第三話 クラスとスキル
ゴブリンに襲われてから二日、何も食わずただベッドで寝て過ごした。隣家の男が心配して訪ねてきてくれたが、ほとんど会話らしい会話をすることもできなかった。
「村を出よう」
決めた。どんなことでもできる力はある。だが、俺にどんなことができるかわからない。なにもできないかもしれない。それでもこの村で、魔物に怯えながら生きていくよりはましだ。街に出て探索者として生きていこう。
「ステータス」
クラス : 村人Lv3
ゴブリンを倒したおかげなのか俺の村人Lvは3にあがっていた。ゴブリンを倒して村人のレベルがあがるというのはよくわからないが、お約束として経験値のようなものが設定されているのだろう。身体的な変化は感じられないが、強くなっているのだと思う。ステータスのそれ以外の項目には変化はなかった。とりあえず出来ることをしよう。まずは金だ。旅をするにも金がいる。家の金をかき集めてみる。
「これだけしかないのか……」
銅貨にして六十三枚。多いのか少ないのか……。だがこれほど貧しいのだ。きっと少ないのだろう。この村で、ほぼ金を使うことはなかった。自給自足。ときどき商人が訪ねて来ることもあったが、こんな貧しい村に来る商人など半年に一回いるかいないかで、レックスも興味を持たなかった為に物価の知識などもなかった。
結局手元にはこれだけしかないのだ。これでどうにかするしかない。旅の途中、動物を殺し食うなどといったことも考えなければならないかもしれない。大きなゴブリンを殺したのだ。兎や鹿くらいなら、なんとかなるだろう。ゴブリンの頭に鍬がめり込んでいく感触は今も手に残っている。こびり付いている。嫌悪感がこみ上げるが、この世界で生きていくためには慣れるしかない。まずは村長に村を出ることを伝えないと。
家を出て村長宅に向かう。小さな村だ村長の家にはすぐについた。村長の家といっても、俺の家とそう大差はない。粗末な小屋だ。
「すいません。村長はいらっしゃいますか?」
俺の声にすぐ扉が開かれた。中から出てきたのは四十過ぎに見える男だった。村長本人だ。
「おお、レックスか。今回は大変だったな。まあ、あがれ」
「失礼します」
そう言って家の中へと入る村長に続いて扉をくぐる。家の中も俺の家と同じようなものだ。少し物が多いくらいだろう。
「何か話があるようだな」
村長は俺に座るように促しテーブルについた。村長の前の椅子に付くと、すぐに用件を切り出す。
「村を出ようと思います」
「そうか……」
村長はそれだけ言うと考え込んだ。長い沈黙が流れる。これだけ小さな村だ。人が一人減るとそれだけ収穫も減る。領主に払う年貢などもある。色々と考えるべきことが多いのだろう。村長の妻が白湯を持ってきてくれた。頭を下げ、有難く白湯を頂く。土の味がする濁った白湯だが、すきっ腹に染み渡る。
「あてはあるのか?」
「いえ、特には。とりあえずガザリムまで行こうかと」
ガザリムはこの村から一週間ほど進んだ所にある近辺では一番大きな街だ。
「迷宮都市か……」
迷宮都市ガザリム。ガザリムの街の近くにダンジョンがあることからそう呼ばれている。そのダンジョンのおかげでガザリムという街は栄えているのだ。
「探索者になるのだな?」
「はい。今はそう思っています」
探索者とは村人などと同じようなジョブの一つだ。
「ステータスオープン」
村長は俺にも見えるように自身のステータスを広げた。ステータスの後にオープンをつけることで他者にも任意の項目を開示できるのだ。ステータスには賞罰なども記載される為、身分証明のときなどにも使われる。
名前 : タモト
年齢 : 57
ジョブ : 村人
クラス : 剣士Lv19
剣士Lv19か。どれくらいの強さなのだろう? 後は見た目以上に老けている。レベルによって肉体に補正がかかるらしいから、そのせいで若く見えるのか。スキルについては開示されていなかった。残念だ。
「見てもらえばわかると思うが、俺も昔は探索者をしていた」
なるほど。剣士だもんな。
「迷宮内で体を壊し、生まれたこの村に戻って来たがな……。あそこは大変だぞ。この村で生きていくよりもずっとな。それでも行くつもりか」
村長は元探索者として、親身になってくれているようだ。
「はい」
日本で生きていた頃のままなら、俺はこんな決断はしなかっただろう。ただこれからもこの小さな村で生きていたに違いない。だが決めた。生きる事だけやるのは止めると。
「探索者について教えて貰えませんか? クラスやスキルについても」
探索者についての、俺の中のレックスの知識はほとんどないといっていい。ダンジョン内に入って生計を立てているということくらいだ。
「探索者になる為にはギルドに入る必要がある」
ギルドがやはりあるのか。定番だな。
「私はギルドランクでいえばランク4の探索者だった」
詳しく聞くと、ダンジョン攻略の貢献度によってギルドランクなるものが設定されているらしい。そのギルドランクによってダンジョン内で入れる階層が決まっているのだそうだ。ギルドランクは7から始まり0まであるということだった。ギルドランク4というのは中堅といったところか。剣士Lv19で、ランク4なのか……。ランク0とか、どんな化け物がいるのだろう。細々とした説明などは、ギルドに登録する際に窓口で説明してもらえるということだった。
「それでクラスとスキルだが……」
こちらのほうが重要だ。万職の担い手についても詳しくわかるかもしれない。
「私は探索者になるときに武器として剣を選んだ。スキルが出たのは数週間後だったかな。剣術というスキルだ。そしてクラスチェンジで戦士になったというわけだ」
なるほど。そういうことか。剣術スキルを手に入れたから戦士になれたということだろう。武器を手に取ったことのない戦士など確かにいないだろう。万職の担い手とはそういったスキル制限なくクラスを選べるということか。だからなんなんだ? 剣術スキルがないなら戦士になったところで意味はないだろう。クラスというものの有用性がいまいちわからないな。しかし戦士なのか……。
「剣士ではないのですか?」
「剣士はミドルクラスだからな。まずは戦士だ。剣術スキルをあげていくと剣士クラスになることができる」
なるほど万職の担い手の説明に書かれていた基本クラスとはこのことか。
万職の担い手Lv1 : スキルに依存せず基本クラスに限りクラスを選択可能。
戦士にはなれるが剣士にはなれないのだろう。あとはクラスの有用性だが……。
「ああクラスはスキルの成長に補正をかけてくれる。私の剣士なら剣術スキルが成長しやすくなるんだ。その他に筋力や敏捷性といった身体能力にも補正がかかる。クラスレベルが上がればその効果も少しだが上昇する」
万職の担い手で先にクラスにつけば、他の人々よりも小さな努力でスキルが身につき、そのクラスにあった身体能力になるということか。じ、地味だ。思っていた以上に地味なスキルだった。い、いや。そうだ。きっと万職の担い手のレベルが低いからに違いない。スキルレベルが上がれば超絶スキルになるはずだ。き、きっと……。
「これくらいだな。後はガザリムの探索者ギルドで詳しく聞いてくれ。それでいつ村を出るつもりだ?」
「準備が出来次第ですかね。早ければ明日にでもと思っています」
思い立ったが吉日というやつだ。本当に日本に居たころでは考えられない。ゴブリンを殺さなければこんなふうに思うこともなかっただろう。ある意味ゴブリンには感謝だ。
「もう少し待たないか? そろそろ行商が回ってくるはずだ。その商人はガザリムを拠点にしている。この村にきたあとは戻るだけだ。それに付いていくといいだろう」
商人には村長が話をつけてくれるらしい。村を捨て出て行く俺に色々と有難いことだ。
「ありがとうございました」
村長に深く頭を下げる。
「ちょっと待て」
扉を開け出て行こうとする俺に村長から声がかかった。振り返ると村長は手に剣を持っていた。
「これをやろう。俺が昔使っていたものだが、何もないよりましだろう」
そういって剣を差し出してくる。両手で受け取るが、あやうく落としそうになった。村長は片手で軽々と持っていたから、これほど重いとは思わなかったのだ。剣士Lv19は伊達ではない。
「ありがとうございます」
先ほど以上に深々と頭を下げた。
家に戻り剣を革で出来た鞘から抜いてみる。きちんと手入れがされ、剣身は俺の顔が映りこむほど磨かれていた。俺の瞳、今は緑色なんだな。色素が薄く体毛なども淡い金色なのはわかっていたが、瞳の色まできにしたことはなかった。こうみるとレックス君はなかなかに男前に見える。日本人の俺からしたら、彫りの深いこの村の人々は皆整っているように見えるのだが。
剣を振ってみたが重い。重いが振れないことはなかった。
「ステータス」
クラス : 村人Lv3
クラスに集中すると、村人以外にもクラスを選ぶことができるのがわかった。戦士、魔法使い、僧侶、シーフ、狩人、探索者に関係がありそうなのはこのあたりだろうか? そのほかにも商人や学者などといったクラス、それ以外にも名称からは想像もできないようなクラスも数多くあったが、今の俺には関係ない。とりあえず戦士に設定しておくか。
名前 : レックス
年齢 : 15
ジョブ : 村人
クラス : 戦士Lv1
スキル : 農作業Lv2、万職の担い手Lv1
戦士に設定したが、農作業スキルは消えなかった。これで気楽にクラスチェンジを行なうことが出来るな。商人が来るまで剣を振ろう。旅ともなればこの間のように魔物に襲われることも増えるだろう。剣術スキルが発現すればいいのだが……。