お金の稼ぎ方
「よお! また来たぜ」
「やあ! よく来たな。どうやら成功したみたい?」
避難しに来たときと打って変わってすっきりした顔のアルがやって来た。後ろのセリーさんはかなり……。
「何かあった?」
「聞いてよ聞いて! あそこ酷いんだよ! アルのこと馬鹿にして、最低ー。あいつら絶対許さない」
私、怒ってます。背景に文字を入れるとしたらそんな所だろう。
「お兄様? いったい何があったのですか?」
「それがよくわかんねえんだよ。報酬貰ったから出てきたのになぁ」
報酬もらえてなら良いんじゃないか? 今回はグライダーでン百万の出費なんだから。それで、この地を認めさせたんだけど。
「あー、なるほどな。ちみっ子、アルは家を出た人間だぞ。それが大きな顔をしたらお家騒動になってお家断絶。ワシは王都でたまに聞くぞ」
アルは好意で実家を助け、実家は金品で答えた。労働の報酬だと思っていたが、どうやら違うらしい。
長男が家を継ぐから、三男のアルはお金を受け取って好きに行きろ。つまりこういう事らしい。
葬儀後の遺産相続争いを生きているうちにやっているみたい。
「そっちは大変だねぇ。本家とか分家とか納得はするけど、家ってそんなに大切なモンなの?」
「シュージ方は誰かに継いでもらいたいってのは無いのか? たとえば……。この山を開拓したいとか? とにかく後継者が必要だろ? んで、後継者が二人いた場合方針が変わったりしたら、ついて行く奴らが二つに分かれて結局は足の引っ張り合いになる。つまり、面倒くせーい」
なるほど。こっちは成功例が多いから、先導はやりたい人がやればいいのに、向こうではそれが無い。完成を手探りで探すから旗を持つのは一人じゃないといけないわけだ。
魔法もあるし魔物もいる。将来のことは聞かれない限り不安要素が多いので、極力関わらないほうがいい。
「ちみっ子が不満に思うのは仕方ないが、仕組みってのは最適化されてるんだよ。それよりホレ、日本刀が完成したぞ。ただの鋼だが、これを元にオリハルコンで打てばいいんじゃな?」
日本人の、少なくとも男ならば一度は憧れる日本刀。それがドワーフの手によって再現された。
細かい技術や感覚は専門にしている刀匠には及ばないが、ブランクには苦手でも魔法がある。その魔法で結晶粒を均一に操作できるのだ。
刃の鋼は切断面に直角にし、研ぎ終わったとき顕微鏡で見れば日本刀よりノコギリのように揃っている。対して、全体を包む皮鉄は刀身に沿って針状の結晶粒を揃えており、負荷がかかってもそう簡単に折れないよう出来ている。
魔道具を作るには結晶粒を動かし、魔力が流れやすくて魔方陣のようなものを作り固定している方法と、彫刻をして魔力を流れやすくする方法がある。
金属で魔道具を作るには、魔法を理解金属操作と言われる技法が出来ないと作れないのだそうだ。そして、この技術は同じ魔道具を作るのを得意とするエルフは得意ではない。
「え?! 見せて貸して触らせて!」
ブランクも作品を見せびらかしたかったのか白鞘に収められた刀を準備していた。
「おいおい、ほんとにそんな小枝みたいなもんが役に立つのかよ。斧の方が役に立つって」
「うっせいぞ、てめえは黙ってろ! おい、ちみっ子。抜いてみな。嬢ちゃんは何でもいいから、皮付きの肉を用意してくれや」
本来日本刀が完成するまでにはかなり時間が掛かるが、電動工具があり魔法がある状態。かなり強引だが、研磨剤に魔力で強化し研磨師の技術に似せて磨き上げられた。
セリーが口角を上げ気体に胸を膨らませながらゆっくりと刀を抜くと、勝気な目が大きく開いていき口が唖然と開いていく。
刀の全体が姿を現す頃には手が震え、刀に魅入られていた。
「何よ……。何なのよこれ……」
「何だ? ちみっ子は日本刀がどんなのか知らんのにワシに作らせようとしてたのか? これがワシの打つ日本刀だ」
刃紋は湾れ刃で一尺九寸一分の小太刀に分類される。
約五十八センチ。何故かいまだに一尺二尺と言うのかは知らないが、脚立の種類は一段が一尺なので、日本人の体形での一歩に近いから使っているようだ。
「こいつはすげぇ……。オレも欲しい」
ゼリー自体もコクコクと声を出さずに頷いていた。
「試作品だからやらんぞ。それで、その大きさでいいのか?」
またコクコクと頷いているが、話を聞いていないようだ。
そこにフォルが豚肉のような肉の塊を持ってきた。それを前に買ったトラロープで吊るして試し切りするらしい。
「おっと、斬りつけるんじゃない。掻っ斬れよ」
おそらくどんな剣術の基本となる正眼の構えになり距離をとったセリーだが、ブランクは刃が肉に触れるまで背中を押した。
後から来たセリーとアルは驚きと不安な顔になったが、すでに試し切りをしていた三人はニヤニヤとする顔を止めることができなかった。
何だかよくわからない覚悟を決めた顔で刃を引くセリーに三人はニヤニヤが止まらない。刃物に詳しくないフォルと剣や刀を振るった事のない修二はもちろん、多くの刃物を作ってきたブランクは刃物の別の方向性を知った。
「ぷつんっていった! なにこれスゴイ! 刃を引くと一気に入るし、その後は滑るよ!」
刃が肉に当たっているときは、肉の弾力を刀を通して感じられる。
ほんの少し動かすだけで、肉を斬るというよりも、刃が入っていく。
グミを切る感触を肉でやっているのだから、間違いなくよく斬れる。
さすがは現役のドワーフ。日本刀を予想以上に造り出す。
「コレコレ! こういうの!! うわー。これで首を掻っ斬ったら楽しいだろうなー」
「へー。いいじゃないか。オレも予備として欲しいな」
「アルには合わないよ。でも、解体用で小さいのならいいかもしれないね」
当たり前すぎて忘れがちだが、鋭い刃物は欠ける。日本刀のような鋭い刃物は剣のそれよりも扱いが難しい。
アルのように大剣の使い方に慣れている人は、長く使えないし本領を発揮しない。それが修二より刃物を長く扱ってきたセリーの本能だった。
「応よ。今ならこの技術をものにする為に。使い心地を教えてくれるってなら技術料抜きで、我儘は聞くぜ?」
「そのお茶、すごい匂いがするな」
「昆布茶だからね。たまにうま味が欲しくなるんだ」
フォルやブランクは美味しい事は美味しいが、生臭いと不評だった。焼き魚や貝類なら平気そうだが、寿司は好んで食べるようなものではないようだ。
「それで、わざわざ話っていうのは?」
「お金が欲しい」
「え?! あっ! すまん。これ渡すの忘れていた」
カバンから修二の前に金貨を出されたが、そのまま横にスライドし、
「そっちじゃなくて日本のお金。そっちの資源に影響のないほうがいい」
江戸時代に交換レートが日本と海外で差が激しかった。
その結果、大量の金が海外へ出て、買い戻そうとしても三倍のモノを準備しなければならなかった。
だまされたほうが悪い。又は、知らなかったほうが悪いとなるだろうが、窓口になっているのはだた一人。リスクが高すぎる。
それに金やプラチナなどは日本でも捌けるが、入手先を聞かれたら面倒になる。前回のグライダーだけでもン百万、純金で五百グラム。九ミリ厚で開いた手と同じくらいの大きさが必要になる。そんな物持っていったら普通に目をつけられるだろうし、この先必要に駆られる事もある。のかもしれない、
写真があり顔が判別される分、あっちの人を騙すのとは別の意味でリスクが高い。
「くあっははは。言わなきゃバレないのに、律儀だねー」
「人間ミスするものでしょ? たぶんもう失敗していることがあると思うしね」
「そうだろうな。でもどうやって稼ぐ? オレらはそっちに行けないし……」
一応考えてはいる。当然こっちの人の協力が必要になる。
「ほら、前にもらったタリスマン。アレの効果を弱くしたヤツ大量に手に入れられないかな?」
「弱く? 普通強くじゃねえのか? 」
聖水作れるか試してみて、二日目で断念。中身を植物プランクトンに支配された。
生命力が強くなるのが宿るのではなく、生命力そのものが強くなる。
タイトルを『古代のまじないが甦る! これで貴方も健康が!?』にして、何もしていないヤツと、劣化版・オリジナル版の三つを並べて、水耕栽培の結果を画像や動画にしてネットで売り出す。
あくまで個人の感想『これを近くに置いてから体の調子がいいです』や、『仕事の疲れも取れて、私生活も充実。彼女もできました』なんか書いておけば、それなりに売れる。……と思う。
「イヤイヤ。売りに出すんなら、そんな中途半端なもん作ったって誰も買わないだろ! せめて、折れた骨が一日で繋がらないと……」
「だーかーらー、そっちの常識をこっちに持ち込むなって。いいか? 俺達のところは魔法はない。自然治癒を助けることはできるけど、高めることはありえない。全治四週間の骨折を二、いや三週間でもこっちでは効果があるって、思う」
効果があったかも? これで現代社会ではお金になる。
「そんなんでいいなら、エルフが得意だな。あいつらは生命に対する事は得意だからな。今回貰った報奨金で依頼できるぞ」
「三百、五百あれば十分かな?」
「せめて千にしないか? それで、この半分が渡せる。そうじゃなきゃ依頼は受けてもらえないかもよ?」
「え?」
「え?」
三百が完売したら回収できる。五百あれば次に何かあっても問題ないだろう。そう思っていたところ千で金貨の半分しか使わないようだ。
これは思った以上に相場が違いすぎるのではないだろうか……。