表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/100

第五話 種族スキル

 資料室で八階層のマップを写している。ただマップを書き写すという単純な作業だが、俺の心はご機嫌だった。


 昨日は結局、エリナのマップを使えないとは言えなかった。ダンジョンでマップを見るのは俺の役目だ。エリナの書いたマップを見る振りをして、俺の書き写したマップを見て先へ進むのだ。完璧! その為に、こんな日も出ないうちから資料室に籠もっているという訳だ。


 今日、八階層に進む事はない。だがシビルの加入によって七階層もスムーズに進むだろう。そうなれば明日には八階層を攻略することになる。残された時間は少ない。


 眠い目を擦りながら、必死に書き写していく。いくら雑になろうとも、さすがにエリナが書き写したマップよりはマシだ。ただひたすらにマップを書き写していく……。


 昨日は楽しかった。つい時間を忘れ、夜遅くまで話し込んでしまった。そのせいでこんなにも眠い……。しかし、そんなことは気にはならない。なぜなら……今日からエリナ、シビルと同じ宿に泊まるからだ! 同じ宿に泊まる利点について、俺は丁寧に説明していった。その結果、同じ宿に泊まるべきだと二人は理解してくれたのだ。……もちろん同じ部屋というわけではない。もともとはエリナが泊まっている宿だった。俺達が泊まっている宿の中では一番高価だったが、風呂があるということでその宿にすることにした。同じ部屋ではないが、同じ宿なのだ。そして風呂がある……。



 さて……今日も一日頑張ったな。汗もかいたし風呂にでも入ろう。部屋をでて風呂場へと向かう。脱衣所で裸になり、風呂の扉を開ける。そこには一糸まとわぬエリナとシビルの姿が……!


「きゃっ」


「ちょっとレックス!」


 タオルで体を隠す二人……。慌てて俺もタオルで股間を覆った……。



 などといった展開もありえるわけだ! ご機嫌にもなるというものだ。


 妄想を膨らませているうちに、マップは三分の二ほどを書き終えていた。この調子なら、明日の朝、同じように書き写せば問題なく完成するだろう。ひとまず今日はここまでにしておくか。


 資料室のギルド職員の女性に『基本クラス完全解体新書』を持ってきてもらう。さすがにアランさんではなかった。よかった。いつ来ても窓口にステラさんがいるし、資料室はアランさんだしで、ギルドの勤務実態に不安を感じていたのだ。さすがに交代するよな。それもそうか、トマスさんの宴にも参加していたしな。


 ……休日はあるのだろうか……? そもそも、この世界に休日という概念があるのかさえ知らない。そういえば俺も毎日ダンジョンに入っている。エリナ、シビルと相談して休日を作るか決めてもいいな。


 持ってきて貰った『基本クラス完全解体新書』を読む。昨日、聞きそびれてしまった魔素感知、魔素吸収のスキルについて、魔法使いのページを確認しておこうと思ったのだ。


 だが、魔法使いのページには両スキルとも乗っていなかった。やはりなかった。昨日、俺が確認したときにも載っていなかったような気はしていた。だからシビルのステータスを見たときに気になったのだ。年齢のほうに気を取られすぎたが……。


 魔法使いのスキルではないのだろうか? 巻末の索引でも探したが、どうやらこの本には載っていないようだ。もしかしてギフトスキルなのだろうか? だとすれば、シビルも転移者……。それなら、スキルについて隠しておくか、説明があっただろう。俺の万職の担い手に対する説明でも、反応におかしなところはなかった。


 ……考えてもしかたがない。シビルが来たら直接聞いてみよう。



 ギルドを出て剣を受け取りに行く。日はまだ昇ったばかりだ。街にはまだ少ないが、探索者の姿も見える。そのどれもが高そうな装備を身につけた高ランクであろう探索者達だ。こんな朝早くからダンジョンにいかなければならないほど、金に困っているようには見えない。いや……逆か。こんな朝早くからダンジョンに行っているからこそ金に困っていないのか。


 ダンジョンを探索するのに才能は関係ないのかもな。朝から真面目にダンジョンに籠もった人間が、探索者として成功するのだろう。その頑張りも才能の一つだ、と言われればそうかもしれないが、それ以外のどうにもならない才能よりはどうにかなる部分だろう。



 バッチョさんから剣を受け取る。その際バッチョさんは自慢げだった。確かによくできている。拵の装飾は左右同じにしか見えず、まるで元々一対の剣として生み出されたようだった。これで金貨二十枚なら安いものだ。


 借りていた剣を返し、変わりに受け取った剣を腰に帯びる。借りていた剣とは少しバランスが違うが、何故かしっくりときた。借りていた剣の拵はシンプルな物だったがこれは煌びやかだ。赤い防具に、金の装飾が施された黒い剣は似合っていると思うが、さらに派手になってしまった気もする。


 両方の剣を抜き、構える。柄はしっとりと手に馴染む。共に俺には勿体無いほどの素晴らしい剣だ。まだまだ剣としては安いほうだというが、これ以上となると想像できない。地面に落としただけで、大地に柄まで突き刺さるような切れ味なのだろうか? さすがにそこまでじゃないか。自分の貧困な発想に乾いた笑いが出た。


 バッチョさんは気持ち悪い物を見るような表情だった。剣を抜いたまま変な笑いを浮かべているのだ。当然だ。慌てて剣を仕舞う。何事もなかったかのようにバッチョさんに礼を言い店を出る。そろそろいい時間だ。ギルドではもうすでに二人が待っているかもしれない。早く向かおう。



 ギルドの前では、やはりもうすでに二人が待っていた。


「遅くなってすいません」


 二人に頭を下げる。


「私達も今着いたばかりですから」


 少し遅れたようだったが二人は気にした様子はなかった。ちゃんとした時計がほしい。さすがに無理かと思ったが、エリナによればこの世界にも時計はあるということだった。だがとてつもなく高価らしい。安いものでも金貨数千枚はするという。無理だ。いつまで経っても買えそうにないな。それだけの金があれば装備を更新するべきだろうしな。


 それに今日から同じ宿に住むのだ! そこまで時間を気にすることもなくなるだろう。


「それじゃあ行きましょう!」


 テンション高くダンジョンへ向かう。



 六階層は問題ないということで、七階層へ最短のルートで進む。その途中で出くわすスケルトンは、シビルの魔法の一撃で崩れ去っていく。


「シビル六階層からそんなに魔法を使って問題はない?」


 足は止めず七階層へと向かいながら状況を確認する


 魔法を構成する大部分の魔素は外部のものだが、外部の魔素を集める際にまず体内の魔素を呼び水にする。それから放出するのだが、その際に呼び水とした体内の魔素も魔法として流れ出るのだ。いくら外部の魔素が大部分だといっても、そういった事から撃てる魔法の回数には限りがある。


「大丈夫ですよ。今まで魔素切れになったこともないですし」


「それは魔素吸収というスキルのせいですか?」


 結構、自然に聞けたと思う。


「それもあります。呼吸と共に外部の魔素を体内に取り込めるスキルみたいです」


「やはり魔法使いのスキルなんですか?」


「それがよくわからないんですよね。魔法使いになったら出てきたスキルなんで、そうだと思うんですけど……『基本クラス完全解体新書』には載っていなかったってアランさんが」


 それについては俺も確認している。


「たぶんですが……それは種族スキルではないでしょうか?」


「種族スキルですか?」


 そんなスキルは聞いたことがない。疑問をエリナにぶつける。シビルも知らないようでエリナを見ていた。


「はい。さまざまな種族がいますが、その中には特別なスキルを持っている種族が数多くいます。シビルのそのスキルも種族スキルではないかと。もちろんギフトスキルの可能性もありますが」


 その言葉にシビルは戸惑ったようだった。


「あの……でも私、普通の人間なんですけど……」


 確かに耳も生えていないし尻尾もない。幼くは見えるが、ハーフリングとは違う。


「何代か前に異種族の方がいたのではないでしょうか」


 エリナによると庶民の間では異種交配が進んでいて、異種族の血がはいっている人間が多くいるらしい。貴族は貴族同士で結婚する場合が多く、異種族の血が入ることはまずないということだった。


 シビルが魔法使いになった事で、その過去の異種族の血が活発化してスキルが現れたのではというのが、エリナの意見だった。帰ったら資料室で種族について調べてみよう。


 それにしてもエリナは色々な事を知っている。これからは何か資料室で調べる前に、一度エリナに聞いてからの方がいいかもしれない。


 そんな話をしながらも進み、順調に七階層への階段へとたどり着いた。


 シビルはあの後戸惑った表情を見せていた。いきなり異種族の血が流れていると言われたのだ。戸惑いも当然のことだろう。シビルに今日はここまでにするかと聞いたが、大丈夫との返答だった。七階層ならシビルがミスを犯しても俺とエリナでなんとかなる。七階層へ進むことにした。小休止を取った後、七階層へと足を踏み入れる。


 俺の心配は杞憂だった。シビルの魔法でスケルトンウォリアを沈め、後に残ったスケルトンを三人で始末していく。


 このあたりはスケルトンウォリアがいようと六階層の戦闘方法となんら変わらない。魔法使いがいるというだけで、こんなに楽に進めるのか。


 その後も小部屋で戦闘を繰り返したが、六階層と同程度の時間で八階層階段前に到着してしまった。


「どうしましょう。今日はもうこのあたりで帰りましょうか? それとも七階層でもう少し戦闘します?」


 二人が考え込んだ。俺としては帰りたいところだ。まだ時間は早い。この時間に帰ることができれば、明日の朝早くに起きなくとも八階層のマップを完成させることが出来る。


「まだ時間も早いですし、このまま八階層に進みませんか?」


 エリナがとんでもない事を言い出した。


「そうですね! それがいいと思います」


 シビルもエリナの意見に賛成する。いや、まだマップは完成していないんだぞ。


「八階層についての情報はまだ調べていないですし……」


「それについては私が説明します。一旦ここで休憩を取りましょう。その間に説明します。幸い八階層のマップも持ってきていますし」


 エリナは鞄からマップを取り出し俺に手渡してきた。そのマップに目を落とす。完全に覚えているわけではないが、俺が見た八階層のマップとはまったく違う。これを頼りに八階層を進むのは危険だ……。なんとか思いとどまってもらえないだろうか。


「いや、八階層には初めて入りますし、事前にもっと準備をしてからのほうがよくないですか?」


「いつもと同程度には、準備はすんでいると思いますが……」


 エリナが八階層について調べており、マップもある……。確かにいつも通りだな……。


「わ、わかりました。まずは休憩を取りましょうか……」


 俺が提案することが多いが、別に俺がこのパーティのリーダというわけでもない。二人が八階層に進むというのだから、俺の分が悪い。とりあえず……袋からこっそりと俺が書いた八階層のマップを取り出す。これで三分の二までは順調に進むはずだ。それ以降は……どうしよう……?


 まぁいい。これもいい経験になるだろう。十一階層からは参考になるマップなどなく、マッピングしながら進むことになる。早めの予行演習といったところだ。エリナも実際に自分のマップが参考にならないとわかれば、これからマップを書くなどと言わないだろう。俺が下手に誤魔化しながら書く必要もなくなる。


 前向きにそう思うしかない……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ