第6話 Level1
いろいろな都合により、不規則な投稿となってしまっています。
すみません。
太陽の光もまだ残る昼下がり、俺たちはまだまだ十分な時間があるとかんがえていた。
だが、その考えはいとも簡単に打ち砕かれてしまった。
「あ、あれは……グラトニーです!」
おいおい、予言とやらでの出現までは、まだ時間があるはずだ。
「なんでだ? まだ出現時刻でもないはずだろ」
「わ、分かりません……」
柊が少し眉をしかめ、何が起きているのか分からないという顔をして言った。
「私も分からない……でも、このままじゃ町の人たちが危ないわ!」
セシルが急ぐわよ! と付け加え力強く飛び出していった。
その後に続くように柊が駆けていった。
「薫さん! 絶対に戻って来ますから! ちょっと出てきます!」
俺は飲み物の支払いもしないまま店を飛び出した。
それほどに急いでいたのだ。
グラトニー待ってろよ!
といっても、ぼろ雑巾のような感じなんだよな。
それって別に被害もそこまで酷くないのではなかろうか。
いや、一般の人にとってはそれでも恐怖の対象になるのか。
「いたわよっ!!」
セシルの声でその場にはピリピリとした空気が漂った。
グラトニーがいたのか! どこだ! どこにいるんだ!
すると、建物の屋根のあたりに雨の日の雲のように黒々とした布のようなものが3体浮いていた。
あれがlevel1のグラトニーか……
3体か、まだ戦ったことがないので勝てるかどうか分からない。
level2に勝った事があるというが、あれはどういうわけだかわからわからないが、自分の100%の力を出せたからなのだ。
この前も言ったが、その力は今は使えない。
どうすれば使えるようになるのかも俺には分からないのだ。
それでも、俺は戦うと決めたのだ。
戦うほかないだろう。
「結界を展開します!」
「柊、お願い!」
セシルが緊迫した状態のまま柊に呼び掛けた。
結界を張ることで外と中の空間を一時的に切り離した状態に出来るらしい。
結界の中で起きている事は外には全く影響を及ぼさない状態ということだ。
うっすらと黄色がかった立方体が俺らとグラトニーを含む一定区間を包んだ。
俺らからは外がどのような状況であるのかが把握できる。
しかし、外からみると、結界もろとも俺らの様子をうかがうことが出来ない。
取調室の窓をイメージすると理解しやすいだろう。
3体のグラトニーの様子を伺うと自我は無さそうだ。
ただただ、無機質に魂を喰らうことだけをプログラムされた モノ みたいな印象を受けた。
すると3体は俺らの存在に気づいたらしく、こちらに向かってきた。
嘘だろ……
おじゃ◯丸の貧乏神様みたいな感じなんじゃないのか?
ぼろ雑巾って言ってたよな……
いや、誰も『ぼろ雑巾=貧乏神様』とは言っていない。
俺が勝手にそう解釈していただけなのだ。
セシルの話し方は大方、スライムを説明するときのようなものだった。
だから俺はその程度のものとばかり思っていた。
そうか、天界でのlevel1の認識というのはその程度のものなのだろう。
こちらに向かってくるソレはおぞましい姿をしていた。
ぼろ雑巾と言われればそうかもしれないと感じるが、どちらかと言えば煤をぶちまけられたミイラのようだ。
目と鼻を思わせる凹凸はあるが、それは、機能しているようには思えなかった。
口ばかりは大きく開いており、どこまでも黒く、穴がどこまでも続いているんじゃないか、錯覚するほどだ。
腕は力なく垂れ下がっている。
指先には鎌のような真っ黒な爪がついていた。
こいつで切りつけられたら人間であれば、簡単に致命傷を負うことだろう。
足は見当たらなかった。
無造作に裂けたボロボロな大きい
布が空中を漂っているだけのようにも見える。
だか、それには恐怖心を抱かずにはいられなかった。
背中に冷たい汗が流れた。
しかし、戦うしかないのだ。
それに、level1にいつまでも恐怖しているようでは、この先、セシルたちを守るなんて事は出来るはずもない。
腹をくくるんだ! 俺!
俺は自分に渇をいれグラトニーの方へ飛び出していった。
「俺は何をすればいい!」
「あなたは、前みたいにグラトニーを自分に引き付けておいて! その後の事は私たちが何とかするわ!」
よし、囮でもなんでもやってやる!
「わかった! しっかり倒してくれよ!」
「誰に言ってるの? 任せなさい。」
セシルは不敵な笑みを浮かべ言った。
「柊もよろしくな!」
「……わ、分かりました!」
柊はガタガタと震えながら答えた。
恐怖しているというよりは、緊張のあまりからだが強ばり、震えてしまっている、というのが正しいだろう。
大丈夫だろうか。
今は、自分の役割に集中すべきだろう。
「ほら! こっちに来い!」
俺は俺の持てる限りの声でグラトニーをこちらによんだ。
柊の方に視線を送ってみると、あれも魔法だろうか?
柊が何かを呟くと、たちまち1張りの弓と矢が具現化した。
弓と矢はどちらも白銀の色をしている。
邪を穿つにはうってつけな弓矢といえる。
---ウォ~……---
グラトニーがうめき声にも似た声をあげてこちらに向かってきた。
よっしゃあ! こっちだ!!
俺はグラトニーを引き付けようと、奴らに近づきこちらに奴らがこちらに気づいたら全力で走る、他の奴らの方も同様だ。
俺はひたすらに声をあげで全力で走った。
今までついてくるだけしか能がないと思っていたが、そうではないらしい。
それもそうだ。
グラトニーというのも魂を貪るのが、使命なわけで、ただただ俺に向かってくるだけではなかった。
グラトニーの移動速度は意外にも速いもので、先程まで余裕のある距離だと思っていたが、気づけば俺のすぐ後ろに迫っていた。
「くっそ! このままじゃ追いつかれちまう!」
俺は奥歯を食い縛り全力で逃げていた。
その時、髪は風圧によって逆立っていた。
グラトニーは手についている鎌のような鋭い爪で俺を切りつけてきた。
俺はとっさの出来事でその攻撃を避けようと方向転換した時に足をもつれさせてしまった。
俺は事もあろうかとその場で転けてしまったのだ。
……初めは良かった。
敵は絞られた方向からしか追いかけて来なかった。
しかし、敵は3体いる。
なぜ、囲まれてしまうという可能性を考えなかったのか。
そして今まさに俺は3体のグラトニーに囲まれてしまっている。
まずい……これは明らかにまずい。
逃げる? いや、逃げ場なんてものはどこにもない。
じゃあこんなとこで斬られるか? 腕とかだったら簡単に飛んでっちまうんじゃないだろうか。
怪我はすぐ治るんだろうけど、痛みはしっかり感じるし、そもそも切断された腕なんてくっつくのか?
くっそ! 出来ることならなるべく斬られたくねぇぞ、俺は!
セシル! 柊! 早くしてくれ!
「本間さん! よ、避けてください!!」
その言葉を受けて俺は直感的に助かったと思った。
地面に突っ伏するように避けることにした。
それから柊はいきます!と一言言って矢を放った。
勢いよく放たれた矢はグラトニーに一直線に向かっていき、敵の頭部とおもわれる場所をとらえた。
……はずだった。
ドスッ!
ん? えーと、なんで、俺の頭すれすれのところに矢が?
俺は額に冷たい汗を流れるのを感じた。
も、もしかして……そう思い柊の方へふりかえってみると、柊は口をわなわなさせて慌てた様子だった。
やっぱりかぁ……
え、待って、でも柊って弓の技術じゃ右に出る者がいないってセシルも言っていたような……
てゆうか、そんな事考えてる場合じゃない!
依然として、グラトニーは俺に向かってきている。
俺の頭にイヤな考えが横たわった。
腕の1本や2本は諦めるしかないか、と半ば諦めかけていたそのときだ。
---ウォ~……---
数十本はあろうかという氷の矢がグラトニーたちのからだをとらえていた。
セシルだ。
彼女の方に視線をやると、どんなもんだい! とでも言いたげな顔でこちらを見ていた。
その後もセシルの攻撃が止むことはなかった。
次々と氷の矢がグラトニーに向けて発射する。
その矢は見事にグラトニーのからだを射止めた。
そして、1体また1体と奴らはうめき声をあげて爆発するように散っていった。
すでに、3体のグラトニーを倒してしまったようだ。
グラトニーを討伐した後、張られていた結界は徐々に薄くなっていき、やがて目ではとらえられなくなった。
俺はあっけにとられてしまった。
「さ、サンキュー。」
level1とは言え、3体もの敵をあれはどに簡単に倒せてしまうのか、と……
今の俺は何も出来ずにただ走り回っていただけだ。
もちろん、今回の戦いで俺に託された指命は囮になりグラトニーを引き付ける、というものだ。
それだけを評価するとするならば、今回の仕事ぶりは上出来だったといえる。
しかし、逆に言えば今の俺の精一杯は囮になることであり、敵と戦うという域には到底達していないのだ。
俺は大前提としてみんなを守るという使命を掲げているわけだが、現実はどうだろうか?
囮になるのが精一杯なんてのは、実に愚かだな。
いち早く脳のリミッターの解除方法を見つけ出さなければ……
そうは思っても、依然として解決の糸口は見つからなかった。
そう考えていた時、薫さんのカフェの飲み物の代金を滞納していることを思い出し、あわててお店に戻った。
「いらっしゃいませ……って あぁ、燵玖くんたちじゃないか」
と、薫さんが俺たちに気づいてこぼれ出た言葉のようにいった。
「すぐに戻ると言っていたわりにはずいぶんと長かったではないか。
何かあったのか?」
先程の言葉の後すぐ、心配するような目で訪ねてきた。
「心配有難うございます。でも、ちょっとした野暮用があっただけなので大丈夫です!」
薫さんはやわらかい笑みを浮かべ、そうかそれなら良かった。とだけ言って仕事にもどっていった。
俺たちも先程座っていたテーブル席へと歩いていった。
当然のことながら、テーブルの上は綺麗に片付けられていた。
それもそうだろう。
俺らがこの店を飛び出していったのは 14:00頃だ。
そして、今の時刻は15:15だ。
1時間以上も店を出ればもう戻ってくるとは思わないだろう。
そもそも、飲み物なんかは衛生的にもずっと置いておくことは許されないだろう。
それよりも、さっき薫さん心配してくれていた訳だけど、あんな受け答えで良かったのだろうか。
さすがに、薫さんにはグラトニーの事は明らかにするべきではないだろう。
そう考えるとやはり、先程の受け答えが1番無難で良かったのかもな。
と、いろいろ考え事してたら小腹すいてきたな。
それにグラトニーとの戦いで走りっぱなしだったから、よけいお腹すいてるんだよな……喉も乾いたし。
よし、何か頼むか。
俺は紅茶とショートケーキを頼んだ。
セシルはパフェを頼んでいた。
柊は私はあまり食べる気分ではありませんといって何も頼まなかったので、それならばと紅茶をもう1つ頼んだ。
「それにしても助かったよセシル、ありがとな!」
「あのくらい当然よ!」
腰に手をあて胸を突き出し嬉しそうにいった。
少し鼻の穴が広がっていた。
前回は転んでしまって危ない目に遭っていたし、自分で倒せたのがよっぽど嬉しかったんだな。
「柊も……俺が囲まれちまったとき、声かけてくれてありがとな!」
あの、声かけで少し救われた気がしたのは事実だ。
しっかり感謝せねば。
「……す、すみません。私なんか今回は何も……結局のところ、矢は1本も当たりませんでしたし。」
柊はうつ向きながらぽつりぽつりとそういった。
「そんな事いったら俺なんか、今日は走ってただけだぞ」
「いえ、本間さんの場合は自分を囮にグラトニーを引き付けてくれていたじゃないですか」
柊はうつ向いていた顔をぱっと上げ、訴えかけるようにいった。
俺は真面目な顔をしてじゃあ俺も言わせてもらうけどと始めた。
「俺がグラトニーに囲まれてた時さ、柊俺に声かけてくれただろ?」
俺は少し顔の表情を緩め続けた。
「俺、実は結構ぶるってたんだよ。この状況やべえな、ってな。
でもな、柊の声が聞こえた時に直感的に助かったって感じたんだ。
だからさ、私なんかって言うなよ。」
「本間さん……」
「ありがとな、柊」
「……はい」
その後柊は少しばかり表情を緩め、紅茶を飲み始めた。
セシルの方はというと美味しそうにパフェを食べていた。
目はキラキラと輝いていた。
俺も早速いただこう。
俺はショートケーキを一口食べた後に、柊が食べ物を頼んでいないなということに気がついた。
柊、やっぱり食べ物とか頼むか?
俺がそう聞くと、大丈夫です。と答えたので、ならばと思い、俺のショートケーキを食べるかと提案した。
すると意外にも、はい。と答えたので柊に食べてもらうことにした。
そして、柊はパクっと一口食べると、顔を赤らめていた。
「美味しいです。」
セシルは自分のパフェを勢いよく食べていた。
こんな美味しい食べ物下界にもあったのね!とむしゃむしゃと食べていた。
1番最初に会った時の印象とは違うと感じたが、それも打ち解けられてきたのではないかと嬉しく思った。
柊は二口ほど食べると、ありがとうごさいます。もう、大丈夫ですといって俺に返してきた。
いらないか。
まぁ、少しは元気が出たようなので良かった。
そして、俺は残ったショートケーキを食べた。
すると視線を感じたのでその方向をみてみると柊がこちらを見ていたようだ。
目が合うと、はっとした顔をしてすぐに目をそらされた。
顔が少し紅潮しているように見えた。
俺は柊が本当はまだケーキを食べたいんじゃないかとおもった。
「た、食べたいのか?」
「いっ、いえ!……大丈夫です」
柊はどこかぎこちなく、気まずそうに言った。
俺なんか悪いことしたかな?
と、もう少しでケーキを食べ終わろうという時、セシルはパフェを食べ終わったようだ。
よくもまあそんな細いお腹にあれほど大きなパフェが入るものだな……
「タツク! このパフェっていうのとっても美味しかったわ。でも、良かったのこんなに食べても 」
「ん、いいだろ食べて」
「だって、お金無いんじゃなかったの? そのためにアルバイトする! とか言ってなかった?」
あ……そうでした。
「タベタモノハシカタナイ。」
やってしまった……
完全に忘れていた。俺は今金欠状態だったんだ。
会計は1000円以上、なんで忘れてんだ! 俺のバカ野郎!
「なんで、カタコトなのよ」
「もう、いいんだ。」
その時俺は、お札に羽根が生え飛んでいってしまった幻をみたのだった……
俺たちは会計を済ませると帰路に入った。
行きと同じように、帰りも電車に乗った。
駅の様子は行きの時にまして空いていた。
家の最寄りの駅に着くと、急ぐ理由もないのでゆっくりと歩いて帰った。
「そういえば、なんで予言の時刻とは違う時間にグラトニーが出現したんだ?」
予言というのはわりと当たらないものなのか?
「分からないわ、今までこんな事は1度もなかったもの……」
1度もなかった?
なんで今頃になって予言が外れたんだ?
ハッキリとしたものは全く無かったが、なぜだか無性に嫌な予感がした。
「とりあえずは、天界にこの事を報告するわ。」
セシルは先程までの緩んだ顔とは一変、両方の眉の間に力のはいった顔をしていった。
「報告ってことは一旦天界に戻るのか?」
「いいえ。天界に戻らなくても通信用の魔石を使えば連絡をとれるの。」
そういってセシルは親指ほどの青緑色の石を取り出した。
人間界で使用するには魔力が大きすぎるので、連続して何度も使うのは難しいらしい。
ただ、天界からの連絡を受ける分にはいくらでも使用出来るようだ。
「天界からの連絡を待ちましょ」
「そ、そうだね……普通では無いのは確かだし、早く原因がわかればいいんだけど……」
それ後、家に着いてからも天界からの連絡が届くことは無かった。
だからといって寝ないわけにもいかず、明日も早いということで、それぞれ自分の寝床についた。
その日、俺たちは緊迫した夜を過ごした。
これからは、3日に1話投稿出来るよう努力していきます。
読んで頂いてる方には大変感謝しています。
より良い小説になるよう、感想や意見どしどしお待ちしています。