おちてころがる
ギャング・チンピラから連想されることとして、健全な少年少女に対する悪影響が考えられます。
暴力・薬・性・酒
この単語に拒否反応が出る方はお引き取りくださいませ。
ライトノベル、ましてや小説となるのかわかりません。
主人公に軽々と倒されるタイプの雑魚キャラがメインとなる予定です。
「弱い、ずるい、かっこわるい」を意識して書こうと思います。
「俺ってばモテモテ最強じゃーん」という展開は皆無です。
人間の最底辺がなんとかがんばろうとする物語です。
まず
チンピラの散歩から物語は始まる
○
俺はとりあえず不衛生な自宅を出た。ヘドロか糞か、とにかくひどい臭いがする。
俺は冷や汗を脇から垂らしながら、脚を交互に出す。油の切れた、からくり人形みたいにぎこちなく俺はその場にへたり込む。
ケツが冷たい。冷ややかな地面から湿り気を感じた。
首を曲げると腹のガスがのど元に逆流してくる予感がして、かろうじて目ん玉を下におろす。
俺が座りこんだ場所には水たまりがあった。「水」というと液体のしゃばしゃばとした印象を受ける。
「水」というより個体に近い茶色の粘液だ。
大雨が降って、道が浸水しないように道路には数か所の凹凸の斜面がある。雨粒は重力の言うとおり、わずかな傾斜をするするすべる。マンホールか犬の足が挟まれないほどに区切られた鉄板の隙間を流れ込む。
ネズミの死体、酔っぱらいの鼻水、老婆のションベン。これらの三種類で構成された化学兵器と化した地下水に雨水は吸収される。
雨水たちは自分の居場所に嫌気がさしたのか、地上へ濁流として現れた。
日光が当たらず天に召されなかった汚水は、老朽化の進んだ建物の間で発酵を加速させる。
食用か工業用かは定かではないが、油が水たまりに混じっている。
油はレコードのように規則的に回転したかと思うと、つぅーっと底に沈んでいく。蛍光灯のかすかな光を浴びて
俺には虹のように光って見えた。
何百回も洗濯した洗濯されたシャツのロゴのように、日陰の中の虹の色は薄かった。
どのくらい歩いたのか?時間がわからない。わからないのは時間だけではない。
いつまで寝てたのか、1時間?20時間?そもそも寝てないのか?
最後に食べたのはパンだったか?いや水と女が買ってきた、オレンジだったかもしれない。
パンツは着替えた?仕事は探したか?薬は打ったのか?
薬。
「打つのはやめよう」とリーダーが言って刺激の少ない錠剤に変えたのを思い出した。
「ヤクだ……」
膝に手を置いて俺は立ち上がる。のそのそナメクジのように壁に背をこすり付けながらだ。
目の前には薬局屋がある。俺は笑ってしまった。気晴らしにうろうろしようと出かけてみると、行き着いたのは海馬に刻み込まれた通いなれた取引のビルだった。俺は副作用しかない薬を買う場所を薬局と呼ぶ。
ただ品揃えは最高で最低だ。
アルコール、たばこ、風邪薬、鎮痛剤、LSD、コカイン、モルヒネ、ヘロインがパッケージングされた箱ではなく、新聞紙によって包まれた状態で売られている。わが子のように新聞紙を撫でながら中毒者は巣に帰る。スキップでもしたい気分だろうが、すでに彼らの大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋は
木の棒のように萎縮している。本物のわが子は餓死しているか、躾のために殴り殺されたのが大多数だ。
そんな奴らに俺は商売をしている。「まかない」も豊富である。
そして俺はおこぼれに飲み込まれた。
言い訳なら山ほどある。脂汗を描きながら、便意を我慢してるみたいに薬物を買いあさりに来て、らりって、高揚の波が引いてシラフに戻ってくると隣でらりっている仲間のアホ顔を横目で確認して見下して、ダウンがやってきて夢うつつになって幻の鏡がポンと登場して鏡に写る自分が「てめえも同類だと」嘲笑して、フローリングの床がゼリーみたいに柔らかくなって体が沈んで行って、地面にどんどん沈みこんで、マグマに到着して体が燃えるように熱く感じて跳ね起きると朝の太陽が顔面に直撃していたことに安堵してまたヤクを静脈に流し込む。
親が悪い。ダチ、故郷、顔、金、車の免許、洗濯機、テレビ、頭脳、人生、運が悪い。どれもこれも一つとして合格のハンコを押すことができない。
22年が俺がこの世に生まれて流れた時間だ。
無駄だ。プレス機にかければ、2,3年がいいところだ。
だけど変わろうと思う。生まれ変わろうと思う。いや生まれ変わるんだ。
今までの俺は俺じゃない。街を出て異国の土地に訪れれば神秘の力によって俺の腐った思考回路が引きなおされるだろう。志は重要だが、実行するという結果こそが何よりの素晴らしい人生を歩むための条件と
なる。
そのためにはヤクと決別すべきだろう。
俺は壁伝いに道路を飛び出した。
長年思いやんでいた中毒という鎖を言霊の斧で切り離した。天使に両肩を持たれたのか羽のように体が軽くなった。禁断症状の一歩手前だが、
「薬をやめるんだ!」俺は通行人がおびえるのをよそに叫んで駆け足になった。
心臓が爆発して、肺がちぎれそうになった。しかし大脳は足を動かせと命令する。
筋肉に血が流れ込み、またマッスルポンプで血が心臓へ返るのがわかった。
乳母車がすぐ目の前に見えた。
当たり前だが距離は近づいてくる。母親は顎が外れそうなくらい恐怖の雄たけびを挙げた。
俺の走りは酔っぱらいのそれだが、ボールを取りに行った犬が飼い主に届ける速度で走っている。
右足を深く、膝蓋骨が胸につくくらいまで踏み込むと、次に前後に開脚した。一瞬67キログラムは宙に浮く。
俺の股の真下にいたベビーカーの赤ん坊はしっかり目があった。頭の中で「おやすみ坊や」とつぶやいた。
着地の際、右手の小指から乾いた音がした。
ハードル飛びの要領でベビーカーを飛び越え、穏やかなる家族との衝突は免れた。
つんざくようなブレーキ音はすぐにフロントガラスが蜘蛛の巣のようにひび割れる衝突音になった。
俺は車に轢かれた。ボンネットに乗り上げ後ろ周りに前転し車体の屋根に乗った。ピンと足先が天空をさすと、いったん運動が止まり、その後プレゼントを飾り付けていたカードのように無様に道路に落ちた。
ひとだかりがつかず離れずの距離で俺を見下ろしている。人ごみが、のそのそ割れた。警官が3人俺のもとに駆け寄った。
「こんばんわ、旦那」と俺は言った。
一人、頚と顔の境目の判断がつかない体型をした中年の警官が腕を俺の方に伸ばしてきた。青を基調とした制服にしわが寄った。
警官はサングラスを親指と人さし指でつまんでいた。
目に激痛が走り、手で顔を覆うとしたが腕が持ち上がらない。
「おはよう、あんた今動かそうとするなよ」
サングラスの「柄」を一度眼球に突き刺したが、再び真っ黒なレンズを両目にセットしてくれた。
「ああ、朝ですか」
「もう少しで昼だぜ、病院も商売始めてるだろうよ」
「泣いてるのはお巡りさんが目を突いたからですよ」
残りの警官は今、目の前にいる中年より年下なのか。一人きびきびと野次馬を遠退け、一人運転手に詰め寄っている。大事件が起こるのも心労だろうが、俺のようなどうしようもないやつを相手にするのも気苦労だろう。
「僕ね、真面目に生きようと思うんですよ」
「思うだけなら、猿だって腹減ったとおもうだろう」
頬の肉が分厚く、鼻と唇が小さく見える警官は塩っ辛い声で答えた。