どんな手を使うか
「すまんシュージ。助けて欲しい」
鍬で畑を耕していると、春が来る前にアルが来た。
後ろにはセリーさんと同じかちょっと上の女の子と少年。アルはロリコンではなくペドフィ―――
「こいつらを預かってくれ。オレの知り合いは宿無しばかりで頼めないんだ」
よくよく見ると、二人とも似ている。おそらく姉弟で、その特徴はアルにも共通している。
警戒している弟と疲れきった顔で期待と不安に満ちた目の姉、目の前には頭を下げる無精髭が生えてきたオヤジ。それと少し遅れてきた不機嫌そうなセリーさん。
「今、いろんな情報が一気に入ってきて大変だから、とりあえずお茶にしない?」
ものすごく嫌な想像が頭の中に駆け巡っているが、第一声を茶化すべきか真面目に聞くべきか迷っていた。
紅茶に合うお茶請けになるものが無くなったので、白菜・ニンジン・カブの浅漬けに緑茶をだす。弟さんの方は浅くソファーに腰掛けものすごく警戒していた。
「ふー、お茶が美味しい。ところで隠し子は認知はしてあるんでしょうね?」
「してねぇよ。妹と甥っ子だよ」
ノータイムのでツッコミが帰ってくる。これならまだ大丈夫そうだ。
「いやいや、ウソはいけない。セリーさんの機嫌が悪いのがその証拠だよ。結婚前でよかったねー」
「わたしは構わないんだけどね。まぁ、責任感があるほうがいいけどさー。材料そろえる前にこの子達の事聞いたらびゅーって行っちゃったんだよ。このわたしにも説明しないで」
「別れようって言ったじゃん。ん? え!? あっ違う違うそうじゃない。王都で別れて行動しようってなって、それから実家の情報を集めたら大変な事になっていて急いで帰るときについて来たんだろうが!!」
どうせそんな事だろうとは思ってはいた。そうじゃなければ二回目以降会っても挨拶くらいで終わる関係になる。それにこの人、別れる事を否定しているよ。
「それで、何がどうなってこうなった? こっちで手伝える事はある?」
「魔力枯渇症だ。兄貴が対処している。相手は魔力、シュージが手伝える事はないだろうな」
「魔力に関係するなら仕方がない。預かるのはいいけど、どれくらい? 一ヶ月?」
病気なら仕方がない。名前の通り魔力が枯渇するんだろう。それがどんな症状が出るのかは分からないし、急いで連れてきた事から感染症の疑いもある。
「帰る。僕はお父様のところに帰る」
「無理だ! お前だって兄貴の子なんだから解かっているだろが!! アレが出たら最悪土地を放棄しないといけないんだぞ。あの村はもうダメだ」
少年は警戒して座っていたのではなく、思いつめていたのだろう。それに思っていたより深刻な事態のようだ。
「アル? 話が見えない。魔力枯渇症ってのはどういうもので、どんな対処法があるのか初めからきっちり話せ。そうじゃないとこっちも何も出来ないし、協力だって難しい」
二人が言い争いを始めようとしていたが、無理やり割って入った。
人が話し伝えるというのは、頭を使う。しかも相手は前情報が無い。頭を使わせる事により、冷静さを取り戻す為でもあった。
「オレ達の世界では、すべての生き物に魔力があるって話したろ? 植物も少ないが魔力を持っている。前に渡した結界張っておけば結界を越えることはないんだ」
「叔父上。いったい何を?」
「アル君って、ここの事話してなかったの?」
セリーが心底呆れたように呟いた。おそらくこういったことが何度もあったのだろう。
「忘れてたんだよ。ここは別の世界……。じゃないな。合わさった場所? とにかくそんな所だ。無理に理解しようと思うなよ。オレだってわからないんだからな、とにかく、シュージは異世界の人間で魔法ってのを知らない。その代わり考え方がオレ達と根本から違う」
自己紹介すらやっていない事を思い出して、「佐々木 修二です」と名乗ったら、「僕はベル・レグルス」「私はフォルシスです。フォルと呼んでください」と……。アルは忘れていたというか、まだ微妙に焦っているようだ。そして、セリーさんが「挨拶しなかったの?」と呆れている。
「すまん。ここまで来て落ち着いている気になっていたようだ。抜けてるとこがあったらそのつど言ってくれ。話を魔力枯渇症の話に戻すぞ。アレは一度おきたらとにかく厄介で、災害指定されている。村一つは軽い方で場所によっては国が傾く。ウチの実家だと下手すりゃ……な」
「だから僕は帰る。僕だって魔法が使える。何かできるはずなんだ。ここに行けば何とかなるって言ったのは、僕をだましたんですか?」
「アル、話を続けよう。何かできるはずなんて何も考えてないヤツが災害地に居る方が迷惑だ。そんなヤツは行かないほうがいい」
日本は自然災害が多い。巻き込まれたならまだしも何が出来るか、それが解かっていない人が行っても復興の邪魔になる事もある。こんな情報がいくらである。
素人が行き食料や寝床を準備せずに使うよりも、混乱しているときは足りない物を送るだけの方がいい時もある。
子供相手にキツイ言い方になり、ベルは睨んできたが気にせずに話を進める。
「もう一度聞く。対処している。そう言ったが、どんな事をどんな目的でやってる? 知ってる事を全て話せ」
魔力枯渇症。それは土地に発病する簡単に治療できるが極めて感染率の高い現象。そして、感染されてもすぐには気が付かない。その被害は植物を枯らし人が住むには難しい土地となる。
治療方法は枯渇した場所に、魔力流し込めばいい。ただし、その範囲に少しでも漏れがあると、そこから一日で次々と広がっていく。短時間に治療しないと撲滅できず、感染した場所が目に見えない為困難を極める。
この現象は、一定の広さから広がらずに留まる事から、枯渇ではなく吸収だとも言われている。
自然に治ることもあるが、それは五年十年と自然の魔力を吸収して無くなる。大地に開いた穴を魔力で蓋をしているのではないか? そんな説も存在する。
大都市近くに魔力枯渇症が起きたときは、近くの田畑や森を焼き尽くし、人が立ち入りやすくして大勢の人が治療に当たったそうだ。
辺境だと手が足りずに、泣く泣く放棄する事が多々ある。
「人がかかる病気だと思ったら、災害か。んー。なんでそれが解かったんだ?」
「農作物が枯れたらしい。その後、切花を置き他の所と枯れる時間を計ったらその場所が明らかに早いんだ」
「人が居れば対処できるのか? それなら全員でいっせいにやれば何とかなるんじゃないのか?」
「無理だな。森は燃やせばいいし、建物は中に入ればいい。だが、川や崖は? 森の中に魔物がいたときは戦いながら魔力を流すのか? 非現実的だ」
人が立ち入れられない所。これが一番のネックになっている。魔力を流すといっても距離が限られているそうだ。
しかも、時間が掛かると症状が広がる。やってもやっても終わりが見えないのが、ドラゴンの災害よりも性質が悪く、人が集まらない。
今は出来る事は、魔力の高い人が進行を止めて、住人の受け入れ先を探しているのが現状だそうだ。
「それなら魔物も出ない、崖も関係ない空から魔力を流すのはどうだ?」
「飛行魔法を制御しながらできるものか。それに、魔法ってのは魔力が強いほうに打ち消されるって言ったろ? 誰かと飛びながらだと、治療に使う魔力が強ければ落ちるし、飛行が強ければ治療できない。紐で宙吊りにしても干渉があってダメだったそうだ」
過去に同じ事を考えた人もいて試したようだが、魔法というのは方向性のある魔力と、方向性がしっかりした飛行魔法を使いながらだと干渉のせいで、斑に治療してしまい完治できなかったそうだ。
他にも飛行魔法を切り、魔力の枯渇している土地に魔力を送る事も考えたそうだが、その時には人が治療が満足に行える頃には墜落している。
「なるほどね。魔法を使って空を飛んでいる限り、そっちでは無理だな」
これなら何とかなる。そう思うと自然と笑いが起きて来る。
「フッフフフ。もしかして……。って考えてここへ来たらやっぱり何かあるんだな?」
「オウよ! こっちは科学の世界。そっちで出来なきゃこっちの技術でやりゃ良いんだよ! 治療できる人と技術屋が欲しい集められるか?」
この話はアイディアが無くなったら辞めるしかないのかなと思いつつ更新。
本日の夕方か夜にでももう一話更新します。