08:「礼には及ばねえよ。一応親友ってことでな。」
あれから一週間。
前よりもっともっと幸せな日々を過ごすようになった。
ラブラブ、というほどではない。
お互いちゃんとやる事はやっていたし、健全な高校生カップルとして
見ていて実に微笑ましい光景が、幾日か続いた。
星太はあの日以来、いいムードになったら積極的に行くようになっていた。
それが優衣にとってはとても嬉しく、二人の仲は今までで一番「恋人」に近いものとなっていた。
キーンコーンカーンコーンと、全国共通の終業のチャイムが鳴り始める。
「終わった終わった。」
星太はグッと手を天井に伸ばし、精一杯息を吸った。
「まずは一週間。良かったじゃん、前より絵になってるし。」
息を吐いていると、飛風が来た。星太は笑顔で礼を言う。
「うん、ありがとう飛風。」
「礼には及ばねえよ。一応親友ってことでな。」
「いや、なんでお前が言ってんだよ。」
前者は篤史、後者は飛風だ。
篤史特有の笑いイズムで、三人とも満面の笑みを浮かべた。
ー 平和だ。永遠にこの環境が続けばいいのに…。
心の底から星太は思った。
「星太それでさ…。」
「星太私帰るけど……。」
ふいに飛風が真面目な顔になったかと思うと、そこに優衣がひょいと現れた。
「あ…優衣。えっと…。」
「……いいよ気にすんな。また明日。」
飛風はニッと笑うと手を顔の横にだして「バイバイ」のポーズをとった。
「えっとじゃあ…ごめんな飛風、篤史。ありがと!」
「おう。」
「礼には及ばねえよ。一応親友ってことでな。」
「しつこいよ篤史。」
帰り際までもみんな笑いに包まれていた。
「……でさ、俺ホント爆笑したよ。」
「あはは!ホント面白いよね!絈野くんて。」
「あいつはいいヤツだよ、本当に。」
こんな風に他愛の無い話で下校。
以前はお互いに気を使ってというか、あまり喋ったりしなかったが、
今はこんな風に普通に話せて普通に接する事ができる。それがまた幸せだった。
「んじゃ…また明日ね。」
「うん、じゃな!」
「バイバイ!」
優衣を家まで送ると、路地を回る。
家自体は隣だが、玄関はお互い逆向きにあるのが不便だ。
といっても、せいぜい50m弱程度くらいしか歩かないのだが。
「〜♪〜〜♫」
鼻歌まじりに誰もいない路地を歩く。
二度目の角を曲がってさあ玄関、と思ったが、人が居た。
星太はドキッとした。思わず後ずさりした。
あのとき校門にいたそばかすの男が、うちの玄関を舐めるように見ていたのだ。