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第十七話 六階層

 ずいぶんと朝早く起きてしまった。準備は終わったもののまだ外は暗い。いくらなんでも早すぎるな。俺は遠足前の小学生か……。


 なんとか時間を潰しギルドへ向かったが、ギルドにはまだエリナさんは来ていなかった。時間は潰したものの、やはりまだ早かったようだ。


「おはようございます。エリナさんはまだ来ていないですよね?」


 窓口に居たステラさんに聞いてみる。


「おはようございます。まだお見かけしていないですね。今日からエリナさんと正式にパーティを組まれるんでしたっけ?」


「そのつもりです」


 俺の言葉にステラさんは、一枚の紙を取り出し、カウンターへと置いた。


「ギルドへのパーティ申請用紙です。そちらへお名前を記入してください」


「わかりました」


 指定のある場所に名前を書くだけだ。ギルド加入のときと同じだな。


「おまたせしてしまったようで申し訳ありません」


 記入を終え、ペンを置いたちょうどその時エリナさんがやってきた。


「いえ、俺も先ほどきたばかりです。パーティの申請を先にしていました。こちらの用紙に名前を記入すればいいようです」


 カウンターの前を空け、場所を譲る。エリナさんはすぐに申請用紙を読み、記入を終える。


「はい。それではお二人共ギルドカードを出していただけますか? パーティの登録をしますので」


 言われるがままギルドカードを差し出す。ステラさんは名前が記入された用紙と、ギルドカードを持ちカウンター後ろの扉へと歩いていった。


「いよいよですね」


 わくわくという言葉がぴったりな表情だ。


「そうですね。楽しみです」


 俺も同じような表情だろう。


「とりあえず、これが終わったら資料室ですよね?」


「はい。まだどのような所かわかりませんが、五階層のように広い可能性があります。マップは必要でしょう」


 そんな話をしていると、ステラさんが戻って来た。


「お待たせしました。ギルドカードをお返しします。これでレックスさんとエレアノールさんは正式にパーティを組まれました。ギルドカードの裏面をご覧ください」


 ギルドカードを裏返すと、そこにパーティメンバーとしてエレアノールという名が刻まれている。正式にパーティを組んだのだなと、実感が湧いてくる。エリナさんの持つギルドカードを見ると俺の名前があった。エリナさんと顔を見合わせ笑いあう。


「パーティメンバーを増やす際には、こちらにパーティメンバー全員でお越しください。今回と同じ手続きをさせていただきます」


「ありがとうございました」


 ステラさんにお礼を言ってから、ギルド二階、資料室へと向かう。資料室には先客がいた。シビルさんだった。


「こんな朝早くからですか?」


「そういうレックスさんだって、こんな早くにいらしているじゃないですか」


「そうですね」


 そう言われれば確かにそうだ。三人で笑い合う。アランさんはシビルさんに部屋を任せると用があると出て行ってしまったらしい。それでいいのだろうか……?


「そういえば、シビルさんは今何階層を攻略されているのですか?」


 以前アランさんに聞いたときは三階層だと言っていた気がする。


「今は四階層ですね」


 シビルさんは少し自慢げだった。


「二階層で苦労されていたと思ったのに、すごい早さですね」


 俺の言葉にシビルさんが微妙な顔をした。変な事を言っただろうか?


「もう五階層を突破されたレックス殿が言っても……」


「ですよね」


 エリナさんとシビルさんが笑い合っている。そういうことか……。


「そうだ。シビルさんに、これをお渡ししようと思っていたんです」


 袋を漁り、取り出したのは俺お手製の五階層のマップだ。シビルさんに手渡す。


「五階層のマップです。五階層から格段に迷宮は広くなるので、マップが必要不可欠になります。シビルさんに差し上げます」


 シビルさんは遠慮がちにだが受け取ってくれた。


「ありがとうございます。五階層に到達したら大切に使わせていただきますね」


「お互い頑張りましょう」


 アランさんがいないので、無断で紙とペンを取り……もちろん代わりに机の上に銀貨を置いてきた。『ガザリムダンジョン一階層~十階層』六階層のマップを写す。やはり広い。五階層と同程度。早めにダンジョンへ向かったほうがいいかもしれない。


「六階層はかなり広いようです。マップの写しにも時間がかかりそうなので、エリナさんは六階層の魔物や罠を重点的に調べておいてください」


「わかりました」


 エリナさんは本に目を落とした。ただ黙って本を読んでいるだけだというのに、絵になる人だ……。……見とれている場合ではなかった。マップを写そう。



 黙々とマップを書き写していく。ふと顔を上げるとエリナさんがこちらを見ていた。


「どうされましたか?」


「いえ、レックス殿は器用だなあと……」


 手元のマップを見る。確かに自分ながら上手く書けていると思う。


「ありがとうございます。あっ。レックスでかまいませんよ。正式にパーティを組んだのですし」


「では、私のこともエリナと……」


「わかりました」


 女性を呼び捨てはハードルが高いな……。


「エ、エリナはもう読み終わったのですか?」


 ま、まあ、そのうちなれるだろう。


「はい。私のほうはもう……一応、七階層についても目を通しておきました」


 早い。どうやら俺は丁寧に書きすぎているようだ。わかればいいのだ。


「お待たせしてしまってすいません」


 慌てて、続きを書き始める。七階層からはもう少し雑にしよう。これは最後まで丁寧に書く。途中から汚くなっていると落ち着かないからな。



 それほどの時間もかからず、書き上げることができた。エリナさ……エリナはシビルさんと楽しそうに話していた。


「終わりましたよ。何を話しているんですか?」


「すごいんですよ! 実はシビルさんはですね……」


「エリナさん!」


 シビルさんが少し大きな声をあげ、話を遮った。その大声にエリナさんは驚いた様子だ。


「レックスさんには……その……まだ……。自分から話しますので……」


「すみません……。少しはしゃいでしまいましたね。確かにシビルさんが自分で伝えられたほうがいいですね」


「いえ……私もなんかすいません……」


 初対面だからだろうか、まだ距離感を掴めずにいるのかもしれない。


「それでは行きましょうか。六階層については、迷宮までの間にお話します」


 少し変になった空気を断ち切るように発言する。エリナが立ち上がった。


「エリナさんもレックスさんもお気をつけて!」


 先ほどの変な空気を引き摺らないようにか、シビルさんは笑顔だった。


「それじゃあシビルさん。またね」


 エリナさんも笑顔で答える。これからもっと仲良くなればいい。時間はある。


「ありがとうございます」



 資料室を出て、迷宮へ向かいながら六階層の説明を受ける。六階層にはまだ罠などはないらしい。六階層に登場する魔物はスケルトンだけだという。動く人間の骨だ。装備などは何もしていないらしい。


「私達とは少し相性が悪いかもしれませんね」


 エリナがそう言ったのには理由があった。スケルトンは人間の心臓にあたる部分に、魔石があり、その魔石を破壊することで倒せるらしい。が、ギルドで買い取ってくれるスケルトンの部位はその魔石だという。それ以外の倒す方法は、頭と胴体を切り離し頭を粉々にするということだった。


 俺達は二人とも剣を主に使う。魔石を狙うのであればそれほど問題はない。魔石を傷つけずにということになると、頭を粉々にしないとならない。剣では時間がかかってしまうかもしれない。骨の強度にもよるが、確かに俺達とは相性がよくないかもしれない。これから、パーティメンバーを増やすときにはこういったことも考えないと。さすがに、戦士、戦士、戦士、戦士、戦士ではパーティを組む意味がないだろう。俺は今シーフだが……。



 迷宮入り口の階段を素通りし、建物へと入る。建物の中は何もない。大きな青い宝石以外は。その宝石は支えなどないのに、部屋の中心で浮遊していた。淡く光を放っている。幻想的な光景だった。


 見とれていてもしかたがないな。


「それでは行きましょう」


「はい」


 エリナを見れば、表情が硬い。少し緊張している様子だ。


「まずは俺から」


 浮遊する青い宝石に触れる。


「アルスィスリウ」


 そう言葉を発すると、俺の体が光を放……たない。あれ? エリナさんの笑い声が聞こえた。


「キーワードはアルスィスリゥですよ!」


 笑いながら教えてくれた。恥ずかしい……。だが、俺の発言でエリナの緊張もほぐれたようだ。よしとしよう。


 では、改めて……。


「アルスィスリゥ」


 俺の体が光を放つ。



 上手く転送されたようだ。転送は変な感じだ。感覚としては、エレベーターが動き出す瞬間が近いだろうか。


 周囲に気配がないことを確認し、辺りを見渡す。壁に埋め込まれた青い宝石の近くに『6』と彫られている。風景は五階層と変わりはない。あの文字を信用するならば、六階層に辿り着けたということだが……。


 突然、部屋を明るい光が照らした。それは一瞬のことで、光が収まると次の瞬間にはエリナがいた。


「どうやらお互い無事に転送されたようですね。では行きますか。まずはまっすぐです」


 エリナを先頭に通路を進む。この先に気配は一つ。このまま進めばすぐにあたるだろう。すぐ近くに気配が三つ固まった場所があったが、初めて戦う魔物だ。一体からのほうがいいだろう。


 通路の先にはスケルトンが一体。どうやら生きていないスケルトンの気配でも感じ取れるようだ。もちろん実際に死体が動いているわけではない。人間の骨に見えるが魔物だ。これまでと同じように気配があってもおかしくはない。少し不安だっただけだ……。


 スケルトンは何も装備していないということだったが、手には大腿骨のような大きな骨を握っている。あれで殴りつけてくるのだろうか。胸の奥には赤い石が光を放っている。あれが魔石か。


「行きます」


 エリナが盾を構えながら、スケルトンへと突進する。それに続き俺も走る。スケルトンの動きは緩慢だ。スケルトンがこちらに気付き、手に持った骨を振り上げる。が、先にエリナのレイピアがスケルトンの首を切断した。スケルトンの首が乾いた音をたて、地面に落ちる。スケルトンの動きは止まらない。スケルトンの振り下ろした骨とエリナの盾がぶつかり鈍い音を立てた。


「レックス!」


 エリナさんの声が迷宮内に響く。女性に呼び捨てにされるのっていいな。距離が近くなった気がする。……それどころではなかった。落ちた首へと走り寄り剣を振り下ろす。それは思った以上に脆くあっさりと切断された。もしかして……。


 スケルトンの頭蓋骨目掛け、思い切り足を振り下ろした。頭蓋骨は俺の足と地面に挟まれ、簡単に割れる。いけそうだ! 頭蓋骨を何度も踏みつける。


「もういいですよ」


 後ろから声がかかった。エリナの方を見れば、スケルトンは動きを止め地面に倒れている。それほど細かく砕かなくともいいようだ。


 エリナがしゃがみ込み、スケルトンの胸から魔石を取り出した。それと同時にスケルトンの体はさらさらと粉になり形を失った。魔石を取られると体を維持できなくなるようだ。戦闘中に魔石を取れば、このような面倒はなくなるな。だが、いくらスケルトンの動きが緩慢だといっても戦闘中では厳しいか。


「思った以上に楽でしたね」


 手間はかかるものの、それほど強くはない。一体なら問題ないだろう。複数体の場合どうするかだ。


「今度は三体と戦ってみましょう」


 道を戻り先ほど感じた三体の場所へと向かう。こちらは小部屋の中だ。釣ってもいいが……。


「行きます」


 エリナは部屋の中へと突っ込んでいった。慌てて後を追う。どうやら、かなり好戦的な性格のようだ。エリナに向かい三体のスケルトンが向かっていく。エリナの実力なら問題ない。一番遠いスケルトンにしよう。スケルトン二体と交戦するエリナの脇を抜け、奥のスケルトンへと向かう。振り下ろされる骨を躱し首を斬りおとす。首のないスケルトンは気にした様子もなく、こちらに攻撃を加えてくる。その攻撃を躱しながら、頭蓋骨を踏みつける。ほどなくしてスケルトンは動きを止め地面へと倒れた。


 エリナの方を見ると、二体のスケルトンの首はもうすでになかった。だが、二体の攻撃を防ぎながら頭蓋骨を壊す余裕はないようで、まだスケルトンは動いている。すぐに駆け寄り頭蓋骨を壊しにかかる。頭蓋骨を攻撃されているというのに、スケルトンはこちらを気にすることなくエリナの相手をしている。今のうちだ。どちらの頭蓋骨も脆くすぐに粉々になった。


 胸から魔石を取り上げる。白い粉となり崩れ去るスケルトン。


「複数でも問題ないようですね」


 確かにエリナの言う通り問題はないが……。


「確かに。ですが、複数いる場合は何体か魔石を諦めてもいいかもしれません。三体、四体までなら問題ないでしょうが、それ以上だと時間がかかりすぎます」


「そうですね……。わかりました」


 俺の提案にエリナは同意してくれた。六階層は広い。いつかは迷宮内で夜を明かすことになるかもしれないが、この程度ならそこまでする必要はないだろう。



 俺の提案だが、実行されることはなかった。スケルトンは最大で四体までしか固まっていなかったからだ。


 あっさりと七階層へと続く階段まで辿り着いた。


「余裕でしたね……。それじゃあ帰りましょうか。明日も朝早いですし」


 俺の言葉にエリナは頷き、青い宝石の欠片を取り出した。


「レックスは持っていますか? 持っていないようならここから転移石まで戻りますが?」


「持っていますよ。大丈夫です」


 袋から俺も欠片を取り出しエリナ見せる。


「それじゃあお先にどうぞ。キーワードは大丈夫ですよね?」


 笑いながら聞いてくる。朝の事を思い出しているのだろう。今回は大丈夫だ!


「エバキュエイト」


 その言葉に宝石の欠片は光り出した。ほら大丈夫だ。少しほっとした。



 エレベーターのようなふわっとした感覚を味わい転移する。小さな部屋だ。扉を開けると外に繋がっている。ちゃんと転送されたようだ。後ろを振り向くとエリナももう転移してきていた。


「帰りましょうか」


 ガザリムを目指しエリナと歩く。


「やはりレックスの気配察知はすごいですね」


「そうですね。自分でもそう思いますね」


 便利すぎるからな。


「正式にパーティを組んだことですし、クラスレベルとスキルについてお互いに明かしませんか?」


 なるほど。パーティの戦力をしっかりと把握する為にも必要なことだな。


「わかりました。ステータスオープン」


 名前 : レックス

 年齢 : 15

 ジョブ : 探索者

 クラス : シーフLv7

 スキル : 剣術Lv6、気配察知Lv7、身躱しLv6、気配消失Lv4


 万職の担い手スキル以外を公開する。いつか明かす時がくるのかもしれないが……。まだそんな勇気は持てない。


「え……」


 俺のステータスを見るなりエリナは黙り込んだ。

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