正直、弱すぎね?  作者: たつのおとしご。
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第8話 鬼気迫る



うわっ、もうこんな時間か。


そろそろ家を出ないとバイトに遅刻してしまう。


仕事に遅れてはいけない。

それはもちろんのことだが、1番最初から遅刻するというのは職場に対して喧嘩を売っていると思われてもしかたのないことだ。


カフェで売り買いするものは飲食物だけで間に合っている。


「おーい、 そろそろ行く準備しろよー」


俺は廊下に出て階段の下から2階へ向けて呼びかける。


はーい、という声とともにパタパタと足音が聞こえてきた。


俺はリビングに戻りコップにいれておいたお茶を一気に飲みほした。


よし、初仕事気合いいれていくぞ!


セシルと柊は準備を終え、1階に降りてきた。


「すみません……遅くなりました。」


柊が手をからだの前で重ね、少し俯きながら言った。


「気にすんなって、バイトに遅れなきゃ問題ないんだから」


「何もたもたしてるのよ、早く行くわよ」


セシルは、俺が柊に簡単なフォローをいれるのとほぼ同時に意気揚々と言う。


「おまえは少しくらい申し訳なさそうにしろよ」


別に謝って欲しいわけではない。

だが、あそこまで反省の色がないとなると、なんだか腑に落ちないのだ。


実際のところは遅刻するような時間でもないし、そこまで気にしてない訳だが。


俺たちは家を後にバイト先のカフェへ向かった。


日曜日の昼と言うこともあり、駅は非常に混んでいた。


おそらく誰かと待ち合わせをしているであろう女の子がケータイを片手に柱にもたれ掛かっていた。


他にも、家族連れや若いカップルなどいろんな人がいた。


と、こんな所で、もたついていてアルバイトに遅れたらもとも子もない。


俺たちは早々に電車に乗り込んだ。


車内は都心部に向かう人達で混みあっていた。


車内アナウンス


グラトニーの事について何か話をしようと思っていたが、人が多く出来そうもないな。


「そういえば、二人とも今の生活には慣れたか?」


俺は簡単な世間話でもしようと思ってきいてみた。


「私はもう慣れたわ!」


セシルは得意気に言った。


「私も大分慣れました……けど、私まで一緒に居候させてもらっちゃって、……あの、すみません」


苦笑いを浮かべつつ言った後、柊は俯いた。


「気にする事ねえって! まだ部屋は空きもあるし、セシルだって俺と二人ってよりは柊もいた方が随分と過ごしやすいだろ」


俺は煩わしさが一切ない事を伝えた後自嘲げにそういった。


「すみません」


その顔からは不安の色はなくなっていた。

彼女の口癖のようなものなのだろうか、しかし、その言葉は感謝の言葉に聞こえた。


「前から思ってたんだけどさ、こういう時は“すみません”じゃなく“ありがとう”って言えばいいんだよ。その方が言われた方は気分がいい。」


俺がそう言うと、柊はパッと顔をあげる。

一瞬目が会ったかと思うと俯いてしまった。


数秒後、また彼女は視線を上げ、俺の目をしっかりと見据えた。

そしてやわらかい笑顔で言った。


「ありがとうございます」



「お、おう。」


俺は斜め上辺りをみて素っ気なく応えた。


その感謝の言葉に対する応答が少しばかり遅れてしまったのは、きっと、彼女がいつもはあまり口にしない言葉を聴いたことで戸惑ったせいだ。


なんて、思ってみたが自分の顔に熱が帯びている事を考えると、どうやら彼女の笑顔に少しの間、目を奪われていたらしい。


その事を誤魔化すようにセシルの方に目線を移した。


すると、なんとも気にくわないという顔をしている。


眉尻は上がり、口を尖らせ固く結われていた。

腕は胸の前で組まれていた。


「せ、セシル……さん? もしかして……怒ってらっしゃる?」


「しらないっ!」


そう言うとすぐにふいっと、そっぽを向いてしまった。


俺、何か悪いことしたか?



……わからん。



そんなこんなで、アルバイト先のカフェに到着した。


今日は昨日とは違う出入口から入店する。

出勤と言った方が正しいか。


「こんにちは、今日はよろしくお願いします」


俺は3人の従業員に向け、挨拶をした。


一人は、眼鏡をかけた一見地味目な女の子だ。

髪は黒く、ふたつのおさげが特徴的だ。


彼女は俺をみて軽く会釈をし、仕事に戻っていった。


ま、まぁ仕事中だしな。

しょうがない、しょうがないっと。


もう一人は、20代後半くらいの男性だ。


背が高く、髪は少し茶色がかった黒という感じだ。

前髪はかきあげられ右に流されている。

肌は褐色で大人の男性の魅力が光っている。


この人は、男の俺からみても惚れてしまいそうだ……


「君らが新しくはいるバイトくんたちか! 俺はこの店の副店長、兼シェフの黒崎だ、よろしくな」


「俺は本間燵玖って言います、よろしくお願いします!」


セシル、柊も俺に続くように挨拶をした。


「分からないことがあれば遠慮なく言ってくれ」


「ありがとうございます」


それだけ言って黒崎さんはキッチンに戻っていった。


そして、最後の一人がここのオーナーである薫さんだ。


「やあ! それでは3人とも今日からよろしく頼むよ。早速なんだが、制服に着替えて来てもらえるか?」


そう言って俺とセシル、柊にそれぞれ制服を渡した。


「では、着替えがすんだらまた声をかけてくれ、私は1度仕事に戻る」


制服か、社員の人が着ているやつと一緒なんだよな……


女子ふたりが渡されていた制服は従業員のそれとは明らかに違うような、何かヒラヒラしたの見えてるし……


まぁ、いいか。




俺は黒のスキニーパンツにワイシャツ、つまるところ、ここにいる従業員の制服と一緒だな。


えっと、セシルたちはまだ着替え終わっていないのか……


少し待っていよう。


そんなことを考えていると、薫さんがチラチラとこちらを見ている。


そして、セシルと柊がいないことに気づいたのか、小さく溜め息をついて仕事を続けた。


あれ、そういえばもう一人従業員いたよな。

俺と同じくらいの歳の男の子が。


まあ、俺と同じとしというならきっと独り暮らしでは無いだろうし、ああ言ったいかにも充実したリアルを送ってそうな人物の休日には予定が入っているというものだ。


居ないとはいえ、名前とかはやっぱり知っておいた方がいいよな。


という事で、薫さんに訊くことにした俺はホールに向かった。


すると、薫さんがこちらに気づき嬉しそうに近づいてきた。


「着替えはすんだのか?」


クリスマスの前日にサンタからのプレゼントを待つ子どものような顔で訊いてきたので、俺の着替えが済んだのか訊いているわけではないことを悟る。


「いえ、あのふたりはまだ着替え中です。」


俺が機械的にそう答えると、残念そうに、まだなのか。と呟いていた。


では、何があったのかという顔をしているので単刀直入に訊いてみた。


「あの、昨日ここに来た時に働いていた従業員の人は今日はいないんですか?」


「ああ、そうだな。彼から今朝、体調を崩したと連絡があってな。

仕事を休ませてほしいと言っていたよ。」


薫さんは顎にてを当て、考えるようにしていった。


「そうだったんすね……」


休日に風邪を引いてしまうなんてドンマイとしか、言いようがないんだが。


「そういえば、彼の名前はまだ知らないのか。これから仕事仲間になることだし、私から紹介しておくとしよう」


思いついたようにいった。


「お願いします」


「まず、彼の名前は蛭間零斗、よく働いてくれるし、とても社交的だ。

慣れない内は彼に仕事を教えてもらえばいい、歳も近いし話しやすいんじゃないだろうか?」


「そうですね、ありがとうございます」


お礼を言った後、俺は一旦従業員ロッカーに戻った。



蛭間零斗という人物について聴いているうちに、セシルたちの着替えは済んだようだ。



「着替えすんだわよ!」


セシルと柊が制服姿でこちらに向かってきた。


案の定、セシルたちの制服は制服の意をなしていなかった。


他の従業員の制服とは明らかに差異があったのだ。


特に変というわけではない。

むしろすごく似合っていると言っていい。


しかし、あれは確実にメイド服というやつだ。


セシルの方はチョコレートのような焦げ茶色をベースに、白いレースが魅力的なメイド服だ。


セシルはどうかしらと言って、その場でくるりと回ってみせた。


スカートがふわりと翻る。


「いいじゃん! 似合ってるぞー」


お人形さんみたいだなと思った。



柊の方はというと、これまたメイド服だ。


女性従業員はメイド服を着なければいけないという、ルールでもあるのだろうか。


しかし、薫さんや眼鏡っ子をみる限りメイド服ではないので、そんなルールは存在しないのだろう。


しかし、これは驚いた……


セシルのメイド服とは違う趣で作られたのだろう。


黒を基調としたそのメイド服は胸の辺りは白、そして柊のたわわな胸が強調されていた。


肩は出ていて、攻め気十分な格好だ。


「ど、どうです…かね?」


柊は気恥ずかしそうに、手をからだの前で合わせ、もじもじとして

俯きながらいった。



「柊もセシルとは違う感じで、いいと思うぞ」


俺は親指を立て拳を握り、それをつきだした。


「あ、ありがとうございます」


これじゃあ、メイド喫茶かと勘違いされそうだが、可愛いからよしとしよう。




この後、薫さんは大変喜んだ。



今日の所は薫さんに仕事の内容を教えてもらいながらこなしていった。


3人とも所々危うい場面があったが、着々と仕事の仕方を覚えていった。



いつの間にか日がくれて、三日月が雲の切れ間から顔を出していた。



「では、今日はこれくらいにして店を閉めよう」


薫さんは客がいなくなるタイミングを見計らって店内全域に聞こえるように呼びかけた。




「お疲れ様でした。」


薫さんから始まり、眼鏡っ子、黒崎さんと挨拶をした後カフェを出た。



そういえば今日はグラトニー現れなかったな。


「そういや、今日はグラトニーが現れない日なのか?」


「本当の事を言うと予言では、一時間くらいの前に出現するって言っていたはずなんだけど。

その気配が全くなかったから忘れていたわ」


セシルが思い出したようにいった。


「そうなのか、まあ、平和なのはいいことだよな。」


感慨深そうにいった時だった……


月が消えた。


いや、月の前に何かがいて俺の位置からは見えないようになっているようだ。


俺はその『何か』がなんなのか知るために目を凝らした。


黒い何かがこちらに向かって来ているのを感じ取った俺はいち早くこの事をセシルたちにも伝えねばと思い振り返った。


どうやらふたりもその異様な『何か』に気づいている様子だ。


ふたりとも茫然と立ち尽くす。


その距離100メートルという辺りでようやくその正体は明らかとなる。



『何か』とは、level1のグラトニーだったのだ。



敵は相当な数迫って来ている。

数えたわけではないが、ざっと50近くはいるだろう。


これは、今までのようにすんなり倒して終わりというわけにはいかないだろう。


俺は強く拳を握った。



---???視点---



ああ! むかつく!!


喰われるだけの家畜の分際でよお!!


家畜は黙って喰われとけや!!


腹へったけど、動くのも面倒くせぇし。


level1を放り込んどけば、勝手に魂集めてきてくれるしな。


そいつらを喰っちまうのが1番食べごたえがあるからってそうしてきたのによ!!


クソみてぇな シンシ ってやつらにすぐ殺されちまうんだからよ。


だから、あいつらの『予言』ってのとずらせてlevel1を放ったっていうのに、クッソっ! 気にくわねぇ……


あいつら絶対ぇ、喰ってやる。


オレサマがわざわざ出る必要もねぇだろう。


ケケッ、


あの人間モドキと、シンシってやつ、グチャグチャにしてやる。


level1だとしても、一気に30体相手にするのはキツいだろう。


ぁああ!! マチドオシイ! マチドオシイ!


ギャハハハハハハハハハ!!!








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