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第十八話 ギフテッド

「何かおかしいですか?」


 急に黙り込んだエリナに不安を覚え聞いてみる。


「おかしいですよ!!」


 感嘆符を二個つける位の勢いだった。


「気配系スキルはレベルを上げるのが難しいんです! それがこんなに……。気配察知Lv7なんてミドルクラスでもいるかいないか……。レックスの気配察知はすごいと思っていましたけど……ここまでとは……」


 確かに……気配察知はすごかったが、そこまでとは……。だが、なぜそんなに簡単にレベルが上がったのだろうか。原因は万職の担い手しか考えられないが……。


 とりあえず、ここは曖昧な薄ら笑いで乗り切るしかない。そんな俺の笑顔にもエリナはジト目だ。


「それで窃盗スキルはいくつなんですか?」


 窃盗スキル……? はて……?


「シーフになる為には窃盗スキルが必要ですよね?」


 あー……。知らない。俺知らない。本に書いてなかったもん……。そもそも盗むなんてことをしていないから、そんなスキル覚えているわけがない。シーフの職についたのも万職の担い手で無理やりだったし……。どうすべきだろう? やはり万職の担い手スキルを明かしてしまったほうがいい気もする。俺が異世界からやってきたという部分は隠してなんとかならないだろうか?


「そうですね。Lv2……だったかな……?」


 とりあえず、話を合わせることにした。俺の他に、こういったスキルをもった人間がいないか確認してから明かす事にしようと思ったのだ。それほど珍しくなければ明かしても問題はない。俺の言葉にエリナはなぜかほっとした様子だった。


「それで……エリナさん……。気配察知以外にも上がりにくいスキルとか、珍しいスキルなんかはあるんですかね……? 例えば数万人に一人しか持っていないスキルとか……」


「エリナでいいと……。もしかしてレックスはギフテッドですか!?」


「ギフテッド……ですか?」


「はい。レックスが言ったような珍しいスキルを持った人が確かにいます。その努力ではどうにもならない珍しいスキルがギフトスキルです。そしてそのギフトスキルを持っている人をギフテッドと呼ぶんです。以前お話した私が憧れた英雄も、ギフテッドです」


 物語でも、完全に作り話ではなく元になった人物がいたのか。俺と同じ様な立場で来ていたのだとしたら、なんて事をしているのだろうか。黒スーツに大きな事をしないように言われなかったのか?


「それ以外にも、生まれつきギフトスキルを持った方、突然ギフトスキルが現れた方など何人かギフテッドが確認されています」


「その方々も先ほどの英雄の様に大きな事をされたのですか……?」


 とりあえず、これだけは確認しておかないと……。


「いえ、それ以外の方は偶然見つかっただけです。ギフトスキルをお持ちの方は、どの方も静かに暮らしたいと仰って、どのような暮らしをされていたのかも詳しくは伝わってはいないのです」


 なるほど。この世界の人間にもギフトスキルというものが現れるのかもしれないが、何人かは俺と同じ立場の人間だろう。偶然見つかったということだし、見つからずに静かに暮らしている人間もいただろう。思った以上に俺のような人間はいるのかもしれない。黒スーツも俺以外に観測者がいるようなことを言っていた気もする。今もこの世界のどこかに、いるのだろうか?


「それで、そのギフトスキルを持った方でまだご存命の方はいるのでしょうか?」


 いるのなら会ってみたい。世界に与える影響なども相談したいからな。


「いえ。いないと思います。最後にギフトスキルを持った方が見つかったのも、数百年は前だったはずですから……」


 数百年も前か……。ん? この世界は明らかに日本のゲームが影響を与えた世界のはずだ。数百年も前にコンピューターゲームがあったわけがない。ということは時間の流れが違うのか……。……時間の流れが違うとしても、俺には観測のしようがない。この世界で生きていくのだから、結局は関係ないか。


「それでレックスはギフテッドなのですか?」


 ここまできたら明かすしかないか。これまでにギフトスキルが見つかった人間も静かに暮らせていたようだしな。大きな問題にはならないだろう。それに明かしても、それをエリナが誰かに洩らすとは考えられない。話すようなら、俺の人を見る目がなかったのだと諦めよう。最悪この国から逃げればいいさ。


「俺がおかしなスキルを所持しているのは事実です……」


 エリナは目を輝かせた。期待に胸躍らせるといった感じだ。憧れの英雄と同じギフテッドかもしれないのだ。当然か。


 エリナに万職の担い手について話す。スキルに依存せずクラスにつける事や、補正がかかる事など。


「なので窃盗スキルは持っていないのです……。先ほどは嘘をついてすいませんでした。」


「それは確かにギフトスキルですね。思ったよりもその……」


 エリナの期待に沿うようなスキルではなかったのか、落胆が激しい。俺のせいではないが申し訳ない気持ちになった。


「それで他のギフトスキルとはどのようなものなんですか?」


 英雄が持っていたのは剣術Lv2800だったらしい。英雄は剣で海を切り裂き、歩いて渡ったと伝わっているという。一流の剣士の剣術レベルが50前後だというから、確かにギフトというだけはある。というかインフレが激しすぎる。


 それ以外のギフトスキルとしては、この世の全ての魔法を使えるスキル、どんな物でも想像した物を創造するスキルなどが伝わっているということだった。俺のスキルと比べればとんでもないギフトスキルだ。確かにエリナが落胆するのもわからないでもない。俺もその話を聞いて、少し落胆したくらいだ。


「で、でもレックスの気配察知がすごいのも、そのギフトスキルのおかげでしょう? すごいギフトスキルだと思いますよ!」


 そんなフォローをされても、他のギフトスキルと比べれば……。いや、どんな大きな力を持ったとしても、使えないなら一緒か。英雄は思い切り使っていたようだが……。


 俺が探索者として生きていくのには、これくらいがちょうどいいだろう。


「このことはあまり……」


「誰にもいいませんよ」


 俺が言いたいことは伝わっていたようだ。



 ギルドに戻りカウンターで魔石を換金する。金貨五枚になった。二人で分けるので一人分は金貨ニ枚と銀貨九枚だ。それほど高いわけじゃない。六階層だしまだこの程度なのだろう。


 エリナと別れ宿へと戻る。ギフテッドか……。会ってみたいが、お互い目立たないように生きているだろうし、会ってもわからないだろうな……。


 とりあえずエリナにギフトスキルについて話せてよかった。パーティメンバーなのに隠し事をしたままというのはどうもな。もっと重大な異世界から来たということは話せていないし、隠し事はあるままだが……。きっといつか、それも話せる時が来るだろう。




 普段よりも早めに起き、ギルド資料室へと向かう。昨日はエリナを待たせてしまったし、早めに行って七階層のマップを写しておこうと思ったのだ。


 資料室にはアランさんしかいなかった。用意してもらった紙とペンで七階層のマップを書き写す。どうやら七階層も六階層と同じ程度だ。この広さなら今日で七階層も攻略できるだろう。


 マップを書き写しているとエリナさんが入ってきた。シビルさんも一緒だ。


「おはようございます」


 二人に挨拶をして、マップの写しに戻る。以前よりも雑にはなったが、この調子ならすぐにでも終わるだろう。質の悪い紙と羽ペンに慣れたというのも大きい。



 書き終わり、顔を上げると三人が仲良さそうに話している。お、俺も仲間にいれてくれてもいいんだよ?


「終わりました。エリナも大丈夫ですか?」


「はい。昨日読んでいたので、確認だけでしたから」


 アランさん、シビルさんに挨拶してエリナと共にダンジョンへ向かう。昨日と同じように、ダンジョンへと向かいながら七階層の説明を受ける。


 七階層にはスケルトンと共にスケルトンウォリアが出現するということだった。スケルトンウォリアは剣と盾を持っているらしい。



 まずは六階層に転移する。ここから七階層に続く階段を目指すことになる。


「七階層までは最短距離で向かいましょう。六階層のスケルトンの魔石は諦めてもいいですよね?」


 ここで稼ぐことは目的ではない。下層にいけばもっと稼げるだろう。


「はい。そうしましょう!」


 エリナは七階層攻略に意気を上げる。


 気配を感じ取りながらマップを確認する。最短距離でも問題なさそうだ。



 エリナを先頭に六階層を駆け抜ける。魔石を気にしなければスケルトンは一瞬だった。エリナが走りながら、レイピアを振るうとスケルトンは白い粉となり崩れていく。数が少なかったのもあるが、特に何もしないまま階段前に到着してしまった。ただエリナの後ろを着いて来ただけだ。


 小休止を取ってから七階層への階段を降りる。


 七階層も風景は代わり映えしない。近くに五つの気配が固まっている。小部屋だろう。気配察知の範囲を広げるが、どこも同じような数で単体でいる魔物は見つけられなかった。どうしても集団を相手にしなければならないようだ。


「エリナ。この先を左に。五体です」


 初めての七階層ということもあって、エリナは慎重に進んでいく。罠などがないとわかっているのが救いだ。


 通路を左に曲がり進んでいくと、やはり小部屋があった。


「あそこですね」


 より慎重にゆっくりと距離を縮めていく。部屋の中はスケルトンでいっぱいだ。四体は普通のスケルトンだが、一体、剣と盾を持ったスケルトンがいる。あれがスケルトンウォリアだろう。姿形はスケルトンと変わらない。剣と盾を持っていなければ見分けがつかないだろう。


「釣りますか?」


 まず最初は安全策で行ったほうがいいだろう。エリナは俺の言葉に無言で頷いた。


「行きます」


 俺に一言掛け、部屋へと近づいていく。こちらに初めに気が付いたのはスケルトンウォリアだった。ウォリアが剣を上げるとスケルトン達が一斉にこちらを向いた。声などは聞こえないが、スケルトン達は意思疎通が可能なようだ。ウォリアが剣を振り下ろし、それを合図にスケルトン二体がこちらへ向かってくる。


「魔石を!」


 エリナの隣に立ち、剣を構える。剣を振り回すのは無理だろうが、二人が並んでもなんとか余裕はある。近寄ってきたスケルトンの魔石を狙い剣を突き出す。突き出した剣は狙い違わず魔石を貫いた。スケルトンが粉々になるが、一息もつけない。もうすでに新たなスケルトンが二体迫っている。ずいぶんと行動がはやい。剣を引き再び突き出す。またも簡単に粉々になるスケルトン。エリナも倒し終えている。残っているのはスケルトンウォリアのみ。


 ウォリアは、ゆっくりとこちらに足を進めてくる。その姿は普通のスケルトンと同じなのだが、どこか風格がある。


「私が……」


 エリナがウォリアへと走りより、剣を突き出す。その剣はウォリアの盾で防がれた。ウォリアはすぐに剣を振り下ろし、それをエリナが盾で受け止める。そんな攻防が何度か続いたが、エリナの剣が先に届きウォリアの頭を切り落とした。すかさず走りより、頭蓋骨へと剣を落とす。硬い! 何度も剣で斬り付け、足で踏みつけ粉々にする。すぐにウォリアの気配が消えた。


「まだ余裕はありますが、他のスケルトンとは比べ物にならないくらい強かったです」


 エリナは手に魔石を持っている。スケルトンウォリアの魔石だろう。通常のスケルトンの魔石と比べ少し大きい。


「スケルトンも六階層より動きがよかったですね。ウォリアがスケルトンに指示を出しているからでしょうか? 次はどうします?」


 俺の言葉にエリナは考え込んだ。


「そうですね……。釣ってもいいですが……。集団も経験しておきたいので、次は部屋に入りましょう」


 時間の事もある。今日中に七階層を突破するつもりだ。一戦一戦にあまり時間を掛けられないだろう。


「わかりました。ではウォリアは俺が受け持ちます」


 一対一ならエリナでも問題はないが、スケルトンに囲まれた中ウォリアを相手にするのは、戦闘スタイル的にも俺のほうがいい。


「わかりました」


 エリナは少し悔しそうだった。気付かない振りをして、次のスケルトンへと向かう。



 次も五体。エリナに先行して部屋の中へと走り、ウォリア目掛け剣を振るう。先ほどのエリナと同じように、俺の剣もウォリアの盾に防がれた。確かに強い。周りのスケルトンはエリナに見向きもせず、俺に襲い掛かってくる。


 ウォリアに剣を振るう余裕はなかった。攻撃を躱すのが精一杯だ。だがそれもほんの一瞬だった。エリナが次々にスケルトンの魔石を貫いていく。これなら……!


 ウォリアの横薙ぎの剣を身を伏せ躱し、立ち上がるのと同時に首に剣を叩きいれる。ウォリアは気にした様子もなくこれまでと同じように剣を振るう。が、頭はもう落とした。回避に専念する。


 しばらくして目の前のウォリアが動きを止め倒れた。エリナが頭を砕いてくれたのだ。胸から魔石を取り出す。


「どうですか?」


 どうだろうか。いけないこともないが……。


「思った以上にスケルトンウォリアが強いですね。それに他の魔物も全部、俺に向かってくるとは思いませんでした」


「確かに、あれは予想外でした……」


「釣ってくるか……。小部屋内でウォリアと戦うにしても、部屋に入った際にスケルトンを数体は倒しておいたほうがいいですね」


 俺の意見にエリナも賛成してくれ、次のスケルトンへ向かう。小部屋に入る時に何体か減らすことを条件に、今度はエリナがウォリアを持つことになった。数が減れば問題ないだろう。




 小部屋内での戦いを繰り返した。スケルトンウォリアの動きにも慣れ、特に問題らしい問題もなく八階層への階段にたどり着く。


「どうでした?」


「大丈夫ですが、明日以降も七階層攻略に充てたほうがいいかもしれません。レックスが良ければですが」


 特に問題はなかったが……。


「事前に数を減らさずとも、ウォリアと戦えるようになったほうがいいかなと……。ここで全て押さえられないと、下層に進んだ際に問題が出てくるかもしれませんので」


 なるほど。確かにそうかもしれない。何も急いでいるわけじゃないしな。


「わかりました。では何日か七階層の攻略に充てましょう。八階層に進むのはそれからということで」



 ギルドに立ち寄りスケルトンウォリアの魔石を換金すると、金貨十枚にもなった。数が少なく、あまり稼げないだろうと思っていたので驚いた。スケルトンウォリアの魔石を持ち帰ってくる探索者は少ないらしい。確かに魔石を攻撃したほうが簡単だからな。最初から魔石を狙えば、今日のような苦労もないだろう。


 明日も七階層を攻略する。ギルド資料室に行く必要もないので、ダンジョン前で待ち合わせることにした。




 朝ダンジョン前でエリナと落ち合いダンジョンに入る。昨日と同じく六階層を突っ切り七階層へ。今日は階段は目指さず、ウォリアを重点的に狩っていく。エリナがウォリアを持ち、エリナを攻撃するスケルトンを俺が後ろから殺していく。帰る頃には抱える数が多くなっても、対処できるようになってきていた。これならすぐにでも八階層へ行けるだろう。


 ギルドで魔石を換金すると金貨二十枚にもなった。二人で分けても十枚もある。夕食は豪勢に行こう。普段ならギルド前で別れるのだが、今日は夕食にエリナを誘ってみた。自然に上手く誘えたと思う。


「いやあ、おなか空きましたねえ」


「そうですね」


「そうですかそうですか。それでは、これから一緒に食事でもいかがですか?」


「そうですね」


「では行きましょう!」


 こんな感じだ。パーティメンバーなのだし、一日の反省会的に食事を取るのもごく普通だと思う。思うが、それでも女性を食事に誘った事などない俺には大変なことだった。店は以前も行った少し高い店を選んだ。あの時食べた肉は美味かったからな。……本音を言えば、いきなり高級店に入っても、マナーが完璧なエリナの前で、どのフォーク使っていいのかあたふたしたりするのが嫌だったからだ……。


 席に着き、俺は以前食べた肉を注文する。エリナも同じ物を頼んだ。食前酒で乾杯する。アルコールが胃に入り一息つく。


「明日はもう一度七階層を探索しましょうか。それから八階層に進むか考えましょう」


「そうですね。この調子なら明日には七階層でも余裕が出てくるかもしれません。……ステータス」


 どうやら今日一日の成果を確認しているらしい。俺も確認しようかと思ったが、宿に帰ってからでもいいだろう。酒に手をつけエリナを眺める。


「あの……ちょっとおかしなことが……」


 怪訝そうな顔でこちらを見ている。


「なんですか?」


「ステータスオープン」


 名前 : エレアノール・バシュラード

 年齢 : 15

 ジョブ : 探索者

 クラス : 戦士Lv8

 スキル : 剣術Lv8、盾術Lv8、気配察知Lv2


 エリナのステータスを見る。


「特におかしな所はないようですが……」


「レベルの上がり方が……!」


 エリナは自分の大声に驚き、慌てて声を落とす。


「……異常なんです。昨日は戦士Lv7、剣術、盾術共にLv6でした。気配察知も1でしたし……。一日でレベルが2もあがるなんて絶対おかしいですよ」


 そういうものなのだろうか。そんなおかしくもない気もするが……。ああ、俺には万職の担い手があるからか。


「ステータス」


 名前 : レックス

 年齢 : 15

 ジョブ : 探索者

 クラス : シーフLv9

 スキル : 万職の担い手Lv4、剣術Lv8、気配察知Lv9、身躱しLv7、気配消失Lv6


 色々と上がっているが、万職の担い手がLv4になっていた。


 万職の担い手Lv4 : スキルに依存せず基本クラスに限りクラスを選択可能。クラス効果、小補正。パーティメンバーに対し、クラス効果、経験値に小補正。


 これだ! Lv4に上がったことで『パーティメンバーに対し、クラス効果、経験値に小補正』という説明が追加されている。間違いなくこの効果だろう。それにしても小補正ということだが、エリナの驚き具合から、その小がかなり大きいように思える。何をもって小としているのか……。


「原因がわかりました……。『ステータスオープン』」


 万職の担い手の説明を見せる。


「なるほど。レックスのこれのおかげですか……」


 エリナは周りを気にしてか具体的にギフトスキルとは言わなかった。


「みたいですね」


「でも、よかったです。このままだとレックスと差が開いていく一方だと思っていましたから。これで足手まといにならずに済みますね……」


 そう言って酒を一口飲んだ。そこに食事が運ばれてくる。慌ててステータスを消した。


「冷めても勿体無いですし、いただきましょう」


 肉にナイフを入れる。切り口から見える桜色の肉と、そこからあふれ出る肉汁。芸術的だ……。手を止め、エリナがステーキを口に入れるのを眺める。食べ方も優雅だ。


「おいしいです……」


 よかった。エリナの口にもあったようだ。その言葉に安心してステーキを食べる。やはり美味い。



 ステーキはあっという間になくなった。ご馳走様でした。エリナも食べ終わり水を飲んでいる。


「そろそろ行きますか」


 代金を払い店を出る。外は真暗だった。


「それでは、今日はありがとうございました。明日も頑張りましょうね!」


 笑顔が眩しい。


「はい! ではまた明日ダンジョン入り口で」




 ダンジョン入り口でエリナを待つが一向に来る様子はなかった。かれこれ数時間は待っている。日は高く登り、そろそろ昼だ。昨日、酒を飲んだせいで遅れているのかとも思ったが、さすがにおかしい……。なにかあったのかもしれない。昨日きちんと送っていけばよかったか……。



 あわてて街へ戻りギルドへ向かう。受付にいたのは、いつものようにステラさんだった。


「あ、レックスさん! エリナさんから手紙を預かっています」


 俺に気がついたステラさんから、声を掛けてくる。曇った表情で手紙を差し出した。なぜ手紙なんか。手紙を受け取り、慌てて封を開く。


 急にガザリムを離れなければならなくなった。申し訳ないがパーティの件はなかったことにして貰いたい。貴方ならどのようなパーティでもやっていける。体に気をつけて。といったことが書かれていた。


 よほど慌てていたのだろう、走り書きで文字などは斜めになっている。


「ステラさん。エリナさんは何か言ってましたか?」


「そうですね……今までお世話になりましたと……二度とガザリムには戻らないような様子でしたね……」


 昨日の今日でなにがあったんだ……?

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