元人間の俺
誰かが言っていた。
誰しも、何かしらの意味を持って生まれてくると。
また、こうも言った。
失っていい命などないと。
俺も何かしらの意味を持って生まれてきたのだろう。
では、その意味というやつは何なのか。
確かに、俺にもあったはずだ。
そう、希望に満ちたその『意味』ってやつが。
でも、思い出せない。えーと、なんだっけか。
まぁ、いいか。どうせ今から死ぬんだから。
ここから飛び降りれば全て終わる。
この理不尽な世界ともおさらばってわけだ。
てか、くっそ! 学校の屋上って結構たけぇのな!
あーあ、つまんねぇ世界だった。
「ちょっと君! 待った待った!」
はっ!? なんだこいつ?
いつの間にか俺の隣には、いかにも胡散臭そうなやつが立っていた。
声は女の子とも、男の子ともとれる中性的な声だ。
あたかも、今日は10月31日なのかと錯覚するような、ボロボロ黒いのローブ? のようものを身に纏っている。これまた、いかにもな大きい鎌を持っていた。
その人物はフードを深くかぶっていて、その下にはお面をしているようだ。
なんといったか、あの、魔○少女? というやつだったような……。
お祭りの出店などでよくみる、そんなお面だ
子どもか? とりあえず、この某公立高校にはどうにも不釣り合いな人物がそこにいた。
よくわからんお面のせいで顔がわからない。
声のことも相まって、不明瞭なことが多い。
「おまえ、誰だよ! びっくりして落ちるところだったろ!」
「ボク? ボクはねぇ、死神だよっ!」
は? 死神? まぁ、確かにそんな感じは薄々してたが……でも、
「俺の知ってる死神はな、そんなガキみてぇなお面はしてねぇんだよ!」
そうだよ、こいつは死神というには容貌が滑稽すぎる。
すると、自称死神は自分のつけているお面を指差してこたえた。
「あぁ、このお面のことかい?
実はねぇ、このお面を外せない理由があるんだよ。」
ま、まさか、死神っていうくらいだからそれはそれは恐ろしい顔をしているのかも……
ガイコツか? 悪魔みたいな顔なのか?
そんな事を考えていると、自称死神さんはおもむろにお面に手をかけた。
カポッ、
俺は、ごくりと生唾を飲んだ。
「いやぁ~、実は童顔過ぎて、みんな僕が死神だなんて信じてくれないんだよぉ~!」
ズコォーっ!
どうやら、この自称死神は少しずれてるらしい。
と、よくみたら目鼻立ちは整っている。
これは成長したら、イケメン死神になるだろう。
いや、そもそも死神って歳とるのかわからんが……。
「そんなお面してたらどちらにせよ、信じる人すくねぇだろ!
それに、まだ素顔の方が信じる人多いんじゃないか?」
「そうなのかい? 次から気をつけるよ。」
こいつ、案外素直だな。話くらい聞いてやるか。
「それよか、本題に入ろうぜ。
そもそも、自称死神さんはここに何しに来たんだ?
まさか、あなたの魂回収しに来ましたぁ~、なんて、言わねえよな?」
「自称!? 侵害だなぁ~。まぁ、そうだね。
えっとぉ、君は死ぬはずじゃないんだよねぇ、まだ。」
「死ぬはずじゃない? それってどういうことだよ」
「ん~と、まず、僕たち死神は死期が近い人間の前に現れて魂の回収を行うんだけどぉ。君はその対象じゃ無いんだよねぇ。
でもぉ、君は死のうとしてたからボクが君の魂を預かっといてあげようかなぁーなんて!」
「なんて、っじゃねぇーよ! どういうことだ!」
「グラトニーっていう連中がいるんだけど、実は、そいつら人間たちの寿命と関係なく魂を喰い荒らしてくんだ。
そいつらに喰われた魂は天界にいくことなく消滅することになってしまう。
そうした報われない魂たちはこの世界、君達のいう『この世』の秩序を大きく乱してしまうことになる。
だから君にはそれをくい止めてほしいって魂胆さっ!」
「ぐらとにー? よくわかんねぇ。
てか、そんな奴ら人間の俺にどうくい止めろっていうんだよ!
……もしかして、超能力が使えるとか? まさか、
俺には勇者の力が眠っていた!? みたいな!」
「いや、どうかなぁ~普通の人間にはそんな力は全くないよ。」
「じゃあ、どうやって戦うんだよ! それとも何か? 俺に犬死にしろってのか!」
「いやいや~、犬死になんてことはないよぉ。
君には手伝ってもらうんだからね!
特別にぃ~、本当に特別だよぉ~。
ボクが魂を預かっている間君は死にませんっ!
簡単に言えばゾンビみたいなものに生まれ変わったって感じかなぁ~」
「ゾンビ……ゾンビかぁ。」
ん?それじゃあ結局戦えなくないか?
「それじゃ結局戦えないだろ。どうやって倒すんだ?」
「倒すための簡単な魔法くらいは詠唱でなんとかなるけどぉ、元々人間な君には限度ってものがあるからねー
それだけじゃ倒せないから、神の使いに戦ってもらうのさ!
『神使』っていうんだけどその子達なら十分戦えるよ」
「しんし……かぁ、てか、何でそんな凄そうなやつらいるのに俺なんかに手伝わせるんだよ」
「そうだよねぇ、やっぱ、気になっちゃうか~
いろいろな神様が居るんだけどね、実はぁ、死神ってぇ全然人気がないんだよ~、神使ってのも一つの神に何十人か居るのが普通なんだけど、ボクには3人しかいないんだよねぇ、多い所なんて何百と居るところもあるんだけど、あはは……」
「何が、あははだよっ! 一般人巻き込んで何様だよ!」
「何様って、ボクは死神様さ! というか君、死のうとしてたんだよぉ自殺なんて絶対に許されることじゃない。
そんな君に拒否権があるとでも思うのかい?」
「それは……」
てか、何で俺死のうとしてたんだっけか?
なんか大事なことを忘れているような……
駄目だ、今は思い出せそうにない。
「あぁ! もう、好きにしてくれ!」
「うんうん! そうこなくっちゃ!」
(まぁ、実のことを言えば、彼には『素質』のようなものを感じたからなんだけどね、ふふっ)
「じゃあ、君の魂預からせてもらうよっ!」
「あぁ。」
その後、自称死神は何語かも解らない言葉で呟き出した。
たちまち辺りは蒼白い光りに包まれた。その後、俺は眠るように意識を失ったのだった。
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《僕…みんなをまも……ヒーロー…なるよ…!!……》
ち……と、ちょっと! あんた、起きなさいよ!
ん……俺なにしてたんだっけか?
えっと、確か…自称死神に会って魂とられて…寝てたのか?
今何か夢をみてたような、まぁいいか。覚えてないし。
もふもふ。
えーと、この感触は。
「にくまんか?」
目を開けるとそこにはブロンドの女の子がいた。
サラサラのストレートヘアが腰辺りまでかかっている。
俺は今までこんな綺麗なブロンドヘアの女の子を見たことがない。
目は空のように澄んだ青だ。少しつり目なのがまた良い。
俺はそんなありきたりな言葉しか持ち合わせていない自分に嫌気がさした。
それほどに彼女は綺麗だったのだ。
「え、えーと、俺の名前は 本間燵くっ! ゴフッ、!!」
「なに人の胸に手を当てたまま自己紹介しようとしてんのよっ!!
は、早く、どどどかしなさいよっ!! 次触ったらぶつわよ!」
ぶつって……ぶってから言われてもなぁ~。
ぁ~。ヒリヒリする。
てか、言われたことはごもっともだな。
それより、おっぱいってにくまんと同じ感触なのか知らなかった……
そういえばこいつ誰だ?
「それよか、おまえ誰だよ。
ここ俺んちだよな、どうやって入ったんだ。」
「おまえじゃないわ、私にはセシル・カエキリウスって名前があるんだから!
それより、もう聞いてると思ったけど」
「聞いてるかと言われても何のことだかさっぱり。」
もしかして初仕事的なあれか?
くぅー、まだ実感わかないな。
「まさか、グラトニーってのと戦うのか?」
「いいえ、グラトニー出現の報告はうけてないわ。
そうじゃなくて、今日からこの家で暮らすっていう話よ。」
「なんだ、違うのか。よかった………
って! なにいってんだおまえ! ここ俺んちだそ!」
「だから、言ってるじゃない。あなたの家で暮らすのよ
しょうがないでしょ、サルエルの命令なんだから。
私もイヤよあなたみたいな非常識な人と一緒に暮らすなんて」
「そうかいそうかい、わかったよ! かわいげのねぇやつだ!」
なんなんだよこいつ。
てか、サルエルってあの自称死神のことか?
そうか。サルエルって名前だったのか。
「じゃあ、よろしくねタツク!」
「まだ、いいなんて言ってな……はぁ、わかったよ。」
そんなこんなで、俺 本間燵玖のゾンビとしての新たなの生活が始まったのだ。
(そっか、俺ってゾンビになったのか忘れてた。)