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第四話 十四階層

 昨日はその後、一人でギルドの裏庭を借り魔法の練習をした。その結果、基礎魔法のレベルは2に上がっている。その練習でわかったことといえばシビルはすごい、という事だ。


 発動距離の限界は二メートル。範囲はその半分程度。最長で三メートル先の魔物までは届く。三メートルというのはかなり短い。一瞬で詰められる間合いだ。


 歩きながら、走りながらの魔法の発動は無理だった。大きく体を動かしながらでは無理だったが、その場にとどまり、動く程度ならば発動することができた。


 最初はわかりやすく手の先から魔法を発動していた。だが、俺は戦闘中、両手共に剣を握っている。これでは使い物にならないと、魔法の発動場所を胸の前あたりにしてみたが、これでは発動しなかった。しかし、剣先からならば可能だった。闘気術でも剣を覆うことが多い。そのおかげかもしれない。


 その場で動けず、三メートルというのは使い物にならないかと思ったが、これならば接敵してからでもなんとか使える。十四階層……余裕があれば使ってみたい。


 十四階層の魔物はオーク。以前戦ったときも苦労した覚えはない。動きは遅く、生命力もそれほどではなかったはずだ。このあたりの階層で問題となるのは、魔物ではなくマッピングのほうだろう……。



 十四階層に入ると、その気配の多さに驚いた。魔物の気配もそうだが、探索者の気配の多さにもだ。オークも徘徊する魔物ではないようで、固まって居るのだが……。部屋も大きいのかもしれない。一部屋に最低でも十体はいる。探索者の数は数十人。全員パーティのようでいくつかの気配が塊となって動いている。五人前後のパーティが多い。


 そのどれもがある程度の実力者のようだ。オークのひしめくであろう部屋へと入り戦闘している。実力のないパーティならば、部屋からオークを引っ張り通路で数を限定して戦うはずだ。


 探索者達は順調にオークを減らしている。オークが余裕であれば、下の階層へ行けばいい。次はトロールだ。その巨体に圧倒されるが、強さはそれほどでもない。実際に目にしたわけではないが、オークを倒す速度からいってトロールに苦戦するような実力ではないだろう。


 ……この階層はうまいのかもしれないな。十五階層を探索してみて正しいようなら、十四階層で少し稼ぎたい。金もそうだが、それよりも経験だ。魔法のスキル上げにもいいかもしれない。だが、それもエリナが基礎魔法を習得してからだ。


 マップを埋めながら、探索者の少ない方向へと進む。マッピングスキルの効果は実感できるほどではない。昨日と同じように鈍足だ。まだレベルも低いからな。一応こまめにスキルを確認しながら進む。レベルが上がれば、効果を実感できるかもしれない。



「この先にオークが十三体ですね」


 そのエリナの言葉は、シビルに言ったというよりは俺に確認するようだった。エリナも気配察知のレベルが上がり、ある程度先の気配もわかるようになっている。確かにオークが十三体。頷く。エリナは嬉しそうにしている。


「十三体か……。多いね。どうする? 魔法で殲滅する?」


 そうしてもいいが……。


「一応、俺達も戦っておこうと思う」


 この階層でレべリングする可能性もある。動きながら魔法が使えないということは、クラスを魔術師にしてオークと切り結ばなければならない。余裕があるのはわかっているが、今の実力でどの程度余裕があるか確認しておきたい。


「わかった。じゃあ二体、無傷で残すね」


 事も無げに言う。



 部屋の手前でシビルが詠唱を始める。オークもこちらに気付き向かってきていたが、シビルの詠唱は短詠唱。こちらに来るオークを眺める。リザードマンと同じく活性化の際に見たオークと変わりはない。牙の生えたでかいゴブリン。大きな違いは手に持つ得物が棍棒か斧かくらい。


『我が前に集え……! 其は風也……! ウィンドブラスト』


 オークが部屋を出てくる前にシビルの魔法が発動した。風はオークを切り刻みながら部屋へと押し戻した。


『……爆ぜろ』


 空気の刃は広がり部屋を包む。何度見てもすごい。当たり前だが、俺の魔法とは全然違う。


「はい。二体残したからよろしく」


 部屋の中は大変なことになっていたが、範囲外の遠くにいたオークが二体、確かに無傷の状態で立っていた。部屋全体に広がったと思ったが……。精度も申し分ない。シビルも順調に成長している。これは……シビルの夢である、大規模魔法を使える日もそう遠くはなさそうだ。どこで使うのかは知らないが……。


 残ったオークは、ずたずたになった仲間の死体を踏みつけながらこちらへとやって来る。リザードマン以上に遅い。一足飛びにオークに近づき剣を突出す。俺の剣は容易くオークの胸を突き刺し、深く入り込んだ。それだけで終わる。やはり、かなりの余裕を持って対処できるな。これなら……。



「次からクラスを魔術師に変更しようと思う」


 オークの牙を引き抜きながら、二人に報告する。二人は、そんな俺の言葉をごく当然のように受け入れた。


「問題ないと思います」


「じゃあまずはレックスの魔法かな? 私が先に威力を落として撃ってもいいけど?」


 俺とエリナの倒したオークはもちろんだが、シビルの魔法で倒したオークの牙にも傷一つ見当たらない。牙に傷をつけないように範囲を選んだのか……。これなら俺の魔法にあわせて、威力を調整することも簡単にできるだろうが……。


「俺の魔法が先で。部屋の入口を俺とエリナで塞ぐ形にしたい。ある程度オークが固まったところで魔法を撃つから、それに合わせてほしいかな」



 オークの牙を取り終え、次のオークへと向かう。少し遠い。近くにもオークの気配はあったが、階段方向からは離れてしまう。


 マッピングスキルはレベルが2に上がっていた。スキルがなかった頃と比べ、ある程度はマップの精度は上がっているようだった。進行速度はスキルレベル1の時と比べても、それほど変わりはない。このスキルが実用レベルに達するのはいつになるのだろうか……。気配察知などは、今とは比ぶべくもないが低レベルの頃から充分に実用レベルだったのだが……。



 初めての実戦での魔法だ。昨日練習したとはいえ、練習通りにうまく発動するか不安だ。部屋の入口でエリナと共に立つ。両手に剣を構え、魔法の詠唱を開始する。


『世界に遍く……』


 先ほどと同じようにオークはこちらに近づいて来るが、シビルのように接敵前の発動は無理だ。周囲の魔素全てを集めるくらいの気持ちで詠唱する。


『可能性という名の種子よ……』


 資料室の時以上に明確に魔素が俺へと集まってくるのがわかる。俺の詠唱の影響もあるが、迷宮内の魔素濃度のせいでもあるのだろう。


『我が前に集いて……』


 オークはもう目の前だった。


『花と成れ……』


 オークの振り下ろす斧を左の剣で受け止める。エリナも盾で斧を防いでいた。エリナは二体のオークに攻撃されているが、問題はないようだった。


『其は杖……。其は鳥……』


 何度も振り下ろされる斧を防いでいく。余裕はあるが、詠唱を意識しながらというのは精神的に疲れる作業だな。


『其は炎……也!』


 属性は火を選んだ。火属性ならば、威力が低くとも火がつけばダメージを与えられるだろう。オークの群れが部屋の入口近くに溜まってきていた。数体は巻き込める。


『ファイア』


 言葉と共に右手の剣を振るう。剣先から炎が出た。それと共に俺の体からは魔素が抜けていく。炎はオークに当たり広がる。シビルの『ファイアブラスト』のように爆発的な大きな広がりではない。静かな炎の広がりはオークの衣服に火をつけた。気にした様子は一切見えない。


 エリナが俺の魔法が発動したのを確認して、攻撃に転じたのが横目に見えた。三体を巻き込み火は消える。オークの皮膚は火傷を負っていた。軽いものだ。俺の魔法では、まだこの程度……。そのオークに向かい剣を振るった。


 オークの集団の中に大きな炎が生まれ、それはあっという間にオークの首から下を焼き尽くした。俺達の目の前にいた三体を残して……。エリナが最後に残った一体の胸を突き、戦闘は終わる。


 ステータスを確認すると、魔術師のレベルが2に基礎魔法のレベルが6になっていた。十五階層で戦ってみなければわからないが、これはうまいかもしれないな。無理をしているという感じもない。明日、十五階層を探索してみて考えよう。



 その後は本に載っていた範囲の通路にでたので、そのまま階段を目指し迷宮を出た。もう少しレベルを上げたかったが、それよりもエリナの魔法の習得に時間を割きたかった。


 ギルドに戻り、二人には昨日と同じように先に資料室へと向かってもらった。オークの牙を換金する。リザードマンと同じく、換金額は低くなっているそうだ。


「ソーニャさん、マッパーについて聞きたいのですが」


「どのようなことでしょうか?」


 マーパーとして仕事をしている人が、どの程度のスキルレベルなのか? そのスキルレベルで、どの程度の速度で進めるのか? 知っておきたかった。ソーニャさんの答えは「その人による」だった。それはそうだろうが……。


「では、マッピングをしながら、ごく普通に迷宮を探索できる程度の速度で進めるような人のスキルレベルは、どの程度ですか?」


「それはマップを用意して紙に書きながらでしょうか? それとも道具を使わずに?」


 シグムンドさんは明らかに後者だった。


「両方お願いします」


「少々お待ちください」


 そういうと、ソーニャさんは引き出しから紙を取り出した。


「道具を使用するならばマッピングLv8程度。使用しないならばLv15程度ですね」


 紙にはギルドが斡旋するマッパーの詳細が載っているのだろう。前者の場合でも、まだまだだな……。


「マッパーが必要ならば、こちらで斡旋させていただきますが?」


「……考えておきます。ありがとうございました」


 資料室へと向かいながら考える。マッピングスキルのレベルは上がり難い。低レベルなのに一日でレベルは1しか上がっていない。このレベルの上がり具合からいって、シグムンドさんを目標にするのは遠すぎる。まずはLv8を目指そう


 。……マッパーに直接話を聞きたいところだ。Lv8程度のマッパーを雇ってもいいかもしれない。何もこれからずっとというわけではない。Lv8がどの程度か知りたいだけだ。それならば一日でもいい。二人に相談してみよう。


 まずは、エリナの魔法習得の勉強会だ。資料室に入るとエリナは嬉しそうにしていた。もう基礎魔法を習得できたのか? と思ったが、違った。しかしエリナは今日の迷宮探索で何かをつかんだようだった。


「今まで以上にシビルとレックスの魔法を観察してみました。空間に魔素が溢れている、というのが少しわかった気がします!」


 と詠唱を始めたが、結局それは発動しなかった。その後も何度も繰り返すが、なかなか成功しない


「おかしいですね……」


 エリナは昨日のように眉間に皺を寄せ始めた。


「あっほら魔素ってあんな感じだよ! おいしい焼き鳥屋さんがあるでしょ? 美味しそうな香りが漂ってくるじゃない? 魔素もあんな感じだよ! 香りもしないだけ!」


 なんとなくシビルの言いたいことはわかるが、それがエリナに伝わるかどうか……。エリナの眉間の皺はさらに深くなる。



 結局エリナが基礎魔法を習得することができたのは、日が完全に沈んでからしばらくしてからだった。周囲の魔素を集めることができるようになると、そこから先はすぐだった。シビルが「レックスもエリナも早すぎる!」と文句を言っていた。すでに闘気術を使えるのだから、闘気術を身につけていない頃のシビルと比べても仕方がないと思う。もしシビルがその時に闘気術を学んでいたならば、俺達以上に早く基礎魔法を習得できていたはずだ。


 二人にマッパーの事を相談すると、賛成してくれた。報酬が減ることについても、これからの迷宮探索に必要な事だと、納得してくれた。


 ソーニャさんにマッパーを一日雇いたいと伝える。その際に条件を付けた。マッピングレベルが8程度はあること。十五階層に入っていない事。この二つだ。初めての階層でLv8程度のマッピングスキルならば、どの程度進めるのか。


 条件に合うマッパーは一人しかいないということで、俺に選ぶ余地はなかった。報酬の話に入る。稼ぎの十五パーセントだった。例外はあり、換金額が金貨百枚以下の場合でも、金貨十五枚は払わなければならないそうだ。報酬についても問題はないので、その方にお願いすることにした。

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