第8章 男の友情ってこんなもんですか?
井口から連絡があったのは、8月も最終週に入っての事だった。
会社からの帰り道、自宅に向かって歩いていると、ポケットの中の携帯が震える。
「もしもしヤジ?」
「おぉ、井口!久し振りだね」
井口とのコンタクトは渡会と食事をした日以来、実に1ヶ月半ぶりだった。
「実は仕事でグァムに行っててさ、今日帰ってきたトコ」
「おー!仕事とは言え、良いトコ行ってるなぁ」
「水着のお姉ちゃんメッチャ見てきたぞ!」
井口の声も俺の声も何時ものテンションだ。
連絡を取る切欠が見つからないうちは、気まずさを感じる事もあった。
だが、実際連絡が取れてしまえば男の友情なんてこんなもんだ。
「でさ、土産を渡したいんだけど、何時が良い?」
「週末なら何時でも動けるけど…」
「やっぱり週末かぁ」
相変わらず休日の予定が無い俺は即答だ。
だが井口は、日曜から再び撮影で海外に行くらしい。
「賞味期限とか無いならその後でも良いよ?」
「いや、そういうのは無いけど。でも会えるなら早めが良いんで土曜の夜で」
「こっちは全く問題ないよ」
「急で悪いね。じゃあ場所とかは追って連絡するから」
グァムに行くなんて俺には言ってなかったのに、しっかりお土産を買ってくる。
「こういう所が井口のモテる所以なんだろうなぁ」
俺は携帯を仕舞いながら、まだまだ暑い夜の空を見上げながら思った。
土曜の午前、俺は部屋の中で目当てのものを探していた。
ベッドの下の引き出しを開け、クローゼットの物入れを探り、最近使わない鞄の中を覗き…ようやくソレは見つかった。
大きめのペンケースサイズのポーチ。
俺のマイダーツケースだ。
事の起こりは、昨日の夜に掛かってきた井口からの電話だった。
「ヤジ、最近ダーツやってる?」
「いや、全然!もう5年くらい触ってない」
「久し振りにやらない?新宿に新しいダーツバー出来たんだけど」
2人で会う店のチョイスは井口に任せていた。
てっきり居酒屋か何かだろうと俺は思っていたが、井口の提案はダーツバーだった。
「良いよ!でも久し振りだからホントに下手になってると思うよ」
「大丈夫!大丈夫!ちょっとやれば勘は戻るから」
ダーツを始めたのは高校生のときだった。
放課後や休日に遊びに行ったゲームセンターやビリヤード場。
そこにダーツマシンが置いてあって、一緒に行った井口たち仲間と何の気なしに始めた。
ゲームソフト1本分くらいの価格のマイダーツを買って、本格的に嵌まるまではすぐだった気がする。
大学に入ると仲間でダーツバーにも行くようになり、時々大会なんかにも参加した。
ただ大学を卒業して皆で集まる機会も減るにつれ、少しずつダーツはしなくなっていった。
もともと小心者の俺だ。
ダーツバーは皆と行くから楽しい場所で、1人で行くには敷居が高かった。
そんな訳で、もう5年以上ダーツは投げていない。
「最初のうちはリハビリだと思って優しく見守ってね」
「了解、了解!昔に散々負けた分、たっぷり仕返しさせてもらうよ」
「おいっ!こら!!」
そう、昔は俺の方が上手かったんだけどな…ふと思い出して懐かしくなる。
と、そこである事に気付いた。
「そういえばマイダーツ、ドコにあったっけ?」
「あれ?ひょっとして捨てた?」
「いや、捨てては無いな。実家からこっちに持ってきてるのは確かだけど」
さすがに5年も触ってないと、最後に見たのがいつかも怪しい。
部屋で見てないという事は、どこかに仕舞い込んでしまったのだろう。
「ハウスダーツ借りたら良いじゃん!」
「いや、探してみるよ。仕舞い込んでるだけだし」
「今から?」
ふとパソコンデスク上の時計を見る。
時刻は午前1時だった。
「いや、明日の朝からにするわ」




