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第十四話 闘気術

 ふう……。結局そういうことになってしまった……。ギヨームさんやパブロさんにまで「テオドラの事をよろしく」などと頼まれたのだ。しかたがないだろう……。言い訳だが……。


 テオドラさんは、ずいぶんと気が張り詰めていた。それも関係があったのかもしれない。命の危機を感じると性欲も増すと聞いたこともあるし……。実際はどうなのかしらないが。


 テオドラさんの肉体はすごかった。腹筋は割れていたし、腕や足なども俺より太い。筋骨隆々という言葉がぴったりだった。脱いで初めてわかったのだが、それはバランスが取れているからだ。服の上からではこれほど筋肉がついているようには見えなかった。胸や尻もとんでもなく大きいのだが、まったく垂れるということがない。それも筋肉によるものなのだろう。


 行為自体は俺は一切なにもすることがなかった。ただひたすら、されるがままといった感じだった。あまりにも激しく、話す余裕などはなかったのだが、最後の方には少し会話をする余裕も生まれた。もちろん行為は続けながらだが……。そのときテオドラさんの生い立ちなどにも話が及んだ。テオドラさんはスルト族という巨人族と人間族のハーフなのだという。純粋なスルト族の身長は三メートルを越えるらしい。怖くて両親のどちらが人間族なのかは聞かなかった。もし母親が人間族なのだとしたら……大変だったろうな……。


 早朝、別れる時テオドラさんは随分とすっきりとした顔をしていた。


「明日には全て終えて帰ってくる。その時はまたしような!」


 やはりランク0探索者の体力はすごい……。一晩中だったというのに、いっさい疲れた様子が見えない。俺はきっとひどい顔をしているだろう。ふらふらと薄暗い街を歩き宿へと戻る。


 宿へと帰り着くとそのままベッドに倒れこむ。……疲れた。少しだけ……。おやすみなさい……。



 どんどんと激しい音によって起こされた。何事かと思えば、何者かが激しく扉を叩いていた。窓からはさんさんと光りが差し込んでいる。まずい! 完全に寝過ごした! 慌てて飛び起きると、扉に駆け寄る。


 扉を開くと部屋の前にはエリナ、シビルだけでなくシグムンドさんまでいた。やってしまった……。


「すいません! すぐに用意しますので!」


 頭を下げ、それだけ言うとすぐに扉を閉めた。


「食堂で待っていますね」


 返事をする余裕もなく、慌てて準備を始める。今朝、帰ってきてそのまま寝たのがよかった。防具を来たままだったのだ。金属で覆われていた部分、肘や膝が痛いが、これ以上待たせるわけにはいかない。持ち物を確認し、剣を提げ階下へと向かう。


 食堂では三人が、飲み物を飲みながら待っていた。駆け寄り再び頭を下げる。


「本当にすいませんでした!」


「気にするな。ある程度予想はできていたからな……」


 シグムンドさんももしかして……。伏せ目がちにシグムンドさんを見る。


「勘違いするなよ? 俺はテオドラとそういったことはないからな」


 よかった。兄上だったらどうしようかと……。エリナとシビルを見るが、それほど変わった様子は見られない。シビルの態度がいつもよりそっけない程度か……。それも怒っているというよりは、恥ずかしがっているような雰囲気だ。以前の娼館のときのような態度でないだけでもありがたい。


「さあ行くか! お前達なら今日中に闘気術を覚えられるはずだ」



 ダンジョンに着くと六階層から八階層まで一気に駆け抜けた。文字通りの意味だ。俺達はシグムンドさんの後をただ走っていくだけ。イヴィルアイへ向かったときもこんな感じだったな……。俺のせいで申し訳ない。


 八階層に入ってすぐ魔物には向かわず、闘気術の説明を受ける。


「気とは呼吸だ。魔法は詠唱によって一時的に魔素を集める。だが、気は呼吸によって大気から魔素を取り入れる。これは誰もが自然にやっていることだが、それを意識的に行い、より多くの魔素を体内に取り込むんだ。これが基本だと思ってくれ」


 あまりよく知らないが、向こうの世界でも気というのは、そういった物だったような気がする。深呼吸をしてみるが、体内に魔素が取り込まれているのかはよくわからなかった。エリナもシビルも同じように、深く息を吸っていた。シグムンドさんは、そんな俺達の様子を見て笑っている。


「とりあえずそれはいい。ここからだ。体内の魔素を気と成す。まずは体内の魔素を感じろ」


 感じろと言われても……。とりあえず気配察知で自分を意識する。俺の中にある魔素を感じればいいのだ……。


「次はどうするんですか?」


 シビルはもうすでに体内の魔素を感じることが出来るようだった。それも当然か。無詠唱で魔法を放つ際は、自分自身の体内の魔素を使っているわけだからな。


「俺の場合はその魔素を体に乗せ循環させるイメージだな。その循環を速め縮めていく。魔素を体内で固め凝縮するといった感じかな」


 ふむ。魔素魔素……。……。


「手本を見せよう。レックスもエリナも気配察知スキルを持っていたはずだ。俺の気配を意識してみろ。その中でも特に魔素に意識を集注するんだ」


 シグムンドさんの気配を感じる。ひとつの気配といっても、その中に様々な要素が詰まっている。ひたすらに、ただ感じ取ることに集中していく。……するとシグムンドさんの胸のあたりに蠢く物を感じた。これがそうだろうか? シグムンドさんが背から槍を降ろし構えた。胸の辺りに感じ取れたそれは、手を伝わり槍へと広がる。最終的には槍全体を覆いつくした。


「これが闘気術と呼ばれるものだ。今は槍だけだが……」


 今度はシグムンドさんの全身へと広がっていく……。


「こういった感じで全身に纏うことも可能だ」


 そう言うと、とんっと軽く床を蹴った。ただそれだけで数メートルの距離を一瞬で移動した。再び床を蹴り元の位置へと戻ってくる。


「こんなふうに身体能力の底上げもできる」


 シグムンドさんから感じたように、体内の魔素を意識しながら、胸へと集めようとする。体内の魔素は感じ取れるようになったが、動かしたことのないものだ。なかなか思うようにはいかない。


「あっできました!」


 シビルが声をあげる。楽しげに全身に闘気を纏い、飛んだり跳ねたり体を動かしている。その速度はシグムンドさんに及ぶべくもないが、シビルの今までの動きに比べればとんでもない速度だ。全力の俺やエリナ以上だ。これが闘気術か……。すごいな……。


 しばらくそうやってはしゃいでいたシビルだったが、すぐに床にへたり込んだ。息も絶え絶えで、体中から汗が噴出していた。


「調子に乗るからだ。闘気術は消耗が激しい。これは普段から俺達が体を動かすのに魔素を使っているからだそうだ。その魔素すら気として集める。体が重く感じるのも当然という訳だな。常に使えるようなものではないから、使いどころを考えろ」


 とりあえず体の魔素を集めないとな……。どうやって動かすのか……。ああ、血流に乗せ胸へと送るイメージだ。体中の至る所にある魔素を胸に集め留め、そこで圧縮する。心臓の収縮に合わせ魔素を集め固めていく。あくまでイメージだ。実際にそういうことなのかは、わからない。


 だが、そのイメージは着実にうまくいっている。胸の奥に熱い塊が生まれ始めているのを感じる。これが気というものだろう。右手で剣を抜きそちらに移して行く。が、なかなか上手くいかない。手まではスムーズに流れていくのだが、そこから先、剣へと伝わってはくれない。


「レックス。剣は手の延長と考えろ。それはお前自身なんだ。エリナも同じだ」


 シグムンドさんは俺の詰まっているところを的確に指摘する。手の延長か……。剣の先まで意識を通していく。するとスムーズとは言い難いが、徐々に剣へと気が流れていく。それはゆっくりとした速度で進み、剣先まで到達した。


 エリナを見るとこちらも剣を抜いていた。気を生み出す事はできたようだが、そこから先へと進んでいないようだ。エリナの額が汗にぬれている。


「剣が難しいようなら、盾はどうだ? そのほうがエリナにはイメージしやすいからもしれない。盾に通せるようになれば、剣にもすぐに通せるだろう」


 その言葉にエリナは盾を構えた。


 エリナの事に意識を取られている場合ではない。左の剣も引き抜き、左右同時に闘気で覆う。なんとか覆う事はできたが、準備にこれほどの時間を使わなければならないとすれば、実戦では使えないだろう。まだまだ練習が必要だな。体にも闘気を纏い少し動いて見る。反復横とびのように左右に体を振る。まるで自分の体ではないかのように軽くスムーズに動く。……これはすごいな! だが、反動はすぐに来た……。体内の魔素量が多いというシビルでさえすぐに使えなくなった。これは……立っていられない……。その場にしゃがみ込む。体が重い……。


「できました!」


 エリナの嬉しそうな声があがった。なんとかエリナに意識を移すと、確かにエリナの盾は闘気によって覆われている。肉眼ではわからない。だが盾から気配を感じるのだ。


「同じ感覚で剣にも通してみろ」


 エリナは先ほどの苦労が嘘のようにあっさりと剣にも闘気を纏わせた。喜びながら、剣を振り盾を突き出す。そんなはしゃいだら……。ほら。案の定エリナは地面へと座り込んだ。


「……全員できたか。さすがにここまで早いとは思っていなかったな……。とりあえず休憩しよう。回復したらデスナイトと戦うからな。それが終わったら迷宮を出るぞ。初めての闘気術だ。疲労が激しいだろうからな」


 誰もシグムンドさんの言葉に反応することはできなかった。ただただ、ひたすら地面を見つめることしかできない。



 体力も少し回復し、デスナイトに向かうことにした。その道中シビルがシグムンドさんに絡んでいた。


「もっと早く教えてくれればよかったんですよ! それなら楽に進めたのに」


 シビルの態度は実際にそう思っているといった感じではない。子が親に甘えるような態度だ。シグムンドさんもそれがわかっているのだろう。別段、不快な様子は見られない。


「闘気術ってのはな……。本人の元からある能力を高めるだけのものだ。それも万能ではない。迷宮にこもっている間、魔物との戦闘の度に使えるってもんでもないだろ?」


 あの疲労具合。たぶん闘気術のスキルレベルが上がろうと、常時、発動することはできないだろう。


「結局、大事なのは自力なんだよ。闘気術スキルだけ育っても、すぐに限界がくるからな」



 話しているうちに、デスナイトのいる部屋へと着いた。デスナイトは四体。


「それじゃあ全員、闘気術を使ってみろ。シビルは気を乗せすぎるなよ。レックスとエリナも全身に纏う必要はない。デスナイトの動きについていけているからな。剣にだけ通せばいい。もちろん浄化スキルは禁止な」


 浄化スキルを使えない不安もあったが、闘気術に対する興味のほうが勝っていた。全員が闘気術の発動に成功したのを確認して、デスナイトへと向かう。


 最初はいつも通りシビルの魔法だ。短詠唱のイグニッション。闘気術を上手く使えたのだろう。短詠唱のそれはデスナイトにレジストされず、大きな炎となって燃え上がった。もうあのデスナイトは数にいれないでいいだろう。あと三体。前回と同じ俺が二体、エリナが一体で行こう。目線を交わし確認する。エリナが頷いた。よし! 先行してデスナイトに向かう。……こちらに近づいてきていたデスナイトの一体が燃え上がった。シビルの二度目の魔法だ。この威力で……早いな。魔法においても気は便利そうだ。


 これで俺が一体。エリナが一体か。手前のデスナイトを躱しながら、奥のデスナイトへと走り寄った。後ろではエリナとデスナイトがぶつかる音が響く。


 闘気術……。どんなものか? 振り下ろされたデスナイトの腕を斬り、胸へと剣を突き入れた。……! 気配は消えない。俺に噛み付こうと顔を近づけてくるデスナイト。


 くっ! 腹を蹴りつけその反動で距離を取った。浄化スキルであれば、あれで終わっていた。浄化スキルと比べて闘気術のレベルが低いからか……? アンデッドには浄化スキルのほうがただ有効というだけかもしれないな。腕は斬られたままだ。浄化スキルほどではないが、有効ではあると……。


 腕のないまま俺へと向かって来る。そのデスナイトの首に剣を振る。剣は何の抵抗もなく首を断ち切る。いつもと同じだ。そこでやっとデスナイトの気配が消えた。


 地面に倒れたデスナイトの死骸を眺める……。腐った肉を漁るはめになるのか……。アンデッドは浄化スキルで倒すべきだな……。


 エリナのほうも無事にデスナイトを倒したようだ。いままで有効的な攻撃を加えることができなかったエリナにとって、とても嬉しいことなのだろう。はしゃいでいた。


 先ほどのように倒れこむような形にはならなかったが、体は重い。なんとかデスナイトから魔石を取り、部屋を出る。


「よし。それじゃあ今日はここまでだな。闘気術の使い方はわかったと思う。多用するなよ。魔物に襲われたときに、疲労で立ち上がれないとか洒落にならないからな」



 シグムンドさんがイヴィルアイ戦後、食事を大量に取った理由がわかった。闘気術を使った後はやたらとお腹が空くのだ。いつもの店で食事を取ったのだが、エリナ、シビルも俺と同じように腹が減っていたようで、一人三人前くらいの食事をとっていた。

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