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非現実との曖昧さ

作者: 透義

若かりし時に書いた初の完成物。色々と青いです。


嫌い きらい キライ 大嫌い。

ブツブツと呟きながら、私は右も左もわからない場所で膝を抱えてうずくまる。

片方の足に重い鎖が、枷とともに絡んでいる。

しかしそれもじきに消える。

今度は足枷の変わりに腕輪に似た自縛の証を与えられるそうだ。

それがついている限り、天上にも行けなければ、地上で自由に動き回ることもできなくなる。

自縛の証は、神以外はずせない。

だからそれまでにはきちんと成仏してこい、と何年か前に亡くなり、今まで留まっていた先人に言われた。


うん。わかってる。

あなたの言いつけは守る。

私も天上へちゃんと向かいます。

心配しないで。


そう言った。

嘘じゃない。

だけど、約束は守ることができないかもしれない。

もしかしたら、間に合わないかもしれない。

守ること、できなかったら、ごめんなさい。

鎖が薄らいできた。

痛みも伴ってきた。

前兆だろうか。

もうここに長くは居られない。

もうすぐ私は完全に自縛されるだろう。

意識を失うっていうのも聞いた。

そうなったらただの名もない亡者だ。

なにもできなくなってしまう。

今が頃合なのかもしれない。

あいつに会いに行く絶好の。


私は幽霊だ。

数日前か、数週間前か・・・・霊になってから日にちなんて数えてなかったから、それしか言えないけど。死んだ。

死因はなんだったか・・・。

あぁ、そう。

コウツウジコ。

だったな。

他人事のように語れる。

それほど自分の人生はどうでもよかったってことだろうか。

でも、そんな人生でもそれなりに楽しくなるよう生きてきた。

その生がたった18年で終わるなんて思ってもみなかったんだ。

ちょっと短すぎやしないか?

18年。

成人にもなれてやしない。

自分で自分を哀れむ気持ちまで生まれてくる。

だが、まぁ、死んでしまったことは今更とやかく言うつもりはない。

今なにを言っても、やっても、後の祭りなわけで。

どうにもなりゃしないんだから。

でも、せっかく自由な浮幽霊になれたんだ。

せめて最後に華を咲かせてやろうって気になるのもおかしなことじゃないだろう?

『復讐』と銘打って、誰か道連れにしてやろうじゃぁないか。

誰か、とごまかすのもおかしいな。

あいつのせいで死んだも同然なんだから。

それなりに責任を取ってもらわないと。

生前は、思ったらすぐ行動に移す性格だった。

死んだってそれは変わらんさ。

さ、行こう。

霊たちが安定して存在できる空間から抜け出して、外界に出る。

そうすればおのずと人々の姿が見える。

たまに人の生命エネルギーが強すぎて、自分の姿がかすむ時があるので、それだけは気をつけて進まないと。

太陽の傾き具合を確かめて、時刻を知る。

方角がわからないので、本当に傾き加減だけを頼りにする。

天頂より45度沈み気味ってところか。

朝方か、昼間か・・・・。

道行く人の種類を見る。

あぁ、主婦層だ。

てことは、昼間、だな?

じゃ、学校だな。

通いなれた我が学び舎だ。

感慨深く校舎の風景を思いだす。

正門から眺めた校舎の形、昇降口での靴箱の置き位置、校内に設置されたウォータークーラーや自動販売機のある場所を辿ってみたり、教室棟にある自分のクラスの席を記憶を元に思い浮かべたりクラブハウスの並びかたを暗唱してみたり。

眼裏には鮮明に焼きついたそれぞれがある。

学校へ行く前にまずは通学路を懐かしがりながら通過した。

といっても、家から学校までは歩きでもたった15分の道のりだ。

実に楽な通学だった、と今でも思う。

あぁ、着いてしまった。

時間の概念がすっぽり抜け落ちてしまった私にはあっという間であった。

それがなんとも悲しいような嬉しいような、だ。

さて、到着したからにはとっととあいつを探しだして目的を達成せねば。

着いてしまえば取り立てて感激もないことがわかった校舎内を飛び回る。

歩かなくていい、とても楽だ。

と、途中で通りかかった社会科室の壁掛け時計を見させてもらった。

んーと、3時半?

微妙に・・・・授業は終わってる時間か?

どおりであまり人を見かけない・・・・。

早く気が付け、自分。ってとこだな。

授業が終わってるとすれば、部活か。

とりあえずクラブハウスへ。

アイツの所属はバスケだったか・・・?

こういうのはてんでうろ覚えなんだよな。

どうでもいいことだから。

扉の前まで来て、ドアノブに手を伸ばそうとしてやめる。

そんなことしなくてもいいんじゃんか。

無断ですり抜けて入ったって、たとえそこに着替え中のヤツがいたって、向こうには見えないんだから問題ないよな。

というわけで、侵入。

人は、居た。

念のため言うが、着替え中ではなかった。

割と狭いのではないかと思う室内には4,5人の姿がある。

が、アイツはいない。

ここまで来る途中で体育館を抜けてきたから、そこにはいないことは確認済みだ。

では、どこにいる?

・・・わからないな。

居場所がわからないのならしょうがない。

とりあえず、お気に入りの場所に別れを告げてくるか。

昼は数人の友達いつもあそこで摂っていた。

屋上だ。

高く頑丈なフェンスがあるためこの学校は屋上出入り自由な仕組みだから、好んでそこを多く利用していた。

滅多にないことだが、授業に出ないとき、決まってそこにいたのを思い出として残している。

そのまま屋上までひとっとび、というのをやってみた。

む。

・・・・なんでアイツがいる?

いや、探す手間は省けた。

省けたはいいが、天敵とも言うべきアイツが己の好きな空間にいるというのは気に食わない。

アイツは貯水タンクに凭れて座っていた。

こら!いつも私がやっている体勢を真似するんじゃない!!

また腹が立ってきた。

しかし、相変わらず何を考えているかわからんやつだ。

何故ここにいるのか。

俯いていて顔は見えないから表情から様子を窺うことができない。

だが、不本意ながら、ヤツとは長い付き合いだ。

オーラ、ではないが、なんとなくわかってしまう。

ヤツは現在、瞑想状態だ。

たまに、一人になったとき物思いに耽る。

なにを考えているのかわからない、ヤツだからこそできる芸当だ。

考えている内容は知れない。

知ろうとも思わないが。

そっと近づく。

足音が立たない分容易に近づける。

!!!

・・・・驚いた。

目の前に降り立ちヤツのほうへ身をかがめたとき不意に顔をあげられたから。

いや。驚いたのはそれだけじゃない。

細められた両の目、その片方からスゥッと一筋何かがこぼれた。

何かなんて決まってる。

涙だ。綺麗に片目だけから。

一滴だけ。それっきり。

ヤツの視線の先には私がいる。

それも至近距離で顔を見合わせているのだ。

でも、ヤツはそれを知らない。

見えていないんだ。私のことが。

その証拠に向こうは驚いた様子が欠片もなかった。

見ることができないのは承知の上だった。

私は言葉でもってヤツと会合しようとしていた。

「っは・・・・はは。ありえねー。いる訳ないよな。こんなとこに。」

ヤツは一人ごちている。

なにを言ってるのだろうか。

李那いなは・・・・いないよ。当たり前だ。」

ホントにわかんないヤツだな。死んだやつの名前を一人言で出してる。

一歩間違えればあぶないやつだぞ?

私がなんだってんだ。

李那。ヤツは中学に上がる頃から私のことをそう呼ぶようになった。

それまで、友人の前では『房野』とか二人でいるときは『李那ちゃん』とちゃん付けだった。

今となるとちゃん付けは恐ろしいな・・・・。

なんでかいきなり変わった呼び名。

私も、それに合わせる・・・ではなかったがなんとなくイラだったのでこちらも呼び捨てにすることにしたのだった。

『そうだね。居ないよ。普通は、ね。愁?』

いつも、私はこう呼んでいた。

どことなく、バカにした呼び方をするのが癖だった。

普通の人が聞いてみるとかなり失礼な話だろうな。

「・・・・・?」

愁はキョロキョロとあたりを見て、で、そのあと、「空耳か」なんて言うんだろう。

ありがちなパターンだな。

「・・・・・・・い、な?」

あ?

どうしたことか。

ヤツはあたりを見回してもいなければどこか他所を向く様子もない。

ただ一点、こちらを凝視している。

「いな・・・?」

見えていないはず、だろ?

視線はかみ合わないながらも向きあっている現状は変わっていない。

意を決して尋ねる。

『私が見えるの・・・?』

「・・・・あぁ、やっぱり李那、だ。」

『質問に・・・・答えてよ。』

「え・・・あ、いや。見えないよ。なんとなく、李那がここにいるなーと。」

ヤツはここに私が居ることになんの疑問も持ってない様子で普通に応対をしている。

相当神経が図太いのかしら・・・・?

私でさえきっとこの状況になったら逃げ出したりすると思うんだけど。

『そう・・・。私が、今ここに居るとかいう一切の細かいことは抜かして、本題に入っていいかしら』

「細かくないと思うけど。いいぜ。」

なんか今言ったな。

口ごたえ。まぁいい。私もここは無視で通しましょう。

『・・・・なんで、あんなこと言ったの?・・・・・・・・・・・・・私を困らせて、さぞ楽しかったでしょうね?』

「・・・なんだよ、それ。」

まさに目が点。

と言った感じにあっけにとられた表情をした。

それからヤツは、見えないながらに私を睨むようにして双眸を細めた。

『だって。あなた、私に何言った?面白かったでしょう?私の反応見て楽しんでたんでしょう?嘘までついて。』

私はそんなのには怯まない。

憎しみだけで喋ってる今の私に、愁ごときの怒りなんてへでもない。

あいつは、あろうことか、私にこう言った。

《オレは、李那が好きだ。んで、できれば付き合いたい。だからお前の気持ちを教えて欲しい。》

なんともまぁあっさりしたものだった。

あっさりすぎて耳を疑わずには居られなかった。

私とヤツ・愁の関係は、「好き」だの「付き合う」だの、そんな甘ったるいものじゃなかったはずだ。

一言で言えば、腐れ縁。

あと、私にしてみれば天敵、ライバル。

嫌いでしょうがなくても、どうしても目についてしまう。

所謂目の上のたんこぶって状態だった。

少なくとも私はそう思ってた。

愁も同じ考えだと、思っていた。

一体、どこをどう間違えば「好き」だなんて感情がついてくるのか。

だとすれば、答えは一つ。

からかわれた。

これしかないと、私は、死ぬ日の朝そう結論付け、やっと納得することができた。

その答えを出すまでに一週間の期間を要した。

とても長すぎる期間だった。

らしくもない乙女ちっくな思考をしたりもした。

とにかく、ヤツの言葉に惑わされてロクに眠ることもできなくなっていたのだ。

「嘘、じゃない。」

ただ一言吐き出すようにヤツが言った。

『うそ。』

私も負けじと対抗する。

嘘をついている、その相手が死んでいるっていうのに、この期に及んで嘘を貫きとおすわけ?

いい加減にしなさいよ。

「嘘じゃない!なんで信じてくれないんだ?!」

突然、声を荒げて叫ぶ。

聞いてるこっちが痛くなるほど喉を潰すような声だった。

『・・・そんなの!嘘だもの・・・。』

不覚にも、気圧されてしまう。

でも、ここで妥協して負けてしまったら私は私が死んだという事実を嫌な気持ちのまま受け入れなくてはならなくなる。

イヤだ。

『あんたはいつもわからないやつだった。だからそういう嘘だってつくんでしょ?信じられるわけない。』

「オレはわからないヤツじゃない。いつも友達にわかりやすいヤツだと言われるくらいだ。感情はすべて表にでるし、内情で考えたことをずっと隠しもつなんて難しいことはできない性質だ。お前がいつも余計な裏をかいてオレをみてるだけだ。そのままを見ろよ。なにも隠してなんかいやしないんだからな・・・・・!」

私が必死で反撃しているそれをすんなりと切り返される。

なに?じゃぁ、今のヤツの言葉を百歩譲って信じるとして。

だったら、私は今までヤツを過大評価しすぎてたってことか・・・?!

私が「なんだかできるヤツ」だと思ってた愁は、私が勝手に作っていた虚構で?!

天敵とかかっこいいことまで言わせといて、実は「単なるストレートな性格をしているただのバカ」?!

なに、それ。ひどすぎる。おかしすぎる。なんで死んでからそんなこと気付かされなきゃいけない?!

信じない。信じてやらない。絶対に。

『・・・・・・・っ。』

「そっちだって・・・・勝手に自殺なんかしやがって・・・・・!」

ヤツが、こっちもあてつけとばかりに疑を唱えてきた。

どうして出てきたのかわからない単語があった。

「自殺」?

『なにそれ・・。私自殺なんかしてないわ・・・?信号無視の暴走車が突進してきて・・・・それで私、避け切れなくって・・・。』

思わずまともに答えた。

だって、自殺なんて・・・・してないし。

心当たりもない。

ただ道を歩いていた。

それだけのことをしていた。

だけなのに。

あっけないほど私の命は他人に奪いとられてしまった。

一瞬の出来事だった。

・・・なんだろう。

また『死』を自覚した途端、泣けてきた。

幽霊だから涙はでないのだろうか?

泣いているんだけど、涙が出ないせいで完全に泣き切れてない。

どうしようもなく不快な気分だ。

「・・・・それが、死んだ、理由、か?なんだよ、・・・・オレ、そうとう嫌われてて、オレに好かれてるのがいやで自殺したんだと・・・・・オレのせいだって、思ってた。」

『・・・・そうよ!!いつもの私だったらあれくらい避けれていたわ!あんたが余計なことしてくれたから、私ここのところずっとよく眠れてなかった・・・!それが大きな原因よ!!・・・・つまりはあんたのせい!!私がもうすぐ自縛霊になっちゃうかもしれないほどの恨みの対象はあんたなの!!だから、晴らさせて。殺させて!』

屈辱的にも・・・・暴露してしまった。

あの言葉の所為で眠れなくなるほど考えに考えていた、その恥ずかしさがこみ上げる。

言わなきゃよかったと後悔する。

愁はしっかりそれを聞き取っただろう。

そして思うだろう。

『そうか。見事に引っかかってくれたな』と。

あざ笑うことだろう。

腹が立つ。

「それって結局、オレを恨みの対象にして心残りだと思ってくれてたのか?というか、いい方向に勝手に解釈させてもらうと、おまえはそれだけオレのことを意識しててくれたってことだよな?」

どこか、ニュアンスが違ってる感じだけど、言ってることは一緒。

やっぱり意識してた、って思われてしまった。

いやだ。負けを認めるのはいやだ。

愁の言葉で唯一叩けるところを見つけた。

負けたくない。

屈したくない。

叩いてやろうじゃない。

『な、に、勘違いしてるの?『くれた』ですって!!??私は恨みを晴らしに来たのよ!?あなたを道連れに黄泉路へ行こうと・・・・』

「勘違い、か。それでもいいさ。オレは純粋に喜んでるよ。来てくれて、さ。そうか。いいよ。連れてってよ。お前と離れるのはイヤだ。」

私が言ったあと、しばしの間隔を置いて、さっきまでとは全然違う雰囲気になってのんびりと愁が言った。

なんだかもうついていけない。

ヤツはなにを口走ってる?

これじゃぁまるで恋人同士の会話じゃない。

やめてよ。

私はあんたに殺されたも同然で、それを許せなくて、今ココに来ている。

成仏もできずに、恨みを晴らしたくって、ただその一心で対峙している。

だから、私はその恨みを持ったまま、あんたを殺して成仏をしたい。

やめてよ。

『・・・・なんなの。なに言ってるの。』

「あ、勘違いついでに。」

私の存在を確かめるように伸ばした愁の手が空を切る。

それを悲しそうに眉をひそめて眺めた後、持ち直して顔をあげる。

「お前が、自縛されかかるほどに心残りなのは、オレがお前を死に追いやったからじゃなく、お前自身が自分の気持ちを言えなかったからじゃないのか・・・・・?言えなかった言葉をいおうとして、で、恨みと摩り替えてるんじゃないのか?オレと、同じ気持ちだって、言いたかったからじゃないのか・・・・・?」

いやだ、いやだ。やめて。やめてよ!!

ふるふると首を左右に振りかぶる。

愁にはそれが見えない。

無言で居るぶんには肯定を指し示していることになってしまう。

愁は、形成が逆転したような顔つきを見せる。

「なぁ、そういうことだと思っていいか?勘違いさせてくれよ・・・。」

私、このままだといいように解釈されて流されるだけになってしまう。

でも、気が付いた。

否定の言葉を捜すと同時に、肯定の言葉まで一緒に探してしまっている自分がいることに。

どっちも本当の私の想いのような気がしてならない。

わからない。

相反する気持ちがぶつかるでもなく、そこに共存している。

《恨んでる。》

《・・・・本当のこと、言いたかった。》

その事実が、不思議と受け入れられ始めている自分が、わからない。

どれが答えか。

そんなのを模索しているのがバカバカしくなるほど、感情は穏やかになっていった。

なんだ?この急展開は。

頭の中が混乱して、いろんな言葉が飛び交って、どれも口から出る前に消えていってしまう。

始末に終えないとはこのことだ。

でも、なんとか言葉を絞りだす。

うん。もういいよ。片意地張ったってしょうがない。

私はもう死んでる。

後悔することなんてなにもない。

言っちゃえばいいんだ。

割り切ることにした。

プライドは、もう捨てた。

『信じて、いいのね?』

「・・・・ああ。」

『そっか。わかった。あなたの言葉が、気持ちが、本当のことだと・・・信じる。だから、私も、言うね。本当は、・・・本当は、ね?私も好きだったと思う。』

「・・・えらく他人事の響き、だな。思う、って。」

『うん。だって、もうお別れだから、今まで生きてきた「李那」とは。だから、「思う」なの。』

「・・・・・・・・・。」

『ふぅ。もうなんでもいいや。っと、そろそろほんとにタイムリミットが近づいてきたっぽい。そろそろ成仏しないと』

数分前とは明らかに違う声音だ。

自分でもよくわかってる。

現金すぎるな。

でも、成仏するときくらい静かに落ち着いた気持ちで行ったっていいよね。

「待てよ。俺も連れてってくれ、って言っただろ。」

『ん?もういいよ。その必要はなくなったから。愁は愁のために生きて。私のことはココロの奥底にとどめてくれるだけでいいからさっ。』

「待てって!なんで終わろうとしてるんだよ?!オレは・・・・まさに今これからって・・・・・・・そう思って告白したのに!」

『ははっ。ごめんね。これも、しょうがない、ことなんだよ。うん。そう。私もこれで納得。だから、・・・・ばいばい。元気でね。』

「李那!!」

もう返事はしなかった。

できなかったし、する気もなかった。

私は先人を呼んだ。

上から引っ張りあげてもらうために。

私が飛ぼうとしなくても自然と体が浮いていった。

これで、成仏なんだな。

やけにあっけなく感じるよ、ホント。

あとには、一人取り残された愁が、ポツンと佇んでいる。

これでいいんだ。

ありがと。愁。

「李那!!!」

ばいばい。


***


それから、数時間。

夏間近の夜風は、ちょうど肌に心地いい温度だ。

朝まで外にいれば、さすがに風邪をひいてしまうだろうけど、数時間佇むくらいなら平気なほど。

その外へ通じる屋上の扉をノックして、開ける。

一番に目に入るのは夜空だ。

それから少し歩いてわずかな人の気配を探り、その人物の元へと。

私の足音に気がついて愁はすぐに顔をあげる。

「・・・・・李那!?」

「あ、あはっ。やほっ」

固まる笑顔で右手を上げて挨拶、した。

愁は依然変わらず貯水タンクの前で座ったままだった。

私がいなくなってからも、この数時間の間、動いた形跡はなかった。

「・・・・・」

相手の反応を窺い見ようとしていたのだがその当人が絶句ではどうしようもない。

とにかく場を持たせようと喋り続けることにした。

「イヤ・・・なんかね?昨夜の一件をなんと神様が見ていたらしく偶然にも私の「死期」が予定より少し早かったことを理由にもう一回生きなさい、と火葬で燃えちゃった体の代わりに新しい肉体を与えてもらいまして・・・・・。事故後入院して、今日退院したと他の人の記憶は操作されてます・・・・。」

いつになく饒舌になる私を凝視したまま。

荒くもなく細くもない呼吸。

ときどきの瞬き。

愁はそれだけの動作しかしていなかった。

「・・・・・」

「ね、ねぇ?愁?お~い!愁~??」

「・・・・・・・・」

手を愁の目の前にかざして振る。

やはり反応なし。

だ、だめだ。こりゃ完全にいっちゃってしまってる・・・・。

呆然自失ってな具合に愁は綺麗に意識を飛ばしてる最中の模様・・・。

あまりに衝撃的な出来事が重なってしまったおかげで思考回路がショートしてしまったのかもしれない。

まぁ、そのうち戻ってくるよな?

というわけで、愁の隣に座ってその時を待つことにした。

愁が意識を取り戻すまで、なんだかワクワクした気持ちでそこにいたのは、ヤツには内緒。


なにがなんだかわからないうちに死んだり生き返ったりして、でも、結局は結果オーライで。

人生なにがあるのかわからないものだよな。

とりあえず、再度もらったこの体。この命。

大事にして自分の世をまっとうしようと思う。

決して、自棄にならず、時には苦労しながら、生きることを楽しみたい。

それが神の与えたもうたものに対する感謝の術だと思うから。

神様は「いらない」と言っていたけど。

やっぱり言わせてほしい。


『ありがとう。神様。心から、あなたにお礼を言います。』


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「てかさー、思ったんだけど、『神様』ってどんなんだった?やっぱキラキラ光ったりしてたんか?」

「あー、それは、言っちゃいけない掟らしいんだよね。他言無用ってやつ。もし言ったらば私はまた幽霊に逆戻り。そんなの、いやでしょ?私もいやだし。」

なんてな。

実は私もよく憶えていないんだ。

生き返るなら死んでいた時の記憶も必要ないからと神の権限で消されることになっている。

あぁ、ってことは、私と愁のあのこっぱずかしい告白大会も、私の中ではもうすぐ綺麗さっぱりなかったことになるわけか。

ほぉ、また愁は私の氷の心を融かさなくてはならないんだな。

ふふふ・・・・がんばれよ、愁。

私は密かにほくそ笑んだ。

お読みいただきありがとうございました。

HPに載せているだけだったのですが、なにか反響あれば嬉しいなと思いこちらに投稿。

感想あれば嬉しいです。

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