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俺って正直、弱すぎね?  作者: たつのおとしご。
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第7話 なんのための力か?


「……っ」



俺はカーテンの隙間から射し込んだ朝の眩い光で目を覚ました。


まだはっきりとしない寝起きの身体をうつ伏せにし、両肘をベッド立てゆっくりと起きあがった。


そしてカーテンをサッと開く。


その事でさっきまでのように陽光を遮るものはなくなり、朝日が寝起きの乾いた目をチクチクとさした。


思わず俺は目を細めた。


だんだんと目が明るさに慣れてきたところでふと、昨日の出来事を顧みることにした。


あれからどれくらい時間が過ぎただろうか。


少なくとも夜は明けて朝日が昇るくらいには時間がたったようだ。



昨日、気づいたら俺はベットで寝てしまっていたようだ。


気づいたら、というのは別に誰かが眠った俺をベッドに運んでくれていたっていう意味ではない。


昨夜自分の部屋に戻ったことや、自分でベッドに横になった事も覚えている。


ベッドに寝ころがり、天井についた円い蛍光灯をぼんやりと眺めながら考え事をしていた。


考え事の内容は、やはり俺の『頭』の話のことだ。


『頭』とは、かいつまんで話すと俺の能力の話だ。

脳の機能を100%使えるようになることで俺は人智を越えた力をてにいれられるのだ。


もしかしたら100%の脳機能を使えなくでも、70%……いや、50%使えるだけで全く違うものになるのかもしれない。


頭をどう捻ってみても、これという良案は出てこないのだが……


俺の気分は、いつもは青白く光り部屋を照らしてくれる蛍光灯が消えているからだろうか? 暗く落ち込んでいた。


結局なんの解決法も見つからないまま、寝てしまっていたのだ。


天界からの連絡はというと、こちらも一向にくる気配は無かった。


実のことをいうと、俺は『予言が外れた』ということをそれほど重く考えてはいなかった。


とりわけ、『天気予報が外れた』という程度の理解だったのだ。


「二人ともおはよう。」


「あ……タツク、おはよ。」

「お、おはようございます……」


しかし、セシルたちのこの件についての認識は俺のものとはちがったのだ。

昨日の夜は遅かったのだろう。

目の下はうっすらと青黒としていて、心なしか覇気もなく疲れているように見える。


なんでも今までに予言が外れたことは1度もないらしく、これは人間が神々を認知し始めた頃から不変の事象であり、普遍の事実であった。


それが今回は外れたというのだから、天界の人々は今頃大騒ぎしていることだろう。


ただし、どんちゃん騒ぎとなっているのは予言などというものがあるのを知っている天界の住人だけだ。


ごく稀にこの人間の世界、いわゆる『下界』にも預言者がいるらしい。

そのために神のお告げを受けたという人間もいるようだが、それも今じゃめっきり見ないそうだ。


そのお陰というべきか、そのせいというべきか、世界は今日も平和に過ぎている。


いや、平和というのは語弊があるかもしれない。


国によっては、ただでさえ戦争紛争の毎日をおくり多くの死傷者がでる中で、人々は存在すら認識されていない『何か』によって魂を喰い散らかされているのだ。


その『何か』というのはグラトニーのことを指しているわけだが、level3の出現が認識されている以上、被害は一大国の人口を優に超えているだろう。


こんな世の中を、果たして平和と呼べるだろうか?


否、初めから人類に平和など無かったのではないだろうか。


知らぬが仏。


そんな言葉があるのを俺は思い出した。


案外、平和の定義とは人それぞれであって、今の世の中の真相を知らなければ十分に幸せといえるのだろう。



おっと、話がだいぶ飛躍してしまった。



結論をいうと、結局予言が外れた理由は分からず終いとなった。


そんな時、ゴム風船を擦り合わせたような野暮ったい音がした。


どうやら俺のお腹が鳴ったらしい。


そういえばまだ朝食をとっていなかったな。


いつもならセシルが作ってくれているわけだが、今日に関しては彼女も疲れているだろうから、俺が作ろうと思う。


大したものは作れないだろうが、それでも少しは楽になるならそれがいい。


「今日の朝ご飯は俺が作るよ。ソファーにでも座って待っててくれ」


俺は冷蔵庫から卵を取り出しながら、ソファーの方に軽く顎を向けいった。


「タツク料理できたのね……」


セシルは訝しげな目で俺を見た。


「そりゃ!……おまえほど上手くはないだろうけど、作れるっちゃ作れるからな!」


まぁ簡単なものしか作れないし、セシルがこの家に来る前まではインスタントやコンビニ弁当、焼くだけで出来てしまうトースト、そういったものしか食べていなかったので料理が出来ないと思われても仕方のないことだ。


俺はそうなことを考えながら、フライパンの縁の部分に卵を小突いてライパンにしいておいたベーコンの上へと落とした。


カッカッ、パカッ ジュー


という音とともに鼻腔をくすぶるようないい香りがしていた。


お腹がまた鳴った。


さっさと作って朝食を食べよう。


今日の献立は、先程焼いたベーコンエッグ、サラダ、トーストだ。


俺は皆の分の朝食をダイニングにあるテーブルに運び並べた。


自分的にはずいぶんと上手く作れたと思う。


「さっ、たべようぜ!」


「わぁ、美味しそうですね~」


柊が顔のあたりで手を軽く重ねていった。



うんうん!



「まっ、タツクにしては良くできてるわね!」


セシルが人差し指を立てていった。



そうだろ! そうだろ!



「「いただきまーす」」


俺たちは両の手をからだの前でぴったり合わせた。


いや~、今日は俺に優しいな! 世界!



よし、まずはベーコンエッグを……


俺は箸をナイフのように使って黄身の部分を割った。


いつもの、セシルが作ってくれる目玉焼きの場合だと箸でつつくと薄い膜が破れてとろっと黄身が出てくる。

いわゆる、半熟ってやつだ。


白身といい具合に絡み、卵本来の味とちょうどよい塩味が味わい深い。


目玉焼きは醤油と決めていたが、セシルの目玉焼きを食べてから塩派に転じたといっても過言ではない。



では、俺の目玉焼きはどうだろうか。


結論からいって、美味しくない。


見た目はいいが、味がぱっとしないし何より硬いというのが難だ。


黄身の部分をつついてもボロボロと崩れ、白身の部分はゴムみたいになっていた。


目玉焼き半熟派はもちろん、かた焼き派もびっくりだろう。


俺は目玉焼きに醤油をかけ、味の深みもなにもない醤油味の目玉焼きを食べた。


これは見た目詐欺だなと感じた。


そして、セシルたちの方をみてみた。


「……な、なんか、しっかり焼けてて……うん、いいですね!」


柊がいい例えはないか、いい表現はないかと思案した結果、そのようにいった。



うん、美味しいとは言わないのね、泣



「えっと……うん、しっかり焼けてていいわね!」


セシルも少し考えた後でいった。


二人のちょっとした心遣いがイタい!! 逆にイタいよ!


「いっそのことマズいっていってくれ!! 惨めになるだろ!」


「すみませんが……不味いです。」


「硬いし、不味いわね。」


「え、あっ、いうの?」


俺があっけらかんという顔をすると、ふたりともどっちなんだといいながら笑っていた。


「はぁ、笑ったら少し疲れが飛んだわ」


片手でお腹を押さえつつ、笑ったことで浮かんだ目尻の涙を拭っていた。


俺の目玉焼きで疲れが和らいだのならそれは良かった。


しかし、次こそは美味いやつ作ってやる!



「「ごちそうさま」」



朝食を食べ終わった後は、それぞれのことをやることにした。


バイトは昼からだ。


俺は日課の筋トレを始めた。


腕立て伏せ、腹筋、背筋とこなしていき、スクワットをやろうと足を肩幅に開いた時だった。


「やあ! 本間燵玖くんっ!」


声のする方に目をやった。


すると、不恰好なローブを着ている人物がそこにいた。


もともと黒であっただろうローブは煤けて所々が灰色がかっていた。


その人物は俺をみて、両手を顔の高さまで上げ、やれやれといった顔で息を吐いた。


サルエルだ。


「サルエルか、なにしに来たんだ?」


俺は肩にかけていたタオルで額の汗を拭きつつ何気なく訊いた。


「うーんとねぇ、今日は2つの事を話しに来たんだ。1つは『予言が外れた事』について、もう1つは『君の能力について』だ。」


サルエルはいつもとは違う、神妙な面持ちで俺のことを見つめた。


なに? 『俺の能力について』だと。


俺は生唾を呑み込んだ。


「ちょうどいいから先に君の能力について話そうかな」


サルエルが俺に了解をとるようにいった。


俺は一言、頼むよ。とだけいってその場に居直った。


「まず君さぁ、初めてグラトニーと戦った日から1度も能力使えてないでしょ?」


サルエルは人差し指をピンと立てて、俺にジトッとした視線を送ってきた。


「あぁ、まぁな」


俺は内心とても焦っていたがそれを悟られぬよう、精一杯、感情を込めることなくいった。


「なんで能力が使えないのか自分では解っているのかい?」


短く息を吐いたあとで、どうせ解ってもいないのだろう、という顔をされた。


実際に俺はなぜあの時能力が使えたのか、現在、全く能力を使えていないのか、皆目検討もつかなかった。


少しの間俺が押し黙っていると、サルエルはポツリとやっぱりなぁと呟いた。


「君がそこまでおバカさんだと、こちらも助言しようかどうか考えものだよ。」



なんでだよ。

確かに俺は頭もよくねぇし、能力解放の考えも浮かばなかった。


だからってそんな言い方あるのか?


「俺は一刻も早く能力を使えるようにならなきゃいけないんだ! なあ、教えてくれ頼む!」


俺はぐちゃぐちゃと胸の内をかき混ぜられ、今にも飛び出しそうな不満をどうにか鎮め頭を下げた。


「君はなんのために能力を得たいと考える?」


サルエルは俺の目をじっと見つめた。


その問の答えによって俺は能力解放へのヒントを得るか損じるか決まるのだろうと思った。


「も、もちろん、グラトニーを倒すためだよ」


俺は一生懸命に冷静さを装ってそう答えた。


「そこだよ。君はグラトニーを倒すために能力を得たいと? ははっ! それじゃあだめでしょ~。今一度君に問おう。君はどんな『意味』を掲げて戦場に立つんだい?」


サルエルは嘲笑を浮かべた後で、もう一度、真っ直ぐに俺の目を見据えた。


俺は思案した。

どのような『意味』を掲げているのか。という問に関していえば、『みんなを守るヒーローになる』と決意したことをしっかりと覚えている。


「『みんなを守る』ことが俺が戦場に立つ意味だ!」


そうだ。

だからこそ必要なんだ。みんなを守るための力が……グラトニーを倒すための力が。


「そうかい。その事は忘れていなかったんだね、良かった。じゃあ、訊くけど君これまでの戦いで1度でも拳を握ったかい?」


俺は質問を投げかけられて愕然とした。

雷に撃たれたように動けなくなった。


「守りたい、そう思うだけじゃだめなんだよ。守りたいなら拳を握るんだ。強く握りしめた拳、それが君の力になる」


俺はサルエルの言葉を訊いて今までの自分を省みた。


俺はもしかすると根底では足手まといである自分に恥ずかしさを覚え、力を欲していたのかもしれない。


格好悪いって思ってたんだ。


でも違った。格好悪いのは力が無いことではない、自分は弱いと決めつけて戦うことを諦めていたことだ、と。


当時、俺は諦めていたつもりは毛頭無かった。


しかし意識の奥底では能力解放が出来るまでは……と彼女らに頼っていたのかもしれない。


俺が俺の生きる『意味』を思い出したあの日、もう大事なものを守ると決意した。


俺が次にグラトニーと遭遇した時、例え能力が発生しなくても俺は拳を握りしめ、奴らと戦う。


それは、ただグラトニーを倒すということが目的ではない。

ユウキやセシル、柊や隆一、その他の大切な人達を守るために戦うんだ。


「今の君はいい顔してるよっ! これで皆まで言わなくて良さそうだね!」


「あぁ、ありがとう。サルエル」


俺は今とても穏やかな気持ちだ。


胸のつっかえが取れた気がした。


「ちょっと、セシルと柊を呼んできてもらえるかな?」


俺はサルエルの言葉の意味を理解するのに数秒の時を要した。


俺はまだもう1つの話題が残っていることに気づいて、小走りでセシルたちのもとへ行き、俺の部屋へ呼んだ。


「それで、話って?」


セシルが何事かという顔で訊いた。


「もう薄々感づいているかもしれないけど、ここに集まってもらったのは『予言がなぜ外れたか』という事を話そうと思ったからなんだ。」


サルエルがそう言うと、その瞬間セシルの眉の間に力が込められた。


柊もいつものなよなよした顔とはうって変わって神妙な顔をしていた。


俺を含む3人がごくりと息を呑む。


「結論からいって、正確な理由はまだわかっていないんだ。1回外れただけでも、とんでもない事態だということに変わりはないんだけど、事象が少なすぎるんだよ。」


眉はハの字になって困った様子でいった。


「じゃ、じゃあ……結局分からず終いということですね。」


柊が肩を落として嘆息した。


「それはちょっぴり違うかなぁ。ボクは“はっきりとした事”は分からないと言ったんだ。おそらくこうだろうというのは、もうあるんだよね。」


「それは何なの!?」


今まで黙っていたセシルが急に乗り出してきた。


「『何者か』が意図的にグラトニーを召喚しているってものさ。『何者か』っていうのは依然として分かっていないわけだけど、今までに無いことが起きているということは相当な能力者、神サイドが関わっている可能性もあるってことだね」


サルエルは表情を変えることなく坦々と話した。


セシルも柊も口に全く力が入っていないかのように開いたまま、目をぱちぱちさせた。


暫くはそのまま時間が過ぎた。

きっと、理解が追いついていないのだろう。


神に対しての絶対的信頼を向けている神使からすれば、神サイドがグラトニーに加担していると言う可能性は信じ硬いものなのかもしれない。


ようやくセシルと柊が状況をのみ込んだ頃、サルエルはつまるところ相手は強大だ。と言い残し去っていった。



サルエルが言っていた事について、俺は再び考えを巡らせた。


俺は神々と同じレベルの相手と対峙できるだろうか?


そう自分の胸に聴いてみる。


愚問だった、と俺は思う。


どんな奴が相手だろうと俺がやることは変わらねぇ。


拳を握りみんなのために闘うだけだ。




---サルエル視点---


本間燵玖、君が能力を解放しセシルを守ったあの瞬間、ボクが預かった君の魂がとても温かな色で光輝いていた。


ボクはその時、グラトニーが蔓延るこの終わりのない世界でたった1つ打開策があるとしたら、それは君だと感じたんだ。


単なるボクの戯言でしかないかもしれないけど、ボクは君に賭けることにしたんだ。


そして今、また君の魂がぼやっと光っているのを見つけたよ。


それはまだ弱い光だ。

黒い画用紙に針で1つ穴を開けそこに射し込んだような小さく細い光だ。

そんなものは『この世』の闇を照すにはには弱々しい光かもしれない。

だけど、とっても温かい光だ。

それは確かに感じられる、心に直接訴えかけるようなそんな光だ。

きっと、君の『誰かを守りたい』という願いが、魂の叫びが君の力になっているんだね。



ふふっ。




これからも見守っているよ。






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