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お肉の焼き方

アミュレット:悪い力を『遮断』して身を守ってくれる

タリスマン:良い力を『与えて』御利益をもたらす

なので、修正します。

「叔父さん。お久しぶり…… え?!」


「アッ?! えっと、どなたですか?」


 修二がレース規定の合間に居間でジェット装置をロボットなどのブースターにできないか考えていると、ウッドデッキから客人が入ってくる。


「おー、優里ちゃん久しぶりー。ここに来たってことは大丈夫そうだね。えっと、姪っ子の真田 優里。んでもって、居候三号で押しかけ弟子のフォルシス。仲良くしようや」


 彼女の母親が重い病気にかかり、弱い薬で症状を抑えていたが、タリスマンを渡し体力の回復に努めてもらった。これで、やっと治療が始められる為お礼に来たのだ。


 よかったよかったと暢気な叔父に優里は腕をつかみ、キッチンへと連れ去っていく。

 暢気そうに見えるが修二の心は焦っていた。電話連絡くらいだろうと思っていたのが、敷地内に正面から入ってくるとは思わなかったのである。


「あの人何者? 弟子って何の? 騙されてない? 前みたいにいじめられてない?」


「いじめって…… 弟子なのに、いじめはないでしょ。それに、騙されたとしてもあのタリスマンだけで全財産渡してもいいものでしょ?」


「なんかそれ聞いたら急に胡散臭くなったんだけど……。それより本当にあれが効いたの?」


 現代では詐欺行為に近くても、ファンタジーの住人から見たら常識。不思議現象は修二は目の前でベルが飛行魔法を使った事によってある程度耐性ができていただけだった。


 ここでファンタジー世界を正直に話すべきかを考える修二だったが、メリット・デメリットを考えている途中で考えるのを放棄した。

 考えば考えるだけ深みにはまっていくし、何より、神ならぬ身にすべてを見通す事は出来ない。別の言い方をすれば考えるのをやめたとも言う。


「優里ちゃんって、魔法少女って好き?」


 人は唐突すぎる質問を聞かれると時間が止まるときがある。


「ソ、ソンナ事ハナイヨー。私ハ、フワフワ系ハ持チ帰ッタリシナイヨ? 何処カラ、ソンナ噂ガ……」


「二次元じゃなくて、中二病っぽい方の魔法の方だからね? あと、出来れば早く彼氏を作って叔父さんを安心させてほしいかな~」


 ファンタジーで魔法。高校生で魔法と言ったら、魔法少女ぐらい誰もが通った道だろうと思っていたが、現在進行形でかなりディープな方へと足を踏み入れたらしい。

 もっとも修二は、時代劇を見て登場人物や歴史よりも小道具に興味を持ち再現しようとしたタイプなので人の事は言えない。


「見ているんでしょ? ケイさん。出てきてください」


「食事と宿をお世話になっている身としては出て行かざるを得ないですね。何の御用でしょう?」


 天井から落ちてきた影は、その種族の長所である身軽さを十二分に生かし小さな音だけを残して修二の横に立つと、


「こんにちは、お嬢さん。お願いだから私の友達に手を出さないでね」


 普通の人から見ればきわどく、獣人から見ても露出度の高い装備を外したケイが少しばかり困った顔で釘を刺し、リビングへと向かった。

 だが、言われた本人は忠告よりも夢中になるものがあって、ゆっくりと修二に近づき、


「……叔父さん。私、コミケ以外で背中丸見えのホルターネック着ている人初めて見た。何あれ? 腰の位置高っ! 反則だよ」


 ホルターネックとは、かなり強引に言うと金太郎の前掛けと構造が同じようなものである。

 ケイの普段の服装はホルターネックにショートパンツだけで、旅に出るときに双籠手のようなものとスカートのように革を腰に巻いている。

 獣人の血を引く人は体を覆うものを少なくする傾向がある。ケイの今の服装はリラックスしていることの証である。


「叔父さん? そういえば、あの人ってどこのレイヤーさん? ケイって名前であんな綺麗な人見たことないんだけど」


 天然の狐耳と尻尾を見せても、『魔法少女』と取っ掛かりを出しても話の持って行き方でヒドイ勘違いを生むのだと修二は実感したのだった。






「圧倒的に叔父さんにメリットが少ないのだろうけど、趣味人だし仕方が無いかも。それよりも、そっちに行けないってのが惜しいわね」


 優里は様々なことが理解はできないが一応は納得はしている。

 「文字や言葉はなぜ理解できるのか?」と、聞いたら「魔法がある世界でこっちの理屈は通らない。無理やり納得するとしたら、夢の中ではどんな言葉でも理解できる。ここでも魔法が使えるのだからそういう概念が働いているのでは?」と。

 つまり、不思議空間らしい。


「それよりも、ユーリちゃんって本当に十八なの? フォルシスちゃんとそんなに変わらないように見えるんだけど」


 この家にいるメンバーでは一番幼い姿のセリーだが、ハーフリンガーの父親を持つため種族特性といってよい。ちなみに妖狐のケイが一番上で次に修二の四十歳、アルの二十七にセリーの二十四、優里の十八で最後にフォルの十四歳となっている。ブランクは王都に、リジャールは人手を集めるため町に戻った。


「日本人って幼く見えるからねー。それよりも、妖狐のケイさんって耳や尻尾ってどうなっているのかな?」


 キッチンで料理を修二に教えているケイの姿を見ていると、誰もが疑問に思えることを口にした。


「シュージも聞いていたけど二対あるぞ。たぶん下の耳は全体の音を聞いて、上の耳は動かして任意の方向の音を聞いているんじゃないか?って言っていたぞ。尻尾は……なんだっけ?」


「尾は人間と同じ尾骨の位置からだそうです。ただ、座るのに邪魔にならないよう骨盤が変化している可能性があるらしいです」


「よーするに、お尻がおっきくなるんだよねー。わたしはおとーさんに似たから全部がちっこい……」


 仙骨の角度が大きければ体を支えるのに寛骨もしっかりするらしく、お尻が大きくなる。それに伴い、お腹の筋肉量も多いため太る方が難しい。簡単に言うと獣人の方が筋肉質でスタイルが良い。


 お腹回りを気にする女子高生から見れば不公平の権化がお肉山盛りの料理を運んでくる。修二がまだキッチンにいることを確認して、


「叔父さんのお金に群がる人達じゃないのがわかったわ。あの人家族には恵まれなかったの。叔母さんと赤ちゃんが亡くなって、あの人の母親が渡せとかひどいこと言ったらしいから。疑ってごめんね」


 互いに法が整備されている地域で育ったため、賠償については理解している。細かな法は違えど、こういった賠償は家族に渡されるべきであって一族に渡すものではない。どちらの世界でもそんな事が知れたら後ろ指さされる結果になる。


「修二叔父さんの名前なんだけど、こっちの字では二の字が付くの。大体二人目の子供につける漢字なんだけど、長男が最低の人でね。お金に困っていたんだって。ウチのお父さんも一緒にいたときに『長男があんな風に育ったのは修二が教育を手伝わなかったから』って言ったんっだよ。他人に責任を押し付ける最低の人なの。他にもあったんだろうけど、こうやって他の人が近くにいることにびっくりしたんだ」


 この場にいた全員が唖然とし、意味が解ってから怒りと涙が溢れて出てきた。だから優里は最後に「あの人の真心を裏切ったら許さないんだから」と言ってキッチンに手伝うーと陽気に歩いて行った。


 こんな状況で残された方はどう動くか決められないでいた。

 所変われば品変わるを身をもって体験してきたアル達だったが、長男の教育を次男が手伝わなかった所為にするなんてありえない。修二の母親の言葉はありえない。だけど、確かに他人に責任を押し付けて生きる人も見たことがあるのだが、一番の影響のある親がソレだと庇護下にある子供は近づきたくない人物に育つ。

 アルは沢山手助けしてもらったが、本当の意味で助けてくれた理由が甥っ子のベルみたいな子供が辛い顔をするのが嫌だからと言っていたのは、自分の幼少期に重なったのではないのだろうか?


「ちょっと! つまみ食いは行儀が悪いでしょ」


「なにこれ!? お肉の味がしっかりしてる。後で作り方教えてよ」


「コツは解ったけど、理屈はこれから調べるとこなの」


「叔父さんってさぁ。キッチンだとオネエ言葉になるよね。何でもいいから教えてよ。お父さんにも作ってあげたいし」


 母親の体調が悪い優里はそれなりに料理をする。ただプロの主婦は冷蔵庫の中身で料理を決めるが、料理を決めてから材料を揃えるので、アマチュアの主婦に近い。

 修二も場数だけは多いのでプロの主夫に近いが、ちょくちょく科学の実験になってしまう事が多い。


 ちなみにこの日のメニューは、厚く焼いたクレープ状の生地で削ぎ切りにした肉を包んだり挟んだりして食べる。修二は肉の味が濃い場合ヨーグルトとレモンで作ったソースが合う事を再確認した。










「あー、おいしかった。アレだね。家で食べるのとちょっと違うかも。ケバブに似ているね」


「おっ! そこに気が付くのはすごいな。経験してわかったけど、日本って肉料理に関しては発展途上。いや、発想が頭打ちになってるかもね」


「え! 世界でも一番おいしいのが集まってるのに!」


 お店の評価本でも世界で一番評価の高いお店が集まっている東京。B級グルメも各地方に存在する日本。宗教でも禁忌が特にないので虫料理など個人が嫌がるもの以外は大体そろっている。

 それなのに発展途上とはどういう事なのか? と、聞くのは当然のことである。


「そうですね。私もこちらの食材を見て料理に合わないのがありますね。食べ方が限られますね。物は良いのにもったいないです」


 すごい露出の美女が落ち着いた清楚な雰囲気を醸し出してお茶を楽しみながら、食材を嘆く。なんとも微妙な光景だ。


「あー、わかるわかる。スライスが多いよね。女でも一回はマンガ肉って食べてみたいもん」


 スペアリブは修二が昔バーベキューで出したことがあるが、指先でつまむのではなく手でがっちり掴んでかぶりつくのは一度は夢見たことがある。


「優里ちゃん残念! 今日食べたのはそぎ切りしたやつだよ。焼くときの厚さは関係ないよ」


 修二がケイから習った肉の焼き方は単純だった。


 『弱火で焼く』


 これだけだった。たったこれだけで肉の味を濃く感じることができるのだ。


「え? 弱火ってどれくらい弱火なの?」


「ガスの火の一番弱火。しかも、フライパンは温めない」


「なにそれ! 強火で表面を焼いて、肉汁を閉じ込めないの?」


 修二は近くにあるパソコンを起動し、自分なりの解釈に必要な資料を画面に出す。


「最初は俺もそう思っていたんだけどねぇ。ステーキ単体ならプロならば出来るだろうけど結局は素人。何千何万とやっている人と一緒にしちゃダメだよ」


 肉を焼くときに表面のタンパク質を加熱によって凝固させるのはステーキなどでは常識だろう。だが、鉄板などで焼きすぎるとたんぱく質の凝固の層が厚くなり、中まで火が通る前に焦げてしまう。


「知ってる知ってる。低温調理でしょ。確かにおいしいだろうけど手間が……」


「情報番組多いからねー。タンパク質の事は置いておこう。なら、鍋だったらどう?」


 日本人の寒い季節の友。地域によって特色があるが、修二がなぜ鍋を上げたのか優里は理解できない。


「いやー。俺も言われるまで気が付かなかった。日本の調理法だったら無意識でやってるんだけどさ……。肉を焼くことに関しては本当に途上国だわ。

 言われてみれば思い出すけど、灰汁だよ灰汁。鍋で灰汁を取らなかったら味がぼやけるでしょ?」


 鍋のスープに灰汁があったらしつこいくらい取り除いて、透明なスープにするほど雑味が無く美味しいと称賛される。

 お肉の灰汁だけなら苦みが少ないが、ポリフェノールなどが灰汁に吸着することで苦みが出てくる。ワイン煮などはこの一手間で甘味を感じやすくする。

 日本人はお肉単体で満足するのではなくお米や野菜と一緒に食事をするので、灰汁を取り除くのが重要な工程になる。焼くときも灰汁が出るのは当然の事なのだ。


「肉オンリーならタンパク質だけ考えればいい。でも、そんなのばかりじゃ満足できないでしょ?

 スーパーであとは焼くだけの生姜焼きとか買ってごらんよ。焼いている途中で肉の縁に灰汁の塊が出来るから。あの塊だけ食べたことは無いけどアレが美味しさをぼかす原因なのかもね」


「灰汁を取り除いて肉汁を出さないって、無理じゃないの!」


「中華料理店の圧倒的な火力で短時間に調理は出来ない。日本人の好きなうま味は『グルタミン酸』と『イノシン酸』で、うま味の相乗作用が無いと満足できないから野菜が必要。でも、野菜を入れると灰汁が苦みを増す。

 ほら、無理なことやっているんだから発展途上なの」


 ここまでくると、実際に料理したケイは何を言っているのかわからなくなっている。かろうじてついてきているのはフォルだが、料理雑学より化学の授業にしか思えない。


「うー。結局どうすればいいのよ」


「たぶんだけど、一番いいのは肉ってのはフライパンで焼かない事。もしくは弱火で灰汁をだし、その水分を捨てること。あっ、料理ってのは何を媒体にして火を通すかなんだ。


 フライパンで熱いのを押し付けるのが      焼く。

 水分でゆっくり火を通すのが          煮る。

 同じ水でも水を吸収させないのが        蒸す。

 油で覆って成分を逃がさないように火を通すのが 揚げる。

 熱い空気を対流させて火を通すのが       炙る。


 ほら、家の料理で炙るだけが出来ない。グリルなら炙るに近いけど、再現できてない。グリルで焼き鳥は出来ないでしょ。大体それに合う言葉が日本にはないんだもん。外国の人も焼き鳥が人気なのは肉料理で一番適した調理方法だからかな?」


 中華料理だと炒め方だけでも専用の言葉が十種類近くあり、料理として完成されている。

 対して日本料理はシンプルな工程を極限にまで高めた料理手法で知識と根気が無いと美味しくない。海外の日本料理店は知識も経験も知らない方が多いので美味しくないのはそのためである。料理人が日本人のふりをするのは、コスプレ喫茶で雰囲気を味わっているの一緒だから過度の装飾品であふれかえっている。


「……結局は究極の方法は家庭だと難しいから、弱火で火を通すまでがお肉の下処理ってこと?」


「化学的な見方からだけどね」


「お二人とも基本的な事を忘れていますよ。そもそもそちらのお肉は油が多くてお肉の味が引き立てません。柔らかいお肉の何が美味しいのか理解できません」


 ケイが言うには、油は舌にまとわりつき美味しさを鈍感にする。適度な脂身は良いが肉が柔らかく感じるほどサシが入っているのは肉を楽しめない。お肉にはそれぞれの風味があるのに油が邪魔している。との事。






「わたし知ってるよ。シュー君がドヤ顔だけど、論点がずれてるからプギャーって言うのが作法なんだよ」



日付が変わる前にパソコン起動できました。

なんでこんなに忙しいのだろう?


次回はネジの予定です。

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