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日本の刃物その特異性

 音の実験をしたことを必死に謝ったけれど、なかなか許してもらえなかった。

 肉類は持ってきてあるので海産物を食事に出す事と、弓を売ることが条件でやっと話しを聞いてもらえるようになった。


「ここって、そっちの人達にとっては荷台みたいに欲しい物があるでしょ? 囲まれたら身動きとれないから」


「そん時は、弓でも何でも使えばいいだろ」


「そうだよ。魔法が無くても山を吹き飛ばせるって聞いたよ」


「出来るよ。出来るけどさ。そっちの世界だとドラゴンを魔法で倒せる人がいっぱい居る?」


 居たら居たで怖い世界だけど、ドラゴンが長年放置されていたらしいので、目の前の人達は特別だろう。とにかくこっちの世界では侵入者を害をなすと捕まる可能性がある事を説明した。


「その考えは立派だと思うけど、訳がわからないよ。泥棒招き入れて、出て行くまで保護するの? その法を作った人は人の心を持たない人だよ。親の形見でも我慢しろっていうの?」


「いやいや、セリーの言うことは解かるけど、仕方が無いところもあるぞ。前にウチで働いていた使用人が下賜されたヤツを壊しちまったんだけど、弁償できなくて奴隷になっちまった。正直言って邪魔で価値なんて無かったんだったんだけどダメだった。あの人にとっては、そっち側の法がよかっただろうな。まあ、たんなる賊なら容赦しないが」


 物の価値を個人にするか、他人にするか? どっちも正解なんだろうけどね。


「アル? 使用人って??」


「んあ? ああ、借金抱えて奴隷落ちしたけど、そのままウチで雇った。元々仕事は出来たし、事故みたいなもんだったからな。給料から借金返済へと変わっただけだよ」


「シュー君。なんとアル君は貴族様だったのです。まー、この前までずーと黙っていたせいで、パーティー崩壊の危機なんだけどね。だますつもりは無くてもある程度本当の事言っておいたほうがいいよ」


 セリーはソファーに座っているアルベルトの背もたれに座り、「何不貞腐れてんのー」と、ほっぺたを引っ張っている。

 実家を出てその事を話さなかったアルと、権力に虐げられた事のあるパーティーメンバーでいざこざがあったそうだ。


「ねえねえ。そろそろ髭抜こうよー。二・三本飛んで生えてると汚く見えるよ。お城に泊まったときにはすべすべしてたのに」


「抜くの!? そっちの方が綺麗なんだろうけど、痛そう」


「アル君って、厳ついわりに肌が弱いんだよね。普通のナイフじゃ真っ赤になっちゃうんだ。女の子が使っているような剃刀使わないと嫌がるの」


「髭ぐらいどうでもいいだろ。剃刀なんて使ってたら、笑いもんにされるぞ」


 剃刀で無駄毛を処理しているのは女の人と、貴族や商人などの顔を売る人達だけらしい。男、しかもアルのように戦う事を生業とする人が宿で剃刀を借りるのは男の沽券に関わるとの事。「男だったらナイフで時間をかけずサッと終わらすんじゃ」と言うのがあっちの常識なのだそうだ。


「でもねでもね。ナイフじゃヒリヒリして痛いけど、髭が伸びると肌が弱いから荒れてボロボロになるの。悪党になりきれない悪党みたいで、かわいいよね」


 顔をしかめて「うっせい」と吐き出す姿は、悪ガキの好物が甘い物だとバレた姿のようで見ていて気の毒になる。無精髭の顔は似合っているが、ない顔も見て見たい。

 どうせだから徹底的にやろうとセリーさんが荷物から剃刀を取りに席を立った。そのときに「剃刀くらい買えばいいのに」と言うと、「あんなぺらぺらしたもん荷物に入れたらぶっ壊れる」との回答。現物を見せてもらったらカッターの刃より薄くて硬かった。


「さすがにこれは危なくないか? 力が入ったらパキンって割れちゃうよ。もっと厚い方が絶対良いって」


 セリーさんがアルの髭を剃ろうとするのを止め、蒸しタオルをレンジで作りアルの髭の生えているところに被せておく。普段使っているTの字の髭剃りだと、刃が髭に噛んでしまいそうなので古いタイプの剃刀を洗面台から持ってきたら、アルを膝枕しているセリーさんが手を出していた。


 何こいつら? この姿が当然の顔してるし。ナチュラルに殺意が芽生えてきたのですけど!!


「それ、普通のナイフ並みに厚いけど、剃れるの? 硬すぎて肌に悪そうなんだけど」


「剃るには硬くて刃が薄いほうがいいんだけど……」


 左手に持ったシェービングジェルを渡さないのは、いつもと同じ状況で違いを分かって欲しいからです。特に意図はありません。


「ふーん。アル君、顎上げててねー。…… おお! なにこれスゴイ! おもしろーい。アル君痛くない? あっ、動かないで」


 膝の上でマネキンのように動く事を禁止されたアル。顔を抱きかかえ、刃が当たるところに顔を近づけ剃るたびに驚いているセリーさん。

 何故だろう? 茶化すのも馬鹿らしく思えてきた。


 このやるせない時間をどうにかしようと思ったけど、特に思いつかなかったのでお茶を飲みつつ眺めていた。


 グルーミングという行為を知っているだろうか? 主にペットに対する愛情表現で、体を触れることにより相手の体調と愛情を確かめ合う行為である。信頼しあわなければこの関係は破綻する。ちょうど目の前で楽しそうにしているセリーさんと目をつぶって気持ち良さそうにしているアルのように……。


「はい、終ーわり。これすごいね! 欲しいくらいだよ」


 向こうの刃は両刃でVの字に研いでありで、この剃刀は刃が片面しか研いでいない。しかも、もう片面は凹んでいて鋭くなっている剃刀は見たことないそうだ。


「確かに。髭に引っ掛からなかったよ」


「ウン。ソレハヨカッタヨ」


 恥ずかしくて買えない? 男の沽券に関わる?? それはきっとやり方に問題があるんじゃないかな?


「こんなにゴツイのに、切れ味が良い。シュージのところはこんな刃物ばっかりあるのか?」


「エ!? あ、うん。ウチの国ってちょっと変なんだよね」


 日本は島国。大陸から金属の加工技術がかなり遅く入ってきた。

 稲穂を刈るためのに使っていた石包丁から、青銅の剣・高い金属加工技術。これらが一気に入って来たので、金属はよく切れるものだと錯覚したのかもしれない。

 大陸では金属は加工できる硬いもの。日本ではよく切れる硬いもの。この考えが発展させる方向を分けたのだろう。しかも、島国だから他からの情報が入ってこない。


 ヨーロッパにあるような金属製メイスは強力な打撃を与えられる。これが石だったらおそらく割れて使い物にならなかった。それと同時に、接地面の少なく殺傷能力の高い剣が一般でも広まったのだろう。

 日本では、力や権力を現す剣の形で伝わった為に、鋭くそして斬れる事が重要となり、刀匠が試行錯誤し発展させていった。

 加工技術が無かったから。剣の形で入ってこなかったから。島国ゆえに比べるものが無かったから。これらが日本の刃物技術を発展させたのかもしれない。


 形が似ているのはサーベルや蛮刀と呼ばれるものがある。

 同じ武器のカテゴリーに入り形も似ているが、コンセプトも使い方も違う。

 剣の打撃を斬撃に特化に変えたのがサーベルで、元が剣の使い方なので振り下ろすように使う。青竜刀も斬撃だが、こちらは刃の重さを利用して振り回すように使用する。

 対して日本刀の使い方は、体の重心を保ち、刃筋を立てないと斬る事ができない。

 海を渡ればすぐの隣の国の韓国の剣技が体を激しく動かし、回転しながら斬ったりする事は基本的に日本刀には向かないし、意味が無い。どちらかといえば青竜刀の使い方をするサーベルで別物なのだ。

 これらのことを考えれば、日本が向かった発展は独自と言えばいいのか、変わっていると言えばいいのか判断に困る事になる。


 最強の剣は何か? そんな企画があるけど、同じ木を切る道具の斧とノコギリを比較するくらい発展の仕方が違う。おそらく魔法文明と科学文明も同じだろう。


「そういう訳で、日本の刃物って削ぎ切るとか、掻っ切る事が前提なんだよね。ただ個人的に魚の出汁をとったり、肉に味をしみこませたりする料理は向かないんじゃないかなって思うんだ」


 漁師さんが骨ごと叩っ斬って作る鍋料理ってもはや鉈の使い方で、一般家庭の万能包丁じゃまったく同じように出来ない。そういうのは中華包丁の方がやり易い。


「んーん、オレには向いてないな」


「それ見せて! こう首を切ったり出来るんでしょ? 欲しいかも」


 セリーさんが背後からアルの首を持ち上げて喉元を滑らすように手を動かした。

 似合いすぎて怖いんですけど。


「いやいや、日本刀は登録しないといけないんですって。だから買ってきたとしても渡す事は出来ません」


「じゃあ作って」


「無理です。一通りの知識はあってもウチには材料もなければ、設備もない。何より技術がないし、免許だって必要になるんじゃないかな? ないないづくしでどうしようもないです」


 断ってからまずいと思った。


「それじゃ用意するから、調べといて。オリハルコンで作れる? あれ高いから量はそんなに集められないよ。でも、ミスリルの方が綺麗だしなー。どうせ作るなら綺麗なほうがいいしー」


「なあ、セリーさんを止めてくれよ」


 そもそも使うのは玉鋼だし。そんな事よりやっぱりオリハルコンあったんだ。


「諦めろって。あいつの戦い方って特殊だし、やっぱり剣が使いにくかったんだな。おまえも悪いんだぜ? オレ達の方は儀式剣とか大剣とかが多いのに、へんな希望上げちゃったからな。ドラゴン討伐で金持ってるから、自粛しないだろうな」


 日本刀も見たこと無いのに何で決めるかな? 大体オリハルコンってどんな金属だよ。

 セリーさんは腰に下げていた、手に乗るサイズの小さな袋をテーブルの上に出し、



「準備はこのわたし、セリーちゃんに任せて。その代わり調べられるだけ調べてよ。お礼はこっちの移動魔法袋を上げるから」

「よし乗った!!」


「(それじゃ割に合わん、さすがに詐欺だろ。せめて拡張型渡してやれよ。仕方が無い生命のアミュレット位付けるように言っとくか)」



投稿したと思ったらしていませんでした。

夜にもう一話投稿します。

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