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第十八話 エルフ酒

「エリナとですか……? それは……エリナと二人でパーティを組みたいということでしょうか? それともエリナのいる俺達のパーティに入りたいということですか?」


 問題はそこだ。


「どちらでもいいけど、パーティに入る形になる……」


 アストリッドさんがエリナに目を向ける


「私はレックス達とパーティを解消する気はありませんからね」


 そうか……。


「少し考えさせてください」


 話を持ってきたという事は、エリナはアストリッドさんをパーティメンバーに迎え入れるのに賛成なのだろう。


「シビルちょっと……」


 席を立ち、部屋の隅でシビルと顔を突き合わせ相談する。


「どう思う?」


「私は基本的に賛成かな。人数が増えれば攻略スピードもあがるだろうし。ライバルが増える可能性はマイナスだけど……」


 最後がひっかかるが、シビルは賛成か。後は俺だ。二人が賛成だからと、軽々しく決めるものでもないしな。席に戻る。うつむき、一人考える。


 問題は、俺達がパーティメンバーを増やす必要があるかどうかだ。俺、シビル、エリナ。戦力としては充分すぎる。現在探索している十七階層程度ならば、各々がソロでも攻略できるだろう。もちろん探索スピードは落ちるし、慎重に進む事が前提だ。


 厳しくなるのは、数にもよるが二十一階層デスナイトからだろうか? もちろんソロで、という意味だ。三人であれば、それほど問題なく進めるはずだ。現在わかっている魔物であれば……やはりイヴィルアイだろうな。三人でも厳しい気がする。一日一体ならば、倒せないとは思わない。それほどの力を身につけているはずだ。が、探索するとなると厳しいだろう。その頃には俺達も成長しているはずだが、その時パーティメンバーを増やす事を考えるなら、今増やしてもいい。


 アストリッドさんは、十五階層までソロでやってきた。実力は充分だろう。シルフと契約し、エリナが精霊と契約を結んでいる事も知っている。ノームが魔物でないなどと納得してもらう必要もない。パーティメンバーになるならば、俺のギフトスキルについて明かさなければならないが、無口であるしアストリッドさんから漏れるという心配もないだろう。


 こう考えれば、アストリッドさんはパーティメンバーとして最適な人物と言えるかもしれない。コミュニケーションを上手く取れるかどうかは心配だが……。


 顔を上げれば、エリナ達が仲良さそうに話している。もちろん話しているのはエリナとシビルだけで、アストリッドさんは頷いているだけだったが、その無表情な顔にほんの少し嬉しそうな笑みが見えた気がした。


 パーティメンバーを増やす……。こうやって、いくらメリットを上げたところで結局は……、


「とりあえず明日一緒に迷宮に入りましょう。それでどうするか決めればいいと思います」


 共に戦ってみなければわからない。


「わかった……。それでいい」


 明日の予定などを話しながら食事を再開する。食材は野菜や果物だけではあったが、料理はおいしく満足のできる物だった。



 アストリッドさんとは、店を出た所ですぐに別れた。思いのほか夜遅くまで話し込んでいたらしく、街行く人の影もまばらだ。エルフはきつい酒が好みなのだろうか? 今日飲んだワインはアルコール度数が高く、それほど飲んでいないにもかかわらずほろ酔い気分だった。足元がおぼつかないというほどではないのだが、ふわふわと踊りだしたいような気持だ。自制できる程度には理性が働いているので、踊りだしはしないが。


 それは前を行くエリナとシビルも同じようで、楽しそうにこちらを向きながら後ろ向きに歩いていた。普段ならこんな事はしない。


「危ないよ」


 と、声をかけた瞬間、シビルが地面のくぼみに足を取られ後ろへと倒れた。転んだというのに、シビルは楽しそうに笑っている。エリナもそんなシビルの様子に声を上げて笑い始めた。二人共、完全に酔っている……と思いながらも俺も愉快な気持ちを抑えられず、笑ってしまった。エルフの酒には何か特別な効果でもあるのだろうか? そう思えるほどに楽しい気分だった。


 地面に尻をつけたままのシビルに近付き、手を差し出した。シビルがしっかりと俺の手を握るのを確認して、引き起こしてやる。


「気を付けてね」


 もう転ばないように、シビルの手を握ったまま……、そっか! 手を伸ばし左の手でエリナの手を握る。エリナは嬉しそうに俺の顔を見て笑うと、強く握り返してきた。そうして、二人を引っ張るようにして宿への道を再び歩き出す。シビルは何が楽しいのか、握った手を大きく振りながら歩いていた。以前も二人と手をつないで歩いたことがあったな。あの時は二人から手をつないできた。俺から手を握るなど……。普段ならこんな事はできもしないだろう。俺のどこにこんな積極性があったのか? そんな事を考えながらも、二人の手の温もりを感じ幸せな気持ちだった。




 朝、心地いい柔らかな温もりに包まれながら目を覚ます。なぜだろうか? それとは反対に胸元が……重い……? 目をやると、そこには何故かエリナとシビルの顔があった。どういう状況だ! 周りを見渡せば、俺が泊まっているいつもの宿の部屋だ。二人の顔を見ながら悩んでいると、エリナが目を覚ました。伸びをして、見上げたエリナと目が合う。きょとんとした顔。


「おはようございます?」


「お、おはよう……」 


 俺達の声に反応したのか、シビルが俺の体へとぎゅっと腕を回した。


「……ん?」


 そこで違和感に気が付いたのか、シビルも目を開けた。シビルは寝起きがあまりよくないのか、ぼっとした目でエリナと俺に目をやった。しばらく見つめあう。


「レ……ックス……? エリナも……? おはよう……?」


 慌てたようにシビルが跳ね起きた。と同時に、そこでやっと現実に引き戻されたかのように、エリナも跳ね起きる。


 飛び起きベッドから降りた二人は、きっちりと服を着ていた。エリナは鎧を脱いでいたが、鎧下は着用している。シビルは外着であるローブのままだ。俺は……、と見れば防具を脱いでいるが服は着ている。きっちりと上も下も。脱いだ後に着なおした形跡もない。どうやらそういった“コト”には及んでいないようだ。少しほっとした。


 そこで腕がしびれている事に初めて気が付いた。どうやら一晩中エリナとシビルの体に腕をまわしていたらしい。


「ああ……」


 気まずい。エリナとシビルも同じようで、俺から視線をそらしうつむいている。頬が少し赤い。


「昨夜、宿に帰ってからの事覚えてる?」


 俺は覚えていない。どうやら二人も覚えていないようで、首を横に振っている。


 手をつないで帰ったところまでは覚えていた。今思うと、なぜそんな事をしたのか不思議だ。気恥ずかしい。俺の記憶はそこまで。そこからの記憶がない。二日酔いによる頭痛などもなく、普段の寝起き以上に頭はすっきりとしている。おかしいな……。記憶を失うほど飲んだ記憶も、痕跡もないんだが……。


「……とりあえず、迷宮探索の準備をしようか」


 二人は自身の荷物を持ち部屋を出ていくその時まで、一言もしゃべらなかった。


 一人になり少し冷静になる。まだ腕の中にエリナとシビルの感触が残っている気がした。部屋に漂う匂いもどこか良い香りな気がする。


 とりあえず次に会った時、この事について二人から振られないかぎり、俺から話題に出すのはやめておこう……。



 寝る前にしていなかったであろう武具の手入れなどを済ませ、階下へと降りる。こんな日は迷宮探索は午後から、もしくは休みにしてしまいたいが、アストリッドさんとの約束がある。どうしても行かなければならない。エリナとシビルの二人と顔を合わせるのがつらい……。


 食事を摂りながら、二人を待つ。その食事も終わろうかという頃に、二人が降りてきた。


「おはようございます」


「おはよう……」


 今日初めて会ったかのように、二度目の挨拶。


「お、おはよう」


 エリナとシビルが並んで俺の対面の席へと座る。二人は俺の顔を見ないように顔を伏せたままだった。朝食が来るまでの間、重い沈黙が席に漂う。と、そこで伺うようにこちらへと視線を向けたエリナと目が合った。俺の顔を見てエリナが唐突に笑い始めた。俺の顔に何かついているんだろうか? 顔に手をやる。


「レックス。違います。もっと上」


 笑いながら自身の頭の上に手をやるエリナ。頭……?


「寝癖ひどいですよ」


 エリナの言葉にシビルも俺へと顔を上げた。エリナと同じように、俺の頭を見て笑っていた。


 寝癖か……。そこまで気が回らなかった。だが寝癖のおかげか、妙な重い空気は自然とどこかへ消えていた。


「直して来るから」


 二人に告げ、急いで階段を上り風呂場へと駆け込む。この宿の風呂場には鏡が設けられているのだ。反射率はそれほどでもないが、容姿を確認する程度には充分な品質だ。鏡を覗くと、そこには滑稽な髪型をしたレックスが写っていた。確かにこれは笑える。魔法で水を出すと髪を濡らし、手ぐしで整えていく。風呂場で毎日のように鏡を見るようになって、随分とこの顔にも慣れた。以前は、違和感しかなかったものだが。今度は魔法で風を作り髪に吹き付ける。魔法、便利だな。こんな使い方で申し訳ない気持ちにならないでもない。


 髪がある程度乾いたのを確認して、一階へ戻る。二人はすでに食事を終えていたようで、俺を待っていた。


「それじゃあ行こうか」



 迷宮前には、すでにアストリッドさんが居た。迷宮までの道のりは、やはり寝癖がよかったのか普段通り和気あいあいと会話も弾んだ。誰も今朝の事については触れなかったが。


「お待たせしてしまったようで、すいません」


「……いい。今来た」


 アストリッドさんは、いつも通り。だが昨夜、会話した事で俺の中でアストリッドさんの印象は少し変わっていた。アストリッドさんの表情のなさは、その美貌からただクールなのだと思っていたのだが……。


「……ごめん」


 急に謝るアストリッドさん。何が何やら。


「エルフ酒の説明をしなかった……」


 それが、どうして謝る事に繋がるのだろう。確かに変な酔い方をしたが……。


「エルフの酒は、本性を暴く……」


 よし! 詳しく聞こう。


「私を見て貰えばわかると思う。エルフは感情の起伏があまりない」


 確かに。他のエルフよりも、アストリッドさんは顕著に表れているそうだが……。


「だから、エルフ酒を飲む」


 言葉が少なくアストリッドさんの話は、いまいち掴みにくい。


「もう少し詳しくお願いします」



 アストリッドさんから聞き出したところによると、エルフ酒は普通の酒以上に、感情に大きく作用するそうだ。エルフはもともと感情の起伏が少ない為、エルフ酒を飲んでも少々会話が増える程度でしかないが、エルフ以外の種族が飲むと効果の大きさに本性が出るらしい。アストリッドさんは、パーティを組むかもしれない俺達の人となりを知りたいが為に、意図的にエルフ酒の効果について説明しなかった。そうして別れた振りをして店を出た俺達の後をつけた。というのが謝罪の理由だそうだ。それにしても……いくら酔っていたとはいえ、アストリッドさんの気配に気がつけないなどという事があるだろうか? 高レベルの気配消失スキルを持っているのかもしれない。


「エリナが信頼しているから大丈夫だと思った。でも、念の為……」


 アストリッドさんの行為に対して何も思わないでもない。


「それで……、パーティを組むことになったら……レックスのハレムに入らないといけないのか?」


 え……?

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