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定規の重要性

 電気屋さんが俺の敷地に電気を送る為に、俺の敷地に電柱設置費を毎月支払うくらい人のいない山の中。一人の男がノコギリ片手に作業していた。


 ジェットバスを知っているだろうか?

 お風呂の一部からお湯が勢い良く噴き出すアレである。

無論お金を出せば買えるのだが、使う本人がお金をかけず、しかも電気を使わずという縛りプレイが大好きな為、自分で設計している。


「フイゴとクランク……カムだっけ? それ使えば何とかなるだろう」


 この調子で水車や作業場の小屋を作っているのだからそれなりに技術もある。

 ちなみに自宅は、安全面からお金を出して建ててもらった。


「おーい。荷台返しにきたぞー」


「壊れてないならそこらへん置いといてー。それと、この前貰ったドラゴンのタンで燻製出来たよー。そこで待っててー」


「マジで作ったのかよ。あっ、そんな事より頼みがあるんだ」


 そんな事言われても、もう取りに行ったし。


 十五日前にきたドラゴンを倒したというファンタジーな人達。

 野営やっていたら光が見えて家に来た。そのとき家は電気も水道も通っていたし、今でも通っている。山を下りれば、少々寂れているが商店街もある。

 そのときはコスプレした人が馬鹿な事をしてるのか? そう思ったが、どう見ても人間じゃない人種と魚ではないでっかい鱗を見せられ、仕方なく作業用の小屋を貸した。

 翌朝、車に連結してある荷台を貸してくれというから、寝ぼけたまま貸してしまった。いくらなんでも朝五時は辛いよ。

 二度寝して十時頃起きたら、「要らないならタンをくれ」と冗談で言っておいたタンが玄関においてあったのと、荷台がなくなっていたので現実なのか夢なのかよくわからないまま燻製を作っていた。


「お酒飲んでも平気? これはウイスキーが良くあうんだよ」


「お前、話聞いてないだろう! 俺のほかに二人いるんだから話を聞けって」


「仕事中だったのか。すまん。先触れを出しておけばよかったな」


「りょーかい。お客さんは三人ね。作業場で悪いんだけど適当に座っててー」


 鳥の軟骨みたいにコリコリと硬いわりに味がしっかりとついている。ワインも合うがガツンとくる酒にぴったりだ。そのままでもいけるが軽くあぶった方が個人的に好きなのだ。


 酒瓶とグラスに氷。ドラゴンのタンと塩にレモン汁の小瓶を持っていったら、この前の男と詰襟の豪華版軍服のような男とドワーフらしきオジサンが図面と作業場を見ていた。

 たぶんドワーフ。おそらくドワーフ。ファンタジーで鍛冶師で有名なドワーフ。

 ヤバイ。テンションが上がる。


 この前は、どうやってこの家に来たのか気になっていたし、下に下りるまで変な世界に迷い込んだのか不安だったのが吹き飛んだ。


「あんた、これだけの道具をどこで手に入れた? どれもこれもが等間隔で目盛が振ってある。だけど、これはまだいい。こっちの半円だ。この目盛は何を基準に作ったんだ?」


 製図道具は高校の時の物だけど、定規はともかく角度って何を基準に決めたんだろう?


 テーブルの端に置いてあるノートパソコンで調べる。


「一年が三百六十日だったときの名残かな? あ、この九十度を直角って言うんですけど、二でも三でも割りやすい数になってるからそのまま便利で使っているみたいですね。知らなかった」


 作業台の引き出しから三角定規を取り出して、四十五度を二回、三十度を三回使って、直角を描いた紙と分度器をドワーフさんに渡す。

 納得するかどうかは任せるので、自分の分のお酒をグラスに入れこの前来た男に声をかけてみる。基本はセルフでお願いします。


「アル? でしたよね。今日は前に来た人と一緒じゃないんですか?」


「ああ、本名はアルベルト。みんなはアルって呼ばれるからそっちがいい。それと、悪いな。ドラゴンを国に持って帰ったときに荷台が誰が作ったって問題になっちまって、俺が代表で連れて行くことになったんだ」


「そういえば名乗っていませんでしたね。私は情報部隊のカナン。もう一人は技術顧問のブランク殿です。賢者殿のお名前は?」


「賢者はやめて下さいよ。佐々木 修二です。今は体を壊して無職の四十代」


 普段だったら四十代で、ポカーンと私の顔を見る人を増産する童顔男。だけどこの三人は無反応。ドワーフさんはこちらをちょっと見ただけで、分度器と定規をいじっている。

 若く見られるのはいつもの事だけど、期待していた反応がないと寂しい。やはりエルフが居るのだろうか?


「シュージ。この透明な材質も謎だが、この真っ直ぐなハカリの作り方を教えてくれ」


「分度器じゃなくて?」


「あんたが言ったんだろう? 直角ってのを九十度にすれば二とか三で割っていけば、やがて一度をわり出せる。そんな事より、これだけ小さなハカリなのに直線を維持できるんだ? 形状は違うがそれが幾つもある。限りなく真っ直ぐに金属を加工できるが、ここまでは難しい。この技術を教えてくれ」


 ドワーフのいるファンタジーの世界だから分度器は発明されてないだろうと思っていたが、そこは自分で解決したようだ。

 うん。考えてみたら定規抜きで定規をを作るって難しいな。


「えーと、紙を折って、折り目を―――」

「それは直線を判断する為だろう? あんたがやったように直線を引くのに使いたい」


「それなら、糸に墨をつけてピンと引っ張りパチンと叩くと木材とかに墨がつくでしょ。それを切って―――」

「確かに有効だな。だが、それを切るときズレが出た場合、どうする? それに、木は水分で歪んだりするだろう?」


「……その定規をあげるから、鉄板につけて刃物で少しずつ傷をつければ? それで出来た定規で他の定規を作る。そうすれば倍になっていくし」

「有効だが、定規というのを作ったとして、代を重ねる毎に少しずつ劣化するだろう? 初代と百代目だと違いが出るだろう」


「幾つかあげますから、それを初代。初代から作ったのを二代目とし、高級品で。二代目から作ったものを三代目にして一般用って売れ―――」

「そんなんじゃ―――」

「ブランクさん! 貴方の熱意は買っていますがシュージ殿に迷惑をかけるようなマネはいけません。提案自体も我が国に利益があるでしょう」


 この人、最後の本音まで言っちゃったよ。天然なのか? それともワザとなのか? 


「そこらへんに捨てた端材があるから、定規に使っていいですよ。ここなら工具もあるし加工も簡単でしょう」


 金属・プラ・木の端材かごを引っ張りだし、ちょうどよさげなモノを金属加工に使っている卓上電動丸ノコの台に置いたときに気が付いた。





「上から丸ノコの刃を落とせば直線になるじゃん……」

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