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物語の結末は  作者: 雲居瑞香
第1章
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【2】

本日二話目!









 珍しい、と言われるが、マリオンは剣を使える。頭が良くて医者で剣士で、それってどんな超人? という感じだが、別にマリオンは超人になるつもりはない。それに、剣術は趣味の範囲を出ないこともわかっていた。


 マリオンに剣術を教えたのは、カロンだ。大学に入学したとき、マリオンはかなり小柄だったのだが、それを見たカロンが体を丈夫にするために、と教え込んだのだ。あながち間違ってはいないが、十二歳の少女に剣術を教えるのはどうなのだろう、とも思う。

 そのカロンだが、彼は軍務省に所属するれっきとした官僚だ。作戦調整部に所属する優秀な『軍師』の一人である。軍務省に籍を置く以上、軍隊ともかかわりがあるので、なめられないように今でも剣術の稽古をする。そのため、彼もそこそこの腕を保っている。マリオンは彼に頼んで現在、稽古をつけてもらっていた。


 使っているのは木剣だ。真剣は危険なので、めったに使わない。まあ、マリオンは医者だし、木剣だったとしても骨が折れることなどはあるが、真剣よりはマシだろう。

 カロンもマリオンも、剣豪、というわけではない。せいぜい身を守るための護身術程度であるが、護身術のレベルは越えていると言われたこともある。どっちだ。

 男女の体力の問題で、長期戦になるとマリオンの方が不利だ。しかし、短期決戦であるとマリオンにも勝機はある。しかし、今日は長期戦になりつつあった。

 カロンがマリオンの力量に合わせると、ずるずると長引く。しかし、一瞬でかたをつけてはマリオンの訓練にはならない。難しいところだ。


「はぁ~」


 ひと段落つき、マリオンは大きく息を吐く。カロンがその肩をたたいた。

「確実に腕をあげてるよね。そろそろ僕じゃ訓練できなくなっちゃうかも」

「さすがにそれはないでしょ」

 マリオンが苦笑して言うと、カロンも微笑んで「わからないよ」と言った。


「僕はそれほど腕がいいってわけじゃないからね」


 カロンは軍務省属だが、彼自身に武力が必要なわけではない。彼が「自分は腕がいいわけではない」と言うのは納得できる話だ。

 もっというなら、医者のマリオンはよりそんな力は不要なわけだが、備えあれば憂いなしというし、何かと身を守るすべは持っておいた方がいいだろう。と思うことにしている。


「マリオン」


 訓練場に似合わぬ女性の可憐な声が聞こえ、マリオンはそちらを振り返った。いや、女性という点ではマリオンも同じであるが、彼女と比べるのはおこがましいと言うものだろう。そこに、絶世の美女ロシェルがいた。

「こんにちは、ロシェル」

「こんにちは。剣の稽古ですか?」

 マリオンが訓練場に入ってきたので、周囲にいた軍人たちに気合が入る。美人がいるといい感じに緊張感が生まれるらしい。


「まあそんなところ。ああ、紹介するわね。こちら、私の大学時代の友人でカロン。カロン、こちらは私の教養学校時代の友人でロシェル」


 おそらく、双方ともお互いのことを知っているが、一応初対面と言うていで、共通の友人であるマリオンが間に入った。男嫌いであるロシェルも一応愛想を振りまくことはできる。


「初めまして。ベルナディス侯爵家のロシェルですわ」

「お噂は耳に入っております。ラリュエット侯爵家のカロンと申します。軍務省に所属しています。以後、お見知りおきを」


 と、カロンはロシェルの手を取る。この辺りは貴族として良くある挨拶風景なので、ロシェルも何も言わなかった。


 だが、カロンはカロンだった。


「いや、遠巻きにお姿を拝見したことがあるが、間近で見るとより美しい。求婚者が列をなすのもわかります。僕もその列に名を加えたいほどだ」


 ……まあ、普通の令嬢なら、美形にこうして口説かれれば悪い気はしないだろう。しかし、相手はロシェルである。すっと彼女の淡い紫の瞳が細められた。マリオンは危険を察知して、ロシェルとカロンの腕をつかみ、建物の陰に引きずり込む。人前で喧嘩は勘弁である。

「世の男性はわたくしの外見を見て『はかなげな美女』なんて言うのですわ。見た目に釣られて求婚してくるなんて、なんて愚かなのかしら!」

 と、面と向かって言うロシェル。カロンは笑っているけど。マリオンは傍観を決め込んだ。

「そんな愚かなのが男と言う生き物ですからね。いや、あなたがお美しいのは事実ですが」

 ニコリと見た目だけは爽やかにカロンは言った。マリオン的にはロシェルの怒りに油を注いでいるだけのような気がするのだが。


「外見をほめればすべての女性が喜ぶと思っているのですか? まあ、確かにわたくしもかわいらしいものは好きですが、本当に美しいと思うのはマリオンのような強い女性です!」

「え」


 なんか巻き込まれている気がする。すでにあさっての方向を向いていたマリオンだが、ロシェルに名を持ち出されて口論中の二人の方を向いた。ロシェルがマリオンに駆け寄り、その腕に自分の腕をまきつけた。

「自分の決めた道を進み、そして人をすくうマリオンはとても美しいですわ。なのに、男性ときたら、女の外見をほめるばかりでその内側を見ようともしない! どうしてマリオンがそんなに下に見られなければなりませんの!?」

「あー、巻き込まないでほしいんだけどー」

 マリオンは控えめに主張してみたが、聞き入れられなかった。むしろ、カロンと目が合い、彼もうなずいたのでギクッとした。


「……確かに、あなたの言うことも一理ある、ロシェル嬢。確かにマリオンは素晴らしい女性だ。でも、マリオンは内面だけでなく、姿もきれいだと思いますよ、僕は」


 カロンのその言葉が、ロシェルの琴線に触れたらしい。ロシェルは目を見開き、しばらく沈黙すると、言った。

「あなた……意外と話が分かるかもしれませんわ」

「まあ、僕としては外見も美しい方が好ましいですが、内面も大事、というのはわかります」

「そうなのですわ! 人の真価は、外側だけでは計れません! 確かに外見が優れている方が好ましいですが、真に大切なのはその心もちなのですわ!」

 ロシェルがカロンに指を突きつけて言った。ロシェルはともかく、マリオンはカロンのことを『美女好き』だと認識しているので、彼の言葉が本気なのかはよくわからなかった。

「なるほど……素晴らしい考えだ」

 カロンがニコリと笑って言った。一般女性なら陥落しているほどの麗しい笑みであったが、あいにく、この場にいる二人の女性は『一般』には当てはまらない。むしろ、ロシェルは我が意を得たり、とばかりに微笑み返した。

「あなたとは、気が合いそうですわ」

「これは光栄だ。僕もそう思っていたところですが」

 そこで、二人は何故か握手した。男嫌いと言われても不思議ではないロシェルが男性と握手を交わすとは! というか。


「ちょっと待って。どうして今の流れで意気投合するのよ!」


 マリオンが思わずツッコミを入れると、カロンが軽く笑い声をあげた。

「とにかく、君は可愛いと言うことだよ、マリオン」

 まったく意味が分からない。
















「というわけでリシャール。僕はマリオンにロシェル嬢を紹介してもらったよ」

「待て! なぜそうなる!」


 最近思うのだが、この二人、マリオンの診療室を談話室か何かと勘違いしていないだろうか。まあ、診療室と言っても患者が来るよりもマリオンが往診に行く方が多いのだが、それでも患者が全く来ないわけではないのに。

「何故……何故こいつにロシェル嬢を紹介した! マリオン!」

「ええっ!? 私!?」

 なんか飛び火してきた! と思いつつ。カルテをかく手を止めてマリオンはリシャールを見上げる。

「何故って言われても、その場の成り行きとしか言いようがないんだけど。むしろ、なんであなたはあそこにいなかったのよ」

「私は仕事中だ!」

 そりゃそうだ。カロンは軍務省所属の為、兵の練習を見てくる、とでも言えば訓練場には行けるが、リシャールはそうもいかない。まあ、今回のカロンはマリオンに付き合っていたわけだが。


「でもさ。確かにカロンはハンサムだけど、リシャールだって負けてないし、それに、そもそも、女好きのカロンがロシェルの御めがねにかなうわけないでしょ」


 逆はあるかもしれないけど。何しろロシェルは絶世の美女だし。そんなマリオンの心を読んだわけでもあるまいが、カロンが「そうそう」と相槌を打つ。


「ロシェル嬢とはいい友人にはなれそうだけど、僕の好みからはちょっと外れるかな」


 絶世の美女に対しなんというセリフだ。マリオンはちょっと感心してしまった。カロンの心臓は鋼鉄である。

「友人て、どのあたりでそう思ったんだ?」

 妙なところに食いついてきたのはリシャールだ。カロンは満面の笑みで言ってのけた。

「マリオンは可愛いよねぇ、っていう話で盛り上がったんだ」

「どうしてそれで意気投合するのか解せぬ」

「まあ確かにマリオンは可愛いと思うが」

「なぜそこでも同意に至る」

 マリオンはツッコミを入れつつ、カルテを書く手は止めない。書き終えてからファイルにとじ、机のわきに寄せた。


「気が済んだなら出てってよ。これから診察に行くんだから。リシャールも、また偶然を装ってロシェルに紹介してあげるわよ」


 投げやり気味のマリオンの言葉に、リシャールは「頼む!」と力の入った返事をする。マリオンは適当に「はいはい」とうなずいた。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


マリオンは頭がいいだけで普通の女の子っぽく書いてます。



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