プロローグ
「では、約束通り君の『世界』を教えて貰おうか」
「うん、約束だからね。何から話そうか?」
僕は自分の『世界』を思い描いて、そして何から聞きたいのか相手の応答を待つことにした。
「君が話す必要はないよ」
そう言うと目の前の白兎はニタリと嗤い、本の頁を破りとった。
何をしているんだろう?
そんな事を思うと同時に唐突に訪れた虚無感。手も足も動かせる気がしない。まるでそこにぽつんと置かれた縫いぐるみになったみたい。
『世界』は色を失い、只々黒。そこにいる僕と白兎だけが鮮明に色を持っているのが逆に気持ち悪かった。
「な、何が、どうなって……」
状況は刻一刻と変わっていき、周囲の黒のその濃さは深さを増すばかりだった。次第に、さっきまで見えていた白兎の姿も確認出来ないくらい辺りに黒が広がっていった。
これは、やばい。
何がやばいのかよくわかんないけど、とにかくやばい。
どうしよう?
どうしたらいいのかも分かんないけど、とにかくやばい気がする。
早く何とかしないといけない。
何かしないと、何かって何?
ああ、もう!
考えがまとまらなくてイライラしてきた。
段々とイライラが溜まってきたところに、不意に人影が見えた。
よく目を凝らして見てみると、それは級友や担任の先生、僕の両親達のようだった。
「お前がいなくてもこの『世界』は上手く回るしなー」
「クラスに一人ぐらいはこういうやつもいるもんだな。ああ、もういなくなるんだったな」
「お前なんて生まれてこなければ良かったのに」
「どうして、こんな子だったのかしら。もっと、良い子だったら……」
今まで聞いたこともない悪質な言葉が聞こえてくる。
親にまでこんなことを言われるなんて……
愛情深く育てられたと思っていたのは何だったんだろう?
見せかけだったのかな……
罵詈雑言はなおも聞こえてくる。このまま聞いていたら僕の心がダメになっちゃいそうだ。
早く、ここから消えないと……
どうしよう?
死ねば聞こえなくなるかな……
死にたい、死にたい、死にたい……
あぁ、このまま死ねば楽になれそう……
って、ダメだよ!
どうにかしないと……
「う、うわぁぁぁー!!」
その恐怖を誤魔化すように大声で叫ぶと、突然目の前に眩しい光が見えた。
あの光を掴めば『世界』は変わる。
この何も無い空っぽの『世界』から脱け出せる。
新しい『世界』が僕を受け入れてくれる。
何の確証も無いけど、そんな気がして必死で手を伸ばした。
「た、助けて……し、死にたくないよ……死にたく、ない!」
そうして、僕の意識はまた黒に入り込んでいってしまった。
よろしくお願いします。