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第七話 契約

今日から十四階層で魔術師のレべリングだ。転移し十四階層へと進む。クラスはサーベイヤ。十四階層までマッピングをする必要はないが、空間、距離の把握などもマッピングには関係があるという事だし、少しでもマッピングの経験を積みたい。


 十四階層へと入り、積極的にマップ外の空白となっている場所へと進み、マッピングを開始する。昨日経験したカミーロ君のマッピングLv8の快適さと比べれば、亀のような速度でしか進むことはできない。エリナの魔法のレベリングの為の戦闘時間が少なくなってしまうのは申し訳ないが、これもこれから十六階層以降を快適に進むためと思って我慢してもらおう。


 サーベイヤのレベルを上げていた為か、すぐにマッピングレベルが3に上がった。短い距離、具体的には十メートルまでではあるが、正確に把握することができるようになっていたのだ。なぜ正確だとわかったのかといえば、それは感覚というほかないのだが、今までの曖昧な感覚とは違っている。距離感がぴたりとはまる感じがして、ステータスを確認してみるとマッピングのレベルが上がっていたというわけだ。この先には……、


「オークが十体です」


 俺が言葉をかけなくても、エリナが気配から魔物の数をシビルに教えてくれる。その間も俺はマッピングに集中することができる。ありがたい。エリナは、まだ気配から魔物の種類を判別できるほどに気配察知レベルは上がっていない。その為、オークであるかは確認できていないはずだ。十四階層からオークと判断したのだろう。思い込みで魔物を判断する事で問題があることは、俺は身をもってデスナイトでわかっていた。だが、この場合はオークであったし、わざわざまだ指摘することでもないだろう。いざとなれば、俺が訂正すればいい。


 クラスを剣士に変更する。まずエリナが魔法使いで戦う事にしていた。俺が魔法使い、エリナが騎士の時には問題がないことはわかっている。俺も魔術師にしてもよかったのだが、二人共レベルの低い、それも前衛クラスでないというのは不安があった。その為、まず俺は剣士だ。エリナが魔法使いでオークとの近接戦闘に問題がないようならば、次からは俺もクラスを魔術師にすることにしている。


 オークが向かってくる。エリナの隣に立ち剣を構える。魔法を使うのはまだだ。エリナがオークと近接戦闘をしながら、魔法を発動する事ができなければならない。オークがエリナへと斧を振り下ろす。エリナは盾で斧の軌道を変え、受け流しながら詠唱を開始した。俺も詠唱を始める。クラスは剣士だが、魔法が使えないわけでもない。スキル成長に補正はないが、少しでも経験を積んでおきたい。


 まず初めに俺の魔法が発動する。スキルレベルが低いこともあり、エリナはまだ発動できていなかった。俺の魔法はシビルと違いオークを一撃で倒せるような威力はない。俺の魔法が先でも問題はない。


 炎がオークを焼く。肉の焼ける匂いというよりも、毛の燃える匂いが辺りに漂う。俺の魔法スキルもレベルのおかげか、範囲、威力共に上がっている。だが、やはり、オークをなぎ倒せるようなものではない。そこにエリナの魔法が発動する。石の弾丸。それはオークの胸に突き刺さる。だが、オークは気にした様子もない。


 その直後シビルの魔法がオークを襲った。風だ。その勢いに俺のちっぽけな炎などかき消された。その旋風はオークをすべて飲み込み、高々と巻き上げた。オーク同士ぶつかり合いながら天井へと叩きつけられ、風がやむとぼろぼろの状態で地面へと落下した。もちろん気配など一つも感じ取ることはできない。オークのトレードマークといってもいい牙も折れている。換金対象なんだがな……。


 シビルを見れば、首を捻っていた。


「んー、駄目かあ」


 完全に駄目です。シビルが俺の視線に気付く。


「ごめん! 上手くやれば、牙を引き抜く手間が省けると思ったんだけどね……」


 なるほど……。牙の回収に時間がかからなければ、それだけ探索や戦闘に時間を回せる。その思いはありがたいんだが……。


「次からはもう少し、穏便な形でお願い」


 大きく残っているオークの牙だけを回収し、クラスをサーベイヤに戻してマップ空白部分へと足を向ける。確かに牙の回収に時間はかからなかった。シビルの魔法スキルのレベルが上がれば実用できるかもしれない。そうなれば探索時間は大幅に短縮できるだろう。



 次のオーク部屋へと向かいながら、戦闘の流れを決めていく。エリナが魔法使いでも近接戦闘は問題ないと言うので、次からは俺もクラスを魔術師にすることにした。念の為、部屋の入口すぐではなく、入口から少し離れた場所で詠唱を始めることにした。上手くいけば接近される前にすべてのオークを倒すことができるだろう。


「オークだと思いますが……。五体です」


 自信なさげに、俺に確認を取るエリナ。どうやら完全に思い込みというわけでもなく、数でも判断していたようだ。確かにこれまでと比べて、オークにしては数は少ない。だが、この気配はオークのようだ。俺もまだ完璧ではないが、これはオークで間違いないはずだ。


 頷き返し、部屋へと向かう。全体が見通せるわけではないが、どうやら部屋は小さいようだ。その為、オークの数も少なかったのだろう。エリナが笑顔を見せる。俺とエリナ共に魔法系クラスということもあるし、これくらいから始めてみてもいいだろう。


 入口からある程度離れた地点でエリナが詠唱を開始する。それに続き俺も詠唱を始める。エリナの基礎魔法レベルが低く発動まで最も時間がかかる事から、これも事前に決めていた事だ。ここからオークがいる地点まで俺達の魔法は届かない。オークが近寄ってきてくれなければ、無駄になってしまうが……問題なかったようだ。オークは五体全てが俺達の詠唱に吸い寄せられるようにして、こちらへと向かってきている。


『世界に遍く可能性という名の種子よ。我が前に集いて花と成れ』

 『世界に遍く可能性という名の種子よ。我が前に集いて花と成れ』

    『世界に遍く可能性という名の種子よ。我が前に集いて花と成れ』


 エリナ、俺、そして、さらに遅れてシビルの詠唱。まるで輪唱のようだな、と小学生の頃歌った歌を思い出した。


『其は硬貨。其は虎。其は地也』

 『其は杖。其は鳥。其は炎也』

    『其は剣。其は竜。其は風也』


 エリナが地、俺が火、シビルは風だ。


『ストーン!』


 予定通りエリナの魔法が初めに発動した。それは小さな石が降り注ぐだけの魔法だった。ばらばらとオーク五体がかろうじて納まる程度の範囲に石が降り注ぐ。範囲を優先した為か、オークに傷を負わせられるような威力はなかった。が、オーク達は立ち止り煩わしそうに斧で石を振り払っている。


 よし! 準備は整った。 後は……、


『ファイア!』


 先頭のオークへと炎が飛び、ぶつかると同時に分かれ五体のオークを包む。と、


『ワールウィンド』


 先ほどのようにオーク達に風が吹きつけた。だが、さきほどのような急激な風とは違っている。俺の放った炎は風によりその勢いを増す。そうして炎を伴った旋風となり、オークを焼く。焼き尽くすまでにそれほど時間はかからなかった。


 オーク達は俺達にたどり着く前に全滅してしまった。これはいいな。倒すまでの時間もかなり短くなっている。これからもこの感じでオークと戦う事にしよう。


「んーこれも駄目か」


 真黒に焼け焦げたオークを眺めながらシビルが呟く。確かに……。オークはその牙まで黒く燃え原型をとどめている物は見当たらなかった。だが、魔法の使い方としては面白いと思う。一方の魔法の威力を魔法で増幅するのだ。


「多属性魔法って言うんだけどね」


 シビルはそう言うと詠唱を始め、炎旋風を作り出した。一人でも可能なんだね……。


「もっと大きいのなら面白いと思うよ。目一杯の特大の火炎と竜巻とか。それなら私一人じゃどう頑張っても無理だし」


 いや……そんな規模の火炎竜巻をどこで使うんだ……。



 その後もオークを相手に同じやり方で戦っていった。オークとの戦闘の度に、俺とエリナの魔法の威力も上がっていった。シビルは実験的な魔法の使い方を止め着実に仕留めた。綺麗に残った牙も回収する。


 俺もエリナもシビルのような無尽蔵な魔素を体内に持っているわけではない。魔素の枯渇による疲労が現れ始めたので、この日の探索を終えることに決める。


 最終的に魔術師のレベルは5に、基礎魔法のレベルは11、応用魔法はレベル8となっていた。エリナは魔法使いLv9、基礎魔法Lv9、応用魔法Lv5だそうだ。魔術師のスキル成長補正が大きい為、魔法スキルについては俺の方が高くなっている。反対にクラスは基礎クラスということもあり、エリナのほうがレベルで見れば上だ。こうやってあらためて見ると、本当にミドルクラスは上がりにくい。低いと思っていた剣士Lv14というのも、それほど低いわけではなさそうだ。


 それと共にレベルという概念にも疑問が出てきた。明らかに同レベル帯であった頃のシビルの魔法よりも威力、範囲、精度、すべてが劣っている気がするのだ。同レベルであっても人によって違うのかもしれない。あまりレベルというものを基準に考えない方がいいのだろうか? 俺の魔法スキルのレベルを上げるのをやめ、エリナの基礎魔法レベルが11になったときに比べてみてもいい。……いや、駄目か。俺のクラスは魔術師、エリナのクラスは魔法使い。それではスキル効果に対する補正も変わってしまう。ああ、補正がないであろう剣士と騎士で比べてみればいいのか。一応考えておこう。


「それじゃあ帰ろうか」


 俺の言葉に、二人がフラグメントを取り出した。そこでオンジェイが姿を現す。エリナの耳元まで浮き上がると何か話しかけた。エリナはそれに嬉しそうに笑顔を見せた後、俺達を見る。


「オンジェイが契約したいと」


 エリナがオンジェイの言葉を俺達に通訳してくれる。そういえば、そもそもそういった話だったな。いくら宿の中といえど、街中でオンジェイが姿を見せるのは危険だ。気配察知スキルのレベルが高い探索者に見つかっても困る。幸い今、近くに探索者の気配はない。


「時間はそれほどかからないそうですが、今大丈夫ですか?」


 精霊との契約の儀式というのも興味がある。頷く。シビルも頷いている。エリナは俺達の首肯に再び嬉しそうな笑顔を見せると、オンジェイに向き直った。


「よろしくお願いします」


 エリナの声に、オンジェイもまた笑顔になった。


 オンジェイがエリナの前の地面に降り立つ。くいっと手招きのような仕草をとった。それにつられるように、エリナが身をかがめオンジェイに顔を近付ける。オンジェイは、ちょんと飛び上がるとエリナの額に口をつけた。と、オンジェイの体が光る。きらきらと輝き光の粒子となってエリナへと溶けていくようだった。


 光が収まり、後に残されたのは身をかがめたエリナだけだった。オンジェイの姿はどこにもない。


「オンジェイ消えちゃったの!?」


 シビルが驚きの声を上げる。俺も同じ思いだった。


「消えたわけではないのですが……」


 エリナの肩のあたりにオンジェイが再び姿を現した。だが、その姿は以前とは少し違っている。半透明なのだ。気配を感じ取ることもできない。そこに居てそこに居ないとでもいえばいいのか……。


「なんでそんなことになっちゃったの!?」


 シビルが再び驚きの声を上げた。俺も同じ思いだ。


「私の中に入ってしまった感じでしょうか? 以前とそれほど変わったわけではないのですが……」


 オンジェイはここ最近ずっと姿を消したままだった。俺達には感じ取れなかったが、エリナには姿を消したオンジェイが見えていた。以前と変わらないというのはそういうことなのだろうか?


「それでオンジェイは大丈夫なの?」


「はい。問題ないです。ただ……契約が解除されるまで、オンジェイは私の周りから離れることができません」


 自由に動き回る事ができなくなったということか……? 世界を見たいとオンジェイはついて来た。いざとなれば、俺達から離れ自由に世界を飛びまわれたはずだ。それがエリナの周囲に固定されてしまった。


「それでオンジェイは……」


 いいのか? そう聞こうとしてやめた。契約を結ぶことはオンジェイが決めた事だ。


「契約の解除って具体的にどうするの?」


「私が死んだ際に解除されるそうです」


 後、七十年は後ということか……。


「それは……」


「オンジェイと何度も話し合って決めたことですから……」


 シビルの声を遮るようにエリナが言葉を発した。オンジェイはそんな二人を心配そうに見つめていた。オンジェイは本当にエリナが好きらしい。エリナと一生を共にすることを選んだのだ。いくら寿命の長いノームといえど七十年は長いはずだ。


「……それじゃあ、オンジェイ。これからもよろしくな」


 俺の言葉にオンジェイは頷いた。


「……。よろしくね! じゃあ最後にエリナとオンジェイの魔法見てみようよ!」


 シビルは少し黙り込み、その後俺に続き、何も考えていないように楽しげにそう提案した。空気を換えるように。あと一回程度ならば、オークとの戦闘も問題ないだろう。俺も契約したエリナの魔法が気にならないと言えば嘘になる。エリナとオンジェイも乗り気だったので、近くのオークのいる部屋へと向かう。今回はエリナの魔法を見るだけだから、クラスはサーベイヤのままだ。


 先ほどまでのように、部屋から少し離れた場所で足を止める。エリナを守るように剣を抜き、前に立つ。


「どんと最大威力でやってみてよ」


 シビルが無責任な言葉をエリナにかける。エリナがその言葉に頷き、詠唱を始める。


『世界に遍く可能性という名の種子よ』


 あっ……これ駄目なやつだわ……。


『我が前に集いて花と成れ』


 エリナに集まる魔素の量が尋常ではない。


『其は硬貨。其は虎。其は地也。……ストーン』


 巨大な石がオークを押しつぶした。気配などもちろんない。……控えて貰おう。

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