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第十一話 三階層

 初めての異世界の宿はそこそこといった感じだった。もちろん当初暮らしていた村の小屋よりはましではあったが、トマスさんの邸宅や娼館と比べれば同じようなものだった。


 今日もギルドへと向かう。一角鼠の角は銀貨八枚になった。銀貨八枚は、贅沢しなければなんとか一日を過ごせる程度の金額だ。探索者の稼ぎとしてみれば装備のメンテナンスなどを考慮すれば赤字だ。ゴブリンの牙、一角鼠の角、両方のクエストを受けてやっとというところか。命を賭けてこの稼ぎ。探索者とは思った以上に大変だ。臨時収入を当てにせず娼館に通えるのはいつになることか。



 朝早いこともあってか、ギルドにはたくさんの人がいた。人ごみを抜け資料室へと向かう。資料室は閑散としていた。


「どうもアランさん」


 資料室を管理しているアランさんに声をかけ、『ガザリムダンジョン一階層~十階層』と『基本クラス完全解体新書』を持ってきてもらう。


「それにしても誰も人がいませんね」


 こんなに便利なのにな。


「そうですね。利用される方はすくないですね」


 詳しく聞くと、探索者になるような人は貧しく教育を受けられていない人が多く、文字を読めない人が大半なのだということだった。なるほど。言語が日本語でよかった。



 教育を受けられたことの有難さを感じながら『ガザリムダンジョン一階層~十階層』を読む。毎日一階層毎に攻略することにしたので、今日は三階層について読み込む。三階層についての部分だけだったので、それほど時間はかからなかった。マップも書き写さなければならないほど、広いわけではない。


 次は『基本クラス完全解体新書』だ。クラスはそれほどではなかったが、スキルは膨大で端から端まで読むことはできない。とりあえずは戦士とシーフの項目を読むことにしよう。



 うん……書いてた事は大体知ってた……。戦士クラスにつくと筋力に補正がかかる。武術スキル習得などにも補正がかかる。シーフクラスにつくと敏捷に補正がかかる。気配察知スキル習得などにも補正がかかる。完全解体などと銘打っておきながらこの程度だった。


 新しくわかったことといえば、複合クラスなるものがあることだった。ミドルクラスからになる為に詳しくは載っていなかったが。戦士系スキルと魔法使い系スキルを両方上げれば魔法戦士になれるらしい。定番だな。


 後、シーフクラスは忍者になることができるらしい。忍者。にんじゃ。NINJA。すばらしい。戦士クラスには、もちろん侍があった。侍。さむらい。SAMURAI。すばらしい。どちらもハイクラスだというから、俺にはまだまだ先だ。


 ハイクラスの複合クラスなどもあるらしい。過去にもほとんど存在していないようだが、万職の担い手スキルを持った俺にはよさそうだ。


 基本クラスについては知っていることが多かったが、備考程度に載っていた『君の将来の夢』というミドル、ハイクラスについての項目は、確かに俺の将来を考えるうえで参考になった。こういうのわくわくする。



 三階層を目指し、ダンジョンを歩いていくと魔物を発見する。まだ一階層目なのでゴブリンだ。昨日の探索でゴブリン、一角鼠、どちらとも余裕をもって対処することができるとわかった。真正面から正々堂々戦う必要はない。気付かれないように、だが迅速に。走りより剣を斬り降ろす。ゴブリンの牙を抜き、袋に収める。三日目ともなると、もう手馴れたものだ。


 また魔物の気配だ。それとは別にもう一つの気配がある。気配の感じ取れ方が少し違う。昨日のように探索者かもしれない。すぐに三階層に降りてもよかったが、まだ時間は早い。昨日のようなことがないように、探索者にも見つからないようにしなければ。


 なるべく物音を立てないように、争いあう通路を覗く。ゴブリン一体と探索者……昨日二階層で見かけた女の子だった。どうやら俺の言葉通り一階層でレベリングに励んでいるようだ。感心感心。


 一角鼠ではかなり苦労していたが、ゴブリン相手なら充分に戦えている。女の子は一度も攻撃を受けることなく、ゴブリンを殺した。そのまま通りすぎてもよかったのだが、一応顔見知りだ。


「一階層でゴブリンを相手にすることにしたんですね」


 俺の声に驚いた様子を見せた。戦いを終えたからといって、気を抜いていてはいかんぞ! 思っただけで声には出さない。


「あなたは昨日の……。昨日はなんか無茶なこと言ってすみませんでした」


 ぺこりという擬態語がぴったりな謝罪を受ける。パーティのことか。


「一階層降りただけなのに、魔物がすごく強くて……弱気になってしまってつい……」


「気にしないでください。一階層では充分やれているようだし、そのうち二階層でも戦えるようになりますよ。それと文字が読めるなら、ギルドの資料室をお薦めします。あそこで事前に調べておけば、迷宮はずいぶんと楽になりますよ」


 なんとかこの子も頑張れているようだ。


「ありがとうございます……あの、わたしシビルっていいます」


「レックスです。それじゃあ、シビルさん。あまり無理しないように頑張ってください」


 三階層にいかなければならないのだ。長話はできない。


「いえ、死なない程度に無理して頑張ります。五階層までソロでも行けるように頑張ります」


 すごいな。無理して頑張るか。俺ももう少し頑張ろう。月に一度くらいは娼館に行けるように!


「そのときはよろしくお願いします」


 何をよろしくお願いされているのかわからない。ああ、昨日言っていたパーティの話か。俺じゃなくても、五階層までソロでいける人間ならどんなパーティでも入れるんじゃないかなあ。


 なんか懐かれたようだ。困ったな。飼うつもりもないのに、可愛さに負けて餌をやったら家まで後ろを付いてこられた……そんな感じだ。そもそも俺は何か餌をやっただろうか?


 ここで俺は日本人の最終奥義を繰り出すことにした。肯定とも否定とも取れない曖昧な笑顔。これだ! こういう場合だいたい否定なのだが、それがシビルさんに伝わったかどうかはわからない。


 そもそも五階層までソロで攻略できるかもわからない。本当にシビルさんが五階層までクリアできるようなら、実力はあったということだしパーティを組んでも問題はない。まあ、そのとき考えればいいか。



 シビルさんと別れ、ダンジョン探索へと戻る。それにしても変な汗をかいてしまった。二階層でも探索者を見かけたが、見つからないようにそっとその場を離れた。これからはダンジョン内で他人を見かけても、近づかないようにしよう。



 二階層の階段を降り、三階層へと足を踏み入れる。一、二階層と特に変わった様子はなかった。さらに潜ったせいだろうか。すこし肌寒く感じたくらいだ。


 三階層からはゴブリンが出ない。フルークフーデという巨大蝙蝠と一角鼠の二種類が出るということだった。


 とりあえずはフルークフーデの収集品を集めてクエストを達成しなければならない。フルークフーデを探しながら三階層を進んでいく。


 フルークフーデはすぐに見つかった。確かに大きな蝙蝠だ。蝙蝠だからか天井からぶら下がっている。こちらに気付いたのか、大きく羽を広げた。ずいぶんと気付くのが早い。気配察知のレベルが低ければ、先制攻撃を許していたかもしれない。


 剣を抜く。フルークフーデはすぐにこちらを目指し飛んで来る。速い。一角鼠も速いと思ったが、それ以上に速い。翼の先端には鋭い爪が見える。俺を目掛け突っ込んでくるフルークフーデ。膝を付き、体勢を低くしながら避ける。そうして上に向かい剣を突き出す。飛び上がり突っ込んでくる一角鼠と同じ要領だ。


 しかし俺の剣はフルークフーデにかわされた。防がれたことは何度もあったが、避けられたのは初めてだ。天井付近を旋回すると再びこちらへと向かってくる。躱すことに重点を置きすぎたか。


 迎え撃つ為に剣を上段に構える。こちらのほうがリーチは長い。近づくフルークフーデに向かい剣を振り下ろした。俺の剣はフルークフーデの体をとらえる。しかし勢いは止まらずフルークフーデは俺にぶつかった。俺を巻き込みながら転がり、地面に力なく落ちるフルークフーデ。動く気配はない。空中ですでに死んでいたためか、俺にはそれほどダメージはなかった。レザーアーマーも擦り傷程度で酷い損傷は見られない。


 羽を切り取り袋に詰める。クエストの収集品は翼だ。


 何が悪かったのか。フルークフーデを……長いな……蝙蝠を先に見つけることはできた。気配察知は問題ない。蝙蝠の攻撃は難なく躱すことが出来た。身躱しも問題ない。次に俺の剣は蝙蝠に避けられる。剣術。そして俺は蝙蝠を待ち構える。剣は蝙蝠に届くも、勢いに負けてそのまま転がる……と。力だろうか?


「ステータス」


 名前 : レックス

 年齢 : 15

 ジョブ : 探索者

 クラス : シーフLv5

 スキル : 万職の担い手Lv3、剣術Lv4、気配察知Lv3、身躱しLv3、気配消失Lv1


 身躱しが一つレベルが上がり、気配消失というスキルを覚えていた。気配消失は、その名通り気配を消すことができるスキルだった。最近、ダンジョン内で気付かれないような立ち回りをしていた為に覚えたのだろう。


 さて。どうするべきか。悪かった点を考えるなら、クラスを戦士にするのがいいように思える。力も上がり、剣術も上がりやすくなる。だが、そのぶん敏捷力が落ちる。


 もう一つ気になるのは気配察知だ。確かにこちらが先に発見できた。だがその後すぐに蝙蝠も気が付いた。気配察知のレベルが上がれば、範囲も広がりもう少し余裕を持って対処できるだろう。悩ましいところだが……。


 とりあえず、戦士に設定してフルークフー……蝙蝠と戦ってみるか。


 クラス : 戦士Lv2



 次の蝙蝠はすぐに見つかった。剣を抜きゆっくりと近づく。一歩踏み出したところで、蝙蝠も気が付いたようで、こちらへと飛んでくる。やはりかなり早い。もう少し気配察知を育てたほうがいいかもしれない。


 先ほどと同じように上段に構え、向かってくる蝙蝠を待ち構える。突っ込んできた蝙蝠目掛け、踏み込みながら剣を振るう。その剣は蝙蝠を切断した。蝙蝠は地面へと打ちつけられるようにして落下する。


 今のはなかなかよかったのではないだろうか。剣術スキルが上がれば、今のような力任せの戦い方でなくとも殺せるようになるだろう。剣術スキルが上がってから、シーフに戻すかどうか決めよう。



 その後も蝙蝠と戦ったが危なげなく殺すことができた。蝙蝠と一角鼠のクエスト収集品も集まった。普通なら明日は四階層に進むところだが、明日も三階層の攻略にあてることにした。戦士のクラスはレベル3に上がったのだが、残念ながら剣術スキルがまだ上がっていないからだ。

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