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漢の浪漫

「ようシュージ。また面白い事教えてくれるんだってな」


 セリーさんが連れてきたのは、ブランクさんとお弟子さん達みたいだ。


「あんたが言っていたタイヤと同じモンは作れなかったが、似たようなもんは出来た。今度は飛行魔法に挑戦だってな?」


 ニヤリと笑った顔で詰め寄られた。セリーさんが一人で走って王都につくまで三日。ブランクさんが準備とお弟子さん集め馬車でたどり着いたのが三日。タイヤもどきが作れて馬の速度を気にせず二日の短縮ができたらしい。

 車輪にはゴムのように伸縮性が見つからない代わりに、ソーセージのように小分けして並べた物を巻いて、その上に蛇皮みたいなモノで全体を包んでいる。タイヤもどきに凹凸がある分、地面をしっかりと噛み舗装されていない道に適しているのかもしれない。


「飛行がメインじゃなくて、治療がメインですよ。それに今回は急ぎなので、こっちで飛ぶ為に作られたハンググライダーを組み立てるのがメインです。仕組みはフォルさんに聞いてください」


 フォルさんことフォルシスはベル君ほど強力な魔法は使えないそうだが、まったく使えない俺からしたらそれだけでも羨ましい。ちなみに、魔力の強さはベル君・アル・フォルさんの順だそうだ。そりゃ、フォルさんが血筋以外でも卑屈になるのも頷ける。

 アルとベル君は向こうの世界に移動し、開けた場所で飛び回ったそうだ。しかも、推進力が自前で出来るから、かなり自由度が高いみたい。話を聞くだけでも楽しそうなので、暇があったらライセンスを取りに行こうか迷っている。

 フォルさんは弟子っぽい何かになるのを諦めてなく、今も居間でお茶を飲んでいる全員の世話をしている。

 

「飛行魔法を使える奴らはそれなりにいるが、全員じゃねえ。それが飛べるんだから十分だよ。それと、魔力枯渇症が治まったら陛下がこの土地の権利を認めるってよ。元々住んでるんだから認めるも何もないんだけどな」


 ガハハと笑うが、認められないと変な奴らが湧いてくる。封建社会でトップに認められる事こそ安心感が高まるのだ。これで、ここ一帯の領主が文句が言えなくなるだろう。

 商売敵がいなく、国益に繋がる物だけ教えといてよかった。これで、この先金品を稼げるヤツを紹介しても向こうの人たちが攻めにくくなる。

 本当にお金が掛かったけど、素人が手を出して命の危険があるよりも、安全にを買った。


「ところでブランクさん。ちょいとばかり相談があるんですけど、聞いてもらえます?」


「おうよ。今回ワシは見届けるだけだ。組み立てるだけなら弟子達に任せる事にする。その代わり、そっちの日本刀について教えてもらわないとな」


 どうやらこちらに向かう途中にセリーさんから聞いたそうだ。技術顧問がセリーさんの刀を打つらしい。いや、技術顧問だから打ちたいのだろうか?


 今回は輸入と同じでやることが無く、せいぜい、使い方と聞かれたら答えるのだけで終わった。そのおかげで作りたいものが出来たのだ。


「わかりましたよ。集められるだけの情報は全部出しましょう。その分協力はしてくださいよ」


「ほー、あんたが頼むとわな。面白そうじゃないか。それでどんなやつだ?」


 ニヤリと笑うその笑顔は、無茶な事をやるのが楽しすぎる。そう顔に出ていた。


「風と火を使った魔道具の推進装置。ジェット装置」


 実際はタービンを使わないから本当にジェット装置なのかは知らない。別の呼び方もあるのかもしれない。


「無理だな」


 どんなものかもきちんと説明すらしていないのに、却下された。


「ワシは装置を作る技術者で、魔道具の専門家じゃない。指定した魔道具を組み合わせる事ができても、魔道具を作る事は難しいぞ」


 ブランクは魔法が得意ではない。魔道具を作るには、魔法がそれなりに使える事と、一つ一つが何の役割をしてどれだけの強さが必要になるのかを理解しないといけない。

 単純な火や水が出る魔道具ならブランクでも作れるが、組み合わせるとなると手に負えなくなるのだ。魔法の袋を生産できないのがその理由である。


「魔法が使えて道具作りに興味があって初めて魔道具職人になる。しかも、魔道具職人は金になる。わざわざ新しい物を作らなくても良い生活になるし、そんなもの作る暇があったら性能を上げることに力を入れるからな」


「あの! 私なら出来ます。やってみたいです!!」


「ふむ、これで面子が揃ったな。さあシュージ、詳しくその装置とやらを教えろ」


 何も知らないブランクと期待に目を輝かせるフォルシス。作ってみたい物が出来た修二はこの提案を請けざるを得なかった。






「それでシュージ。あんたが作りたいモンが何となくは分かるんだが、どうやって作るんだ?」


 作りたい物は頭の中で出来上がっているが、実際に試した事が無いし、説明しにくいので外で実験する事にした。


「あれ? シュー君、どこか……! 日本刀作ってくれるの!?」


「セリーさんはもう帰ってきたのですか?」


 ブランクさん達を連れてきてからすぐにアルの所でグライダー体験しに行ったのにずいぶん早く帰ってきた。


「楽しかったよ。でもね。あの二人ほど魔力が続かなくてすぐ置いてけぼりなんだよ。やっぱりそういうのはちょっと面白くないかな」


 魔力が続かなくて面白くないのか、置いてけぼりにされたのが面白くないのか、微妙な言い方である。


「まー。こればっかりは仕方が無いからね。それで何やってるの?」


「ちょうど良かった。ちょっと思いついた事があってね。実験するから見ていく?」


 誘ってみたら「どうせヒマだからね」とついてくる事になった。


 作業場に金属製で余っている物があまり無いのが痛いが、今回は仕組みさえ理解してもらえばいいので適当な物を使って説明する。


「空を飛ぶときに候補に入れたのの一つにパラグライダーってのがあって、その中に背中にエンジンを付けて飛ぶ種類もある。あっ、エンジンってのは……今回は背中で風を起こす機械だと思ってください。こっちの人はスピードを出すのに風の魔法を使っていると聞いて思いついたんだ」


「おっ! シュー君ナイスタイミングだね」


「質問です。『今回は』というのは普段どんな事に使っているのですか?」


「何でも使うよ。ウチの車乗ったでしょ。あの車を動かすのもエンジンだし、船を進ませる為のもそう。燃料とエンジンがあれば大体のものが動かせるかな」


 六日間一緒に暮らしているが、電気は魔力と同じようだと説明している。その電気を作るためのモーターや発電機の事はまだ説明していない。

 ちなみに、車に一緒に乗った場合は山から下りられるのか? その答えは、ナゾの空間のループだった。


 電気配線で使っていた鉄パイプ E25を十センチくらいの長さにバンドソーで二つ切り、ゴミ箱の中から空き缶を拾ってくる。


「物凄く簡単に言うと、フイゴと竈が合わさったヤツ。入り口から空気をどんどん送り込んで中の火をガンガン燃やして、外に出す。これを縦向きじゃなく横向きにやるんだ」


 空き缶の底を鉄パイプより小さな穴をドリルで開け、上の飲み口にはペンチとニッパーで鉄パイプが突き刺さる大きさに穴を広げる。

 本来のジェットエンジンは、空気を圧縮して燃料を噴射し、点火して推進力に変えるのだが、ここら辺を魔法に置き換えたいのが軽い説明なので省略している。

 切った鉄パイプを穴が塞がないように石を使って立て、その上にパイプが突き刺さって煙突がついた空き缶を乗せて準備を終える。


「これから空き缶の中で火を燃やすんだけど、本当は下にある入り口から風の魔法を使うし、中は火の魔法を使うつもりです」


 松根油を精製すればジェットエンジンを動かす事は可能だが、エンジンの寿命やコストを考慮すると諦めざるを得ない。それを魔法を使って作りたいし、オリハルコンなどの謎金属なら、高出力を出せるのではないか? これが修二が思いついた物だった。


 木屑を火を点けながら煙突の出口のから次から次へと投げ入れる。木炭を使っても良いのだろうけど、予想が正しければこっちの方がインパクトが高い。


 しばらく待っていると、ゴォーという音と共にパイプから白い煙がでて、次の瞬間炎の渦へと変わっていく。


「すごい勢いだな。確かにこれなら加速はすごいだろうが、この方法を使わなくても良いのだろう?」


「意味? そんなものは要りません。やってみたかったから作る。超加速ってのは漢のロマンでしょ? 使えるか使えないかはその後に考えます!」


 ドヤ顔の修二を見つめるのは、納得したオッサンと困惑した少女達だった。


「なんでだろう? せっかく頭良いのに……。アル君と仲がよくなる人って大体馬鹿なんだ」


「ウチの方の玩具で投げたら帰ってくるブーメランってのがあるんだ」


「お兄様の……。馬鹿なんですね」


「いやー! 見ないで! こっち見ないで~」


 自分の言ったことに気が付いたのか、泣いて逃げていった。


「セリー様ってあれを素で出来るから可愛いですよね……」





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