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第十八話 戻ってきた日常

 結局、昨日はギルドへの報告だけで解散といった感じだった。というのも皆、疲労困ぱいといった感じであったし、治療もあったからだ。ギルドは俺達……というかテオドラさん達のパーティの為に、わざわざ教会から高位の司祭を呼んでくれた。司祭の祈りスキルは俺の『祈り』とは違い、触れる必要はなかった。大きな傷でもなかったことから、俺の顔の傷など一瞬で跡形もなく消え去った。長らく探索者をしていたであろうテオドラさんの体に傷跡一つなかったのも、当然といった感じだった。


 あれならば、シグムンドさんの顔の傷も治せそうなものだが……。治療の合間にそうシグムンドさんに話を振ったところ、やはり司祭の『祈り』ならば傷跡すら消すことができるらしい。が、過去の戒めとしてそのまま残しているそうだ。シグムンドさんを残してパーティが全滅したときに受けた傷なのだろうか? シグムンドさんがそのままでいいというのならそれでいいのだろう。俺がそれ以上どうこう言うことではない。


 まあ、とにかくそういうことで、昨日はただそれだけで終わってしまったのだ。そのかわり、今日は昼からずっと宴ということになった。その費用もギルド持ちだ。



「お疲れ!」


 テオドラさんのその一言で宴は始まった。この場にいるのはテオドラさん達ランク0の人々、シグムンドさん、俺達三人だけだ。この八人で酒場は貸切になっている。その他の普通の探索者の皆さんは今もダンジョンに潜っている。迷宮活性化の元凶である魔物はいなくなったが、まだその影響でダンジョン内にはイレギュラーな魔物が出現したままだ。数日はその対処が必要とのことだった。


 宴が始まってすぐ、酒場の扉を開けて一人の男が入ってきた。ソールさんだ。


「トマス殿から差し入れだ!」


 そう言うソールさんの手には大きな木箱があった。迷宮活性化から忙しい日々を過ごしていた。ソールさんに会ったのも久々だな。


 テオドラさん達が口々に挨拶しながらソールさんに近づいていく。テオドラさん達とソールさんもまた知り合いだったようだ。探索者の数自体は少なくないものの、高ランク探索者ともなればその人数は限られてくる。そう思えば顔見知りでもおかしくはないか。ソールさんはカウンターに木箱を置く。テオドラさんはすでにそちらに興味を移していた。ソールさんが木箱を開け、なかから一本の酒を取り出した。


「トマス殿秘蔵の酒だ! ダイギンジョウという異国の酒だそうだ」


 その言葉にテオドラさんが歓声を上げる。日本酒か。テオドラさんは木箱から数本取り出し皆のグラスについで回っている。


「おいおい……それ一本で金貨数千枚が飛んでいくんだぞ……」


 ソールさんはその様子を呆れ混じりに眺めていた。他の人々のソールさんへの挨拶も一段落したようなので、俺もソールさんへと近づいた。


「ソールさんお久しぶりです」


 俺に目をやったソールさんは、意味ありげな笑みを浮かべた。


「ずいぶんと活躍したようだな。ソードダンサー」


「ソールさんまでやめてくださいよ……」


 今日起きてこの酒場に来るまでの道すがら、街行く探索者から同じような言葉を何度もかけられていたのだ。ソードダンサー、ソードダンサー、ソードダンサー、ソードダンサー……、ソードダンサー……。ソードダンサーがゲシュタルト崩壊しそうだ。


「ソールさんは現役時代なんて呼ばれていたんですか?」


 俺の質問にソールさんは嫌そうな顔をした。


「…………ヤーだ……」


 あの豪快奔放なソールさんには珍しい小さな声だった。


「すいません。聞き取れなかったのですが……」


「デストロイヤーだ!」


 あー……。どうだろう? ソードダンサーとどっこいどっこいか……。シグムンドさんの死神ってのがやたらと格好良く思えてくるから不思議だ。俺とソールさんの間にはなんとも言えない微妙な空気が漂った。


「……ソードダンサーのほうがまだましだろ?」


「そもそもまだランク6ですしね……。二つ名を貰うほどの活躍をしたわけでも……」


「いや実際レックスはよくやったよ」


 テオドラさんがいつのまにか近づいてきていた。


「ソールさんも飲んでくれ」


 俺とソールさんにグラスを手渡してくる。ワインとはまた違った日本酒独特の芳醇な香りがあたりに漂う。その言葉にソールさんは嬉しそうにしていた。


「それじゃあ一杯だけ貰おう。……この街の英雄達に」


 グラスを掲げた。それに応じるように少しグラスを掲げ、それから口をつけた。キレのいい辛味が口に広がる。後に残るのは、鼻を抜ける芳醇な香り。まさか異世界で日本酒が飲めるとはな……。うまい……。だがこの一口で金貨数十枚か……。味わって飲もう。テオドラさんは一気に飲み干し、手酌でもう次の一杯を注いでいる。これには俺もソールさんも苦笑するしかなかった。テオドラさんに釣られるようにしてソールさんもグラスを呷った。


「それじゃあ、俺ももう行く。酒はまだまだある。レックスは楽しんでくれ」


「はい。それでは、ありがとうございました」


 頭を下げた俺にソールさんから再び声がかかる。


「ああ。いつでもいいが、落ち着いたらトマス殿の店を訪ねてくれ。解決祝いでアレだ」


 それだけ最後に言い残すと酒場を出て行った。



 テオドラさんは飲みなれない酒に早々に酔ったようで、色々な人間に絡んでいる。キス魔のようで男女かまわず色々な人間にキスして回っていた。前回も相当飲んでいたはずだが、そんなことはなかった。やはり、事が全て終わり気が抜けたのだろうか。シビルなどは「私のファーストキスが……」と、落ち込んだ様子だった。それをエリナが必死に慰めている。


 テオドラさんは、ギヨームさんの頭の耳がお気に入りのようで、一通り回った後はずっとギヨームさんの耳に噛り付いている。ギヨームさんもなれたもののようで、そんなテオドラさんをまったく気にすることなく、ひたすらグラスを空けている。頭にテオドラさんが噛り付いていても格好いい……。男が惚れる男だ。そんなテオドラさん、ギヨームさんを酒の肴にシャリスさんとパブロさんが大人の雰囲気で飲んでいる。


「レックスちょっといいか……」


 シグムンドさんが真面目な顔で俺に話しかけてきた。


「はい?」


「ちょっと待っていてくれ」


 そう言うとエリナ、シビルの下に向かった。なにやら少し話をした後三人で俺の方へと近づいてきた。


「お前達がランク2になったらパーティを組むという話があったな……」


 俺達は一斉に頷いた。


「すまないんだが、あの話はなかったことにしてくれ」


 子供の戯れのような口約束だった。俺は少しショックはあったもののそれほど気にはならなかったが、シビルはその言葉に大きな衝撃を受けたようだった。


「テオドラ達に誘われてな。もう一度パーティを組んでみようという気になった。あいつらならそう簡単に死なないだろうしな」


 笑いながらそう言うシグムンドさん。


「そう思えたのも、お前達と臨時とはいえパーティを組んだからだ。すまない。そしてありがとう」


 シグムンドさんは俺達に向かい頭を下げた。


「おめでとうございます……」


 そう言ったシビルは泣いていた。そんなシビルの肩をエリナが抱き寄せる。シビルはエリナの大きな胸に顔を埋め泣きじゃくり始めた。頑なにずっとパーティを組まなかったシグムンドさんが、パーティを組む事を決めたのだ。喜ばしいことだ。シビルも理解しているからこその祝福の言葉だったのだろうが、納得するのとはまた別のようだった。


「本当にすまないな」


「いえ、そんな……」


 テーブルの上にあった酒を手に取り、シグムンドさんのグラスに注ぐ。


「シグムンドさんの新たな門出を祝って」


 グラスを上げる。エリナとシビルも俺に合わせグラスを掲げた。シグムンドさんは自身のグラスを俺達のグラスひとつひとつに軽く当てた。澄んだガラスの音が響く。それはシグムンドさんの旅立ちを祝福するように聞こえた。


「ありがとう……」


グラスを呷り、一気に酒を飲み干す。俺にだって格好つけたい時があるのだ。



「なんかこういうのいいですね」


 エリナが俺の隣で酒を飲んでいる。


「そうだね。何気ない日常ってのが戻ってきたみたいだ」


 エリナは酒で頬を赤く染め、それがなんだか色っぽかった。正面からエリナを見れず、なるべく不自然にならないように酒場を見渡す。テオドラさんはギヨームさんの耳にまだ噛り付いていたし、シャリスさんとパブロさんは二人で大人な雰囲気を作っている。シビルは泣きじゃくり、シグムンドさんはそれを必死に宥めていた。昨日のことが嘘のように平和だった。


「みたいじゃなくて戻ってきたんですよ」


 エリナはクスリと笑う。


「うん」


 話はそこで終わった。エリナも酒場を眺めながら幸せそうに酒を飲んでいる。沈黙は時として気まずさを生むが、その場にあったのは心地いい沈黙だった。


「何二人でいい雰囲気作ってんだよ」


 俺の首に後ろから腕が回された。にゅっと俺の肩口からテオドラさんの顔が突き出される。背中には柔らかな二つの塊が押し付けられた。なんともいえない心地よさが……。テオドラさんからは、女性特有のいい匂い……なんてものはなく、ただただ酒臭いだけだった。


「い、いつのまに……」


 ついさっきまでギヨームさんの耳に噛り付いていたはずだ。ギヨームさんの方を見ると、先ほどまでと一切変わらない表情で黙々と酒を空けている。気をつけていなかったとはいえ、俺の気配察知スキルにもかからないとは……さすがランク0探索者……。いや今はそんなことどうでもいいか。


「おら立て。もう充分飲んだしな。そろそろ行こうぜ」


 無理やり引き立てられた。テオドラさんの腕で喉がしまる。く、苦しい……。


「レックス借りていくぜ」


 エリナにそう言うと俺をぶら下げたまま、酒場の二階へと向かっていく。この酒場は宿も兼ねていて二階には個室がある。いよいよ息が出来なくなってきた。これは、し、死ぬ……。あわててテオドラさんの腕を叩くも、テオドラさんは一向に解した様子はない。テオドラさんが何か思いついたように急に立ち止まり、振り返ったようだった。


「エリナ。お前も一緒にどうだ?」


 はて……? 一緒に……? 何を一緒に……? ……! そ、それは、も、も、もしかしてあれですか? ゆ、夢の……。


「いえ、今回は遠慮しておきます」


 エリナはあっさりとすげなく断った。


「そうか」


 とテオドラさんはすぐに階段を登り始めた。も、もう少し粘ってくれてもよかったんだよ?




 頑張った。俺は頑張ったよ! 前回はされるがままだったからな……。俺の頑張りのおかげか、それとも酒のせいか、たぶん後者だと思うが俺が起きた時にはまだテオドラさんは夢の中だった。起こさないように静かにベッドを抜け出し風呂に入った。


 汗にまみれた体に朝風呂は心地よかった。さっぱりして階段を下り一階酒場に行く。目に入ったのは死屍累々といった感じの光景だ。ほとんどの人が机に突っ伏すようにして寝ていた。ギヨームさんだけは腕を組み寝ている。この人は酒に酔い寝ているだけでも格好いいな……。だが、これなら皆に昨晩のテオドラさんの声も届いていないかもしれない。俺の頑張りもあってテオドラさんの声は大きかったからな……。


「あの……おはようございます」


 階段の上から俺に声がかかった。見上げるとそこにいたのはエリナだった。エリナにしては珍しく歯切れの悪い挨拶だった。階段を下り隣に来るが、俺の目をあまり見ようとしない。その顔は赤かった。


「ああ……おはよう……」


 これは……俺とテオドラさんの声を聞かれたのかもしれない。エリナでもさすがに直接的な声というのは恥ずかしかったようだ。気まずい沈黙が流れる……。


「……今日はお休みにしますか?」


 雰囲気を変えるように、シビルの方を見ながらエリナはそう話を振ってきた。エリナと同じようにシビルを見る。先ほどと変わらず、机に突っ伏して寝ている。とうぶん起きそうにはない。


「そうしようか。明日からまた頑張ろう」


 俺の言葉にエリナが力強く頷いた。


「私……全然役に立てませんでした……。もっと強くなりたいです……」


 そうだ。俺ももっと強くならないと……。早くシグムンドさんやテオドラさん達に追いつきたいものだ。



 エリナと別れ酒場を出る。まだ日は低く、ずいぶんと早い時間のだった。あたりには探索者の姿も見える。これから迷宮攻略なのだろう。そんな探索者から俺に多くの声がかかる。


「ソードダンサー。お前のおかげで解決したんだってな。死んだバドの代わりに礼を言っとくぜ」


 例えばこんな感じだ。


「いえ、たまたまその場にいただけですから」


「謙遜すんなって! お前の一撃が決め手になったってテオドラさんも言ってたぜ?」


 この俺の過大評価の原因はテオドラさんか……。確かに一撃入れることはできたが、俺がいなければもっとスムーズに倒せていたはずだしな……。


 似たような言葉を次々に人々がかけてくれる。俺に声をかけてくるのは探索者ばかりではない。街に住む普通の人々からも声をかけられる。


「兄ちゃんこれ持ってきな」


 店の開店の準備をしている店主がそう言ってリンゴのようなものを俺に投げてきた。


「ありがとうございます」


「いいって! ありがとな!」


 街のちょっとした有名人だ。悪い気はしないし嬉しい気持ちはもちろんある。だが、やはり気恥ずかしいというほうが大きい。本当に俺がノーライフキングを倒したのならば、ここまで恥ずかしい思いをしなかったのだろうが……。


 道すがら同じように様々な物を頂く。トマスさんの店に着くころには両手に抱えきれないほどになっていた。



 店に入ると、トマスさんが店頭に出ていた。


「これはレックスさん。随分と人気者ですな」


 俺の抱えている物を見て、状況を把握したようだった。


「ええ。どうやらそのようで……」


 トマスさんは人を呼び、俺の荷物をすべて預かってくれた。


「後で、レックスさんの泊まられている宿へ届けさせておきます。それでレックスさんは今日の夜お暇ですかな?」


「はい。特に予定はありませんね」


「それでしたら、レックスさんの活躍を祝して……いかがですかな?」


 トマスさんは目を輝かせている。


「はい。是非!」


 トマスさんの好意を無駄にすることはできないのだ。決して! そう無駄にしたくないだけだ!


「実はレックスさんの事だけではなくて……。ソールなのですがね……」


 トマスさんは急に小声になり、俺の耳元で囁くように話しかけてくる。ソールさんに何かあったのだろうか? 昨日会ったときには、特に変わった様子はなかったはずだが……。


「今回の事もあってですな……」


「おお、レックス来たのか!」


 ちょうどそこに、ソールさんが現れた。それに気づきトマスさんはいそいそと俺から離れた。なんなのだろうか?


「ソールさん何かあったのですか?」


 俺の言葉に、ソールさんは俺からトマスさんへ視線を移した。


「トマス殿話されたのですか?」


「いや、まだ肝心の中身については話していない……」


「そうですか。では俺自身の事ですから、俺からレックスに話しましょう」


 トマスさんは悔しげだった。どうやらトマスさんは自分が話したかったようだ。


「実はな……」


 ソールさんは少し口ごもった。


「ステラさんと結婚するんですよ!」


 その隙にトマスさんが勢いよく言葉を発した。


「トマス殿……」


 ソールさんは少し困った顔だ。


「まあ、そういうことだ」


「おめでとうございます!」


 めでたい。なかなか身を固めないと言われていたソールさんが結婚とは……。


「迷宮の活性化でこの街の人々に危機感が生まれましたでしょ? それでソールもこれから先の事を考えて一緒になる事にしたそうですよ!」


 それだけ言うとトマスさんは店の奥、自宅へと走り去って行く。言い逃げだった。


「まあ、そんな感じだ……」


 トマスさんが言うべきことは全て言ったようで、ソールさんは言葉少な目だ。


「そうですか……。いずれにしても、おめでとうございます」


「一応、ステラの希望もあるし式も挙げる事にしている。レックスも出てくれるか?」


 世話になったソールさんステラさんの結婚式だ。こちらからお願いしてでも出たい。


「もちろんですよ!」


「今日で俺の娼館通いも終わりだ。これからは、お前がトマスさんに付き合ってやってくれ」


 少し寂しげだった。


「トマスさんも結婚されていますけど、通われているじゃないですか。ソールさんも……」


 ソールさんは真剣な表情だった。


「ステラも別に許さない……とは思わないが……。これはまあ俺のけじめだな」


 そう言うソールさんは格好よかった。「それはそれ、これはこれ」などと言っていた人間とは思えない。トマスさんも、あんなに綺麗な奥さんがいるんだから娼館通いなどやめればいいのに……。先ほどまでテオドラさんと一戦交え、これから娼館に行こうという俺が言っても説得力は皆無だな……。


「正式に日取りが決まってから、また連絡する。ステラからも話は行くと思うが、パーティメンバーにも伝えておいてくれ」


「わかりました」


 今日のソールさんの代金はトマスさんと折半にしよう。



 夜連れ立って娼館へと向かう。その馬車の中で少し今回の事について話をした。トマスさんの話では、どうやらテオドラさん達は相当苦労したようだった。ノーライフキングとテオドラさん達では、テオドラさん達が圧倒的に強かったらしいが、ノーライフキングの生命力に手こずったそうだ。倒しても倒しても甦ったという。何十階層にもわたり、ノーライフキングとの追いかけっこをし、そして最終的に追いつめたのが十階層だったというわけだ。


 テオドラさん達は手柄を誇るようなことはせず、ただ大変だったと戦いの中身についてはあまり語らなかった。それなのにトマスさんは詳細な情報を持っている。あいかわらずこの人は怖い。テオドラさん達もギルドに詳細は報告しただろうから、そこからトマスさんに情報が渡ったのだと思うが……。



 娼館に着き馬車を下りる。相変わらずすごいところだ。王都でも、これほど立派な建物は貴族の屋敷くらいだろう。しっかりと敷地内まで馬車が乗り入れられるようになっている。誰が入ったかわからないようにだろう。サロンも個別に分かれ、最低限の人間としか出会わない。ガザリムも大きな街だが、このクラスの娼館に通える人間は限られてくる。そういった配慮もまた、この娼館の質の良さを表しているようだった。


 だが、なんといっても女性の質の高さだ。これまであげたプライバシーへの配慮など、どうでもよくなるほどだ。眼前にずらりと並ぶ女性達を見ていく。今日は……端で恥ずかしそうに立っている女の子にしよう。プロポーションもいいのだから、もっと自信を持って立てばいいのに。だが、その気恥ずかしげな態度がいいという客も多いのかもしれないな。今日の俺のように……。


 指名して、二人で部屋へと移動する。おずおずと手を握ってくる。それもまた可愛かった。廊下でも人と会うようなことはない。以前トマスさんが防音の魔法がかけられているといっていたが、確かに物音ひとつ聞こえない。昨日の宿も防音エンチャントが施されていたら……。


 部屋に付き、扉を閉めると女の子の態度が急に変わった。いきなり抱きついてきたのだ! え……ちょっと……まだ……お風呂にも入って……あっ。

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