ハケンの品格
職場に三ヶ月前から、ハケン社員さんが来ています。
28歳の彼女はとにかくセクシー。
身長は165センチ位。
髪を巻き巻き、唇はぽってりグロスでつやつや、やけに胸元を強調した服ばかり着てきます。
勤務態度もたいそう気だるそう。
ヒールをかたっぽ脱ぎ捨て、髪をいじくりながら電話対応で甘ったるい声を出しています。
そんな彼女が…
ハケンされてきたその日から、ことあるごとに、私を見るのです。
はじめは、気のせいかな?
と思いましたし、あまり私のほうもジロジロ見るわけにもいかないので、意識しないように努めてきたのですが、日増しに目線がエスカレートしていき、終いには、私がトイレに行き、事務所の机に座るまで、じーっと私を目線で追いかけてきます。
私はイチモツにそんなに自信があるわけではないので、
「また、チャック閉め忘れたかな…」
※私はトイレに行くと、かなりの確率でチャックを閉め忘れます。
とも思いましたが、どうやらそういうわけでもなさそうで、先週のとある日には、私の横に座る巨漢の女性事務さん(通称、魁皇)に向かって、
「○○さんって、綺麗なおっぱいしてますよね〜、トレーニングとかされてるんですか」
と、アンダーバストを擦りながら、私に早乙女太一ばりに力強い流し目を送ってくるのです。
私は、綺麗なおっぱいを作るためのトレーニングがイマイチ想像できなかったうえ、トレーニングじゃなくて稽古の間違いだろう、と思いました。
そして、目のやり場に困り、下を向いたらところ、チャックが開いていたのでとりあえず閉めました。
それからも彼女の目線攻撃は続き、ついには、私の退勤時刻を狙った待ち伏せ奇襲攻撃により、私はアドレスを彼女に奪われたうえ、ゴハンの約束までしてしまったのでした。
それはさながら、女豹に喰われたプレーリードッグのようでした。
私は、若干緊張しながら、日々の業務をこなし(その間も彼女のアイビームは絶え間なく私を攻撃してきましたが)、その間、魁皇が腰をいため、節電の夏場所を休場するといったハプニングがありましたが、日々は過ぎ、
そして、迎えた約束のゴハン当日。
とりあえず私は、タフマンを飲みました。
※大事な試合の当日に、私は、必ずタフマンを飲むという習慣がありました。
待ち合わせは、会社の同僚に目撃されるとマズイといった理由(別になにも悪いことはしてはいないのですが)から、個室の鉄板焼屋を予約しました。
彼女とのゴハンは、思ったより会話も弾み、日本酒や焼酎の美味しいお店ということもあり、楽しいひとときを過ごしながら、それはそれはお酒も進んだのでした。
会話の途中途中に、彼女は、肉を焼きつつ、胸元を強調しながら、
「私は不倫は平気」
だの、
「お酒を飲んだらエッチな気持ちなる」
だの、
「ワキミズくんはカワイイ」
だのと、フェロモンピーアールをしてきます。
終いには、彼女は浜松が地元なのですが、地元に連れていって、美味しい鰻のお店に連れていった後に、ホテルにお泊まりしたいだのと言い出す始末です。
肉を焼き終えた彼女は、続いてもんじゃ焼きを焼きはじめました。
多量に水分を含んだ生地は、野菜と混ぜ合わさりながらぐちょぐちょと音を立てながら鉄板の上を跳ね返ります。
「なんだか、グチョグチョ、イヤらしい感じだね」
と、彼女が言いました。
私は、散々考えた後、考えが一周して、わけがわからなくなったため、とりあえずその場の欲望に身を任せ、
「うん。イヤらしい音がするね。僕も○○さんを、グッチョングッチョンにしてみたいな」
と、真顔でいうと、彼女は、
「ワキミズくんとグッチョングッチョンはイヤだなー。そもそも意味が分からないし。変態!」
と、厳しい突っ込みが入った後、なんとなくお互い気まずくなり、その日はそのまま何事もなく帰宅したのでした。
そして、軽はずみな言動を反省した私は、早々に床につき、枕を濡らしました(枕からはなぜかほんのりタフマンの匂いがしました)。
しかし、その後もなぜか彼女からの攻撃は続き、先日一緒に乗ったエレベーターでは、
「もう少しでワキミズくんとお別れかぁ。寂しいなぁー…」
※彼女は、三ヶ月限定のハケンさんでした。
としおらしく上目遣いで私に訴え、一緒に乗り合わせた部長と私を気まずくさせたうえ、穴があったら入りたい(入れたい)気持ちにさせたのでした。
このままでは、ハケンさんが来るたびに、デリヘルのような気持ちになってしまうと思った私は、信頼する上司S(38歳・独身。通称チャラメガネ)に相談することにしました。
「先輩…、このままじゃ俺、おかしくなっちゃいそうです…」
「お前はホントダメだなー。だいたいお前は昔から『期間限定』って言葉に弱すぎる!」
「でも先輩…、俺、もんじゃ焼きを見ると異常に欲情しちゃう…」
と、私が言いかけたそのとき、
チャラメガネは言いました。
「まぁ…、でも、俺、今そのコと付き合ってるんだけどな」
…
……。
そうです。
私の知らない間に、二人は付き合い、ディズニーランドいきーの、海いきーの、車内でグッチョングッチョンしていたのでした。
なんだよもー!
欲求不満!