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2話 白兎と魔法

「り、リドル・ワールドって……? というか、兎が喋ってる……?」


 はっきり言って、理解が追い付かない。僕の知っている兎は鳴くもので喋ったりはしない。


「あぁ、ここはリドル・ワールド。君が開いた本の中の世界だと思ってくれればいい」


 本……?

 そういえばさっきの意味不明な本が光ったらこうなったんだよね。原因はやっぱりこの本だったんだ。


「君にはこの『世界』はどう見えている?」


「『世界』……? ただ薄暗いだけで何も見えませんけど……」


 正直に今の自分の状態を白兎に話す。なんだかよくわからないけど話し相手になってくれるのは、今は彼? だけだし。


「それは君がこの『世界』を認識していないからだね――どうだろう? 僕は君にこの世界がどうなっているか教えることが出来る。その代わり、君の世界について教えてくれないか?」


 それは今の僕にとって、とっても魅力的な提案だった。兎にも角にも、今の現況だと進むも戻るもできないのだから。でも……


「でも……僕はあなたに教えるだけの『世界』を持っているのかな?」


 ありのまま、疑問をぶつける。日本語を喋っているし、既に僕の『世界』なんて知っているような気がしたんだ。


「フフ、それは大丈夫だよ。君が知っている『世界』が僕の知っている『世界』と同じとは限らないからね――それで、どうする?」


 そういう事なら、願ってもない。お願いします、と僕は応じることにした。


「では、まず君のその本を私に貸してくれたまえ」


 本をどうするんだろう?


 言われるがままに白兎に本を渡す。何度か頁を捲っていたけど、急に勢いよく本を捲り始めると白紙の頁を見つけこう言った。


「ちゃんと機能を果たしているようだね。では、この頁に……」


 白兎は自分のポケットから羽ペンのようなものを出すと、頁にすらすらと何かを書き込んでいったみたいだ。


 途端に、周囲が明るくなる。薄暗かった『世界』は急に色を持ち始めて辺りの雰囲気を一変させていた。さっきまで何もないと思っていた景色は緑が広がり、風が僕の頬を撫でていく。見渡す限りの大草原がそこに広がっていた。


「うわぁ……」


 感嘆の声が思わず漏れてしまう。その様子を見て白兎は僕がはっきりと認識できたことがわかったようだ。


「その様子ならしっかりと認識できたようだね。では、改めて、ようこそリドル・ワールドへ」


 その言葉を聞いた途端、この『世界』の理がすんなりと頭に入ってきた。なんだろう、この感覚。

 ずっと解けなかった知恵の輪がすんなり外れたときみたいなスッキリ感。

 今までわからなかったのが不思議なくらいだった。


「この『世界』の常識もしっかりと入ってきたようだね」

「うん、ここでは魔法があるんだね?」


 そう、このリドル・ワールドには魔法が存在しているようだ。

 といっても、使い方はまだよくわからないのだけれど。僕の返答に対して白兎が答えてくれる。


「ああ、ここでは魔法が使える。君の頭の中にある知識を使って現象を具現化できるのだよ」

「それって何でもできるってこと?」


 もしそれが本当ならここが理想郷なんだと思う。自分の思った通りに現象が起こせるんだから、神様にでもなった気分だ。でも、白兎が次に告げた言葉はそんなに甘い物じゃなかった。


「残念だが、魔法は万能じゃない。君の願いが強ければ強いほど魔法は現実となる。だが、その為の知識が乏しければ魔法には至らない」


 難しい言い方するなぁ……


「つまり、僕が本当に願ったことしか叶えることができないってこと?」


 白兎はニタリと笑うと

「そういう事だね。中々飲み込みが早いじゃないか」

 と、教えてくれた。


「逆に言うと強い願いがあれば何でもできるの?」

「勿論。魔法は願いを叶えるためにある。すなわち、強く願えば叶うのが魔法なのだ」

「願えば叶う……」


 この世界から帰ろうと思えば帰れるのかな?

 ふと、そんなことを思いついて白兎に尋ねてみた。


「フ、フッフハ、き、君は中々面白いじゃないか。いきなり帰ることを聞いてきたのは君が初めてだよ」


 そういうと、白兎はまたニタリと笑っていた。


 なんだか笑い方が凄く気色悪いんだよなぁ。

 兎の笑い方ってみんなこうなんだろうか?

 なんていうか、こう、卑しいカンジ?


「まあ、まずは簡単に試してみたらどうだい? 何か君の好きなものを思い浮かべてその手に出して御覧よ」


 あ、失礼な事を考えていたら白兎に魔法を使うことを促されてしまった。でも、興味深々なのは事実だし、ここは早速使ってみよう。


 好きなものを思い浮かべる……かぁ。僕はあんまり食べ物の好みは無いしなぁ……。

 悩んでいたら、目の前にいる白兎のせいで人参が思い浮かんでしまった。まあ、人参でいっか。


「どうして君は人参を思い浮かべるのかね?」


 え?


 声に出てた?


 と思ったら既に僕の手には橙色の人参が握られていた。


「どうせ兎を見て人参を思い浮かべたのだろう。安直な事だ」


 なんか、悪辣な言葉が飛んでくる。人参、嫌いなのかな……?


「まぁいい。齧ってみたまえ。見たところ、しばらく何も食べていなかったのだろう?」


 そういえば、こっちに来てからまだ何も食べていない。でも生の人参は嫌だなぁ……

 ここは齧りやすいリンゴにでもしておこう。頭の中でリンゴを思い浮かべてみる。


「ん? 君は人参が好きではないのかね? まあ、そのリンゴでも構わないがね」


 気付けばまた僕の手にはリンゴが握られていた。先程まであった人参は跡形もなくなっている。処理に悩んでいたし丁度いいや。

 よし、ちょっと齧ってみよう。


「じゃ、遠慮なく。いただきまーす……あれ?」


 勢いよく齧ったつもりだったけど何の味もしない。それどころか、中身はスカスカで果汁すら出てこなかった。


「味が無いだろう? それは君の知識が乏しいことが原因さ。どんな品種のリンゴで、どんな木になって、どんな土なら育ちやすいのか。気候は、実のつけ方は……挙げればきりがないほどの知識を込めてリンゴを願うことでより本物に近いリンゴを手にすることができるのだよ」


 へぇー、知識の有無で魔法の効果が変わってくるのかぁ。

 ……ん?

 待てよ?


「じゃあ帰るのにもしっかりとした知識がないと駄目ってこと?」


 そう聞くとまたしてもニタリと白兎は笑った。


「君は本当に面白いな。この期に及んでもまだ帰ることを第一に考えるとは……大抵の人間はこの魔法を使って何を実現させようか考えるものなのだがね」


 そう言われてもねぇ……僕は高校生で、大した知識は持っていないし。


「まあ、君がどう考えるかは君の自由だからね。この後どうしようと構わないよ。ところで、この『世界』の理はしっかりと頭に入ったかい?」


「うん、何となくね。魔法が主流になっていて、大きな戦争は表立っては起こっていない。争い事はゲームで決める――ってどういうこと?」


 僕自身は決して理解はしていない。頭にスッと入ってきているから、言葉でわかっているだけで意味はわからないんだ。


「簡単に言えば、魔法は万能であるが故に戦争の道具になりやすいということだよ。何もかもを焼き尽くすような炎が具現化されたとして、それを防ぐのにより強い力がぶつかってしまったらこの『世界』はボロボロになってしまう。だから、何かしらルールを定めたゲームをして勝った方が意見を通せる、という決まりができたのさ」


 なるほど。

 ゲームは特別定められたものがあるわけじゃ無いそうで、そこは双方の合意の上で決めるみたいだった。


「この『世界』で君が生活するのであれば、ある程度ゲームには慣れておかないといけない。各地に君みたいな人間がいるからそこで教わると良いよ」


「そうなんだ。優しい人もいるかな?」


「君次第だろう。ちゃんと人を見て話すことだね」


 その後も一通り、この『世界』のルールを教わった所で白兎はゆっくりと口を開いた。


「では、約束通り君の『世界』を教えて貰おうか」


「うん、約束だからね。何から話そうか?」

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