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第十五話 十七階層

 エリナとシビルの二人は階段を降りてくると、朝食を取っている俺の前に座った。無言……。沈黙……。


「あの……。昨日のはさ、ほら……」


 勇気を出しなんとか言葉を……、


「べ、べ、別にいいと思うよ!」


 発するも、


「そうです! 私達気にしていないので!」


 最後まで言わせてもらえなかった……。


「いや、だからね。違うんだって……」


「レックスがどんな趣味を持っていようと、受け入れるつもりです! シビルとも昨夜、話し合ってそう決めたので!」


 二人はいったいどんな話をしたのだろうか? いや、今はそんな事どうでもいい! そもそも、あんな事受け入れてもらう必要がないんだ。そんな趣味はないのだから!


「俺にああいう趣味があるわけじゃないんだって! 二人が着ないっていうからね……」


 俺がなぜコルセットを着けていたのか説明する。俺が話し終える頃には、二人は露骨に安堵の表情を浮かべていた。


「そういうことだったのですね。正直いって、ほっとしました」


「うん。昨日はエリナとしっかり決めたけど、実際、目の前でそういうの見たら、ちゃんと受け入れられるか不安だったし……。よかったよ」


 どうなるかと思ったが、わかってくれたようで、よかったのはこっちだ……。


「それじゃあ食事が終わったらギルドに行こうか」


 これで心置きなく十七階層へと進める。



 ギルドでエリナの試験官の日程を聞き、十七階層以降のクエストを受ける。エリナが試験官を担当するのは明日午後からということだ。明日の予定は、十七階層次第ということにした。エリナ抜きでも問題なさそうならば、俺とシビルの二人で十七階層を進め、明後日からは十八階層だ。



 明日休むにしろ、進むにしろ、三人揃っている今日の間に十七階層の攻略を一歩でも多く進めておきたい。十六階層を最端のルートで黙々と進み、十七階層へと続く階段を降りる。


 十七階層の魔物であるロックンロールも、スライムと同じように徘徊タイプのようだ。その上群れるタイプでもない。あちらこちらに気配がある。その気配は落ち着きなく通路を動き回っている。探索者の気配は十六階層ほどではないが、少ない。どうやらこの階もあまり稼ぎには向いていないようだ。マップを取り出す。階段から階段まで、事前に書いておいたマップは十六階層と同じように、マップを縦断している。とりあえずは十六階層と同じでいいか。


「今日は主に右側を。前から来るから」


 右手の魔物の気配へと足を進める。随分と近い。ロックンロールの進む速度はこれまでの魔物よりも早い。こちらに気が付いているわけでもなさそうだ。ごく普通にこの速度なのだろう。剣を抜き、魔物に備える。


 そろそろだ。魔物の気配は近付く。角を曲がり、現れたのは丸い岩だった。直径一メートル程。凹凸があり真円ではない。目があったり、手とかが生えているものだと思っていたが……。そんな、ただの岩にしか見えない物が転がってくる。昔、映画で見た覚えがある。考古学者という名の遺跡荒らしに、こんな風に岩が転がって来る場面。あのシリーズ好きだったな。


 その岩はこちらに気が付いたようで、スピードを上げた。外見はどこから見ても、ただの岩だ。にも関わらず、坂道でもないというのに転がってくる。……そんな悠長に構えている場合ではなかった。慌てて剣を構える。まるで映画を見ている観客のような気分だった。俺は今、考古学者の立場に立たされているんだった。


 無詠唱のシビルの魔法が飛ぶ。ロックンロールの表面で炎が弾ける。も、炎など物ともせず、そのままのスピードでこちらへと突っ込んできた。


「私が!」


 エリナは一歩前に出ると、盾を構えた。エ、エリナさん……、それはさすがに……。そんなエリナなど気にした様子もなく、ロックンロールは……長いな。ロックは転がり続ける。


 派手な音を立て、エリナの盾とロックがぶつかる。その衝撃に土埃が舞い上がった。しっかりとエリナはロックを受け止めている。


 数トンはあるだろうという岩を受け止める少女……。ロックはそれでも、前へ進もうと転がるも、盾に阻まれ空回りするのみ。どうやらロックには、体当たり以外の攻撃手段はないらしく、それ以外の行動を取る様子は見られない。ただ転がってくるだけの魔物か……。


 他の行動を見せぬロックに、もういいと判断したのか、エリナがレイピアを振り下ろした。それはまるで豆腐を斬るかのように、いとも簡単にロックを切断した。エリナも俺以上にシグムンドさんにしごかれたからな。それでも回転を続けるロック。バランスを崩し切断面を下に、動きを止めた。まだ気配は感じるが、ロックはもう動く事はできないだろう。


「ふう……」


 とエリナが息を吐き出した。


「おつかれ」


 一声かけ、ロックの残骸に近づく。明らかに岩の塊にしか見えない。ここから魔石を回収しなければならない。それも傷付けずにだ。岩に剣を振り下ろす。拳大の魔石が岩の真中にあるらしい。魔石付近を避け、小さくしていく。


 手に持てるほどのサイズとなった岩の残骸。ロックの気配はもうすでに消えている。今までに魔石を斬った形跡はない。とりあえず、この中にあるはずだ。もう少し……。剣を慎重に入れる。と、魔石が姿を現した。さらに慎重に削るように魔石を取り出す。


「ふう……」


 倒し終えた直後のエリナと同じように、息を吐き出した。傷付けないようにと、知らず知らず気を張っていたようだ。


「これは駄目だね」


「うん」


「そうですね」


 どうりで探索者が少ないわけだ。これほど時間がかかるのなら十四階層でオークを乱獲したほうがましだ。魔石を持つ魔物は多い。この階層でなくとも同程度の魔石は手に入る。俺達にとっても、魔石を回収しながらとなると、十七階層の探索を二日で終えるのは不可能だろう。


「魔石は諦めよう」


 二階層連続で無報酬はつらいが……。


「それじゃあ行こうか」


 二人を促がし、再びマッピングを開始する。


「それにしても、エリナはよく受け止められたね」


 歩きながら、先程の戦闘を思い返す。


「衝撃の瞬間は、闘気術を使ったので」


「なるほど」


 勢いを殺せば、後は闘気術がなくとも止められる、ということだ。瞬間的な闘気術ならば、体内の魔素の消耗も抑えられる。反動も少なく直後でも動けるわけだ。あまり時間をかけずに闘気術を発動できるならば、有用な使い方だな。俺も発動の為の時間は随分と短縮できるようになってきている。俺も試してみよう。


「シビルの魔法とも相性が悪いみたいだし、明日は十四階層を探索しようかと思うんだけど、どうかな? 困っているって程でもないけど、ちょっとは稼ぎたいからね」


 エリナが受け止められた謎も分かり、明日の事について話す。今日ある程度稼げていたなら、明日は休みでもよかったんだがな。


「あー。そのことなんだけど、ちょっと試してみたいこともあるし、次のロックンロールは私に任せて」


 シビルには何か考えがあるようだ。


「わかった。じゃあ……」


 ロックの気配がある方向へと進む。ロックは動き回る範囲が決まっているようで、同じ場所を行ったり来たりしている。この先を曲がれば……。


 気配を読み、ロックの後ろ側を取るようにして、通路へと出る。ロックは後ろの俺達へと引き返すことなく、そのまま進み離れていく。追いかけ剣で斬るとなると、時間をかけることになる。が、シビルの魔法では、あの程度の速度、問題にはならないだろう。


「ほいっ!」


 どうやらシビルは「ほいっ!」という掛け声がお気に入りのようだ。最近、何度となく聞く。間抜けにも思えるが、シビルの口から発せられると可愛さを伴っているから不思議だ。俺が魔法の度に、そんな掛け声をしていたら、ただただ滑稽だろうな。


 シビルから放たれたのは鈍く光る円柱状の物体。それは一瞬でロックに追いつき、撃ち抜く。とロックの気配が消えた。魔石を壊したのか。


「一応上手く魔石を残せていると思うんだけど……」


 どうやって……? シビルのその言葉に、ロックの残骸へ向かう。


「えっと、地魔法で中空の金属製の筒を作って、それをロックンロールの中心に打ち込んだだけなんだけどね」


 ロックの中心部分には、シビルの言った通り筒が通ったような後があった。確かに魔石を傷付けず、素早くロックを倒すことができる。だが、これでは……、


「ちょっと時間は減るだろうけど……」


 結局、そこから魔石を削り出す作業がかかる。


「駄目かー。じゃあ明日はやっぱり十四階層だね」


 そうなりそうだ。


「次、俺がやってみるから」


 マッピングだけというのも味気ないしな。闘気の瞬間発動も試してみたい。魔石はそのままに、迷宮を進む。


 次のロックはすぐに見つかった。二人にはその場で待機してもらう。先程のように、ロックが通り過ぎるのを待つ。


 ……。目の前を通り過ぎるロック。よし! ロックの後ろ。通路へと出ると、足に闘気を纏う。踏み込み。闘気の解除。魔石を回収する必要はない。体の中心を狙い……ロックの横を斬り抜ける。完璧だ。イメージ通りに上手く……あっ! これどうやって止まんの!? 慌てて闘気を纏い直……す前に俺の脚は地面と接した。無理にその場で留まろうとはせず、突いた足をブレーキに地面を滑る。


 なんとか勢いを落とし、転ばずに止まる事が出来た。……よ、よかった。転んでいたら確実に顔面ズザーだった。ズザーはきつい。両手は剣で埋まっているしな。迷宮に入り始めて、初めての大怪我が、転倒からの顔面ズザーじゃなくてよかった……。


 ロックの気配はすでにない。最後はどうかと思うが、上手くいった。多少の疲労はあるものの、反動で動けないという事もない。


「すごいです! 」


「かっこよかったよ!」


 二人が俺へと走り寄ってくる。


「あ……うん……」


「私、結構練習したんですけど……。初めてで出来るなんて、さすがレックスですね!」


 最初は確かに上手くできたよ。最初はね……。


「うんうん。あのズザーって。ズザーっていうの! かっこよかった! またやってよ!」


 そっちは闘気術が間に合わなかったほうだね……。だが、確かに客観的に見れば格好良かったかもしれない。転ばなくて本当よかった。


「まあ……ね。ほら。そんな事より先へ進もう!」


 もっとしっかりと練習しておこう……。



 マップ右側がほぼ完成し、今日の探索を終える。明日はシビルと二人、十四階層。問題はない。どちらかといえば、エリナの方が気になる。エリナを指名したというアストリッドという探索者は一体何者なのだろう? バシュラード家関連だろうか? もし、そうだとしたら……。厄介な事にならないといいが……。

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