06:「俺…どうするべきなんだろ…。」
男に構っているヒマはなかった。
それに不良に用はなかったので、星太はさっさと通り過ぎようとした。
「おい無視すんなよ。」
後ろから強めの口調でハッキリと詰められる。
その時、雨がサーサーと降り始めた。
「ん…雨だ。」
男が無意識にそう呟いた。その瞬間星太は一目散に走って逃げた。
「あ!おいコラ!ちょっと待てって!!」
男が捕まえるまでもなく、星太はあっという間に、地平線の彼方に消えていった。
「…やれやれ、どうすっかな…。」
男は頭を掻きながらため息をついた。
「…はぁ……はぁ……。」
ここまでくれば、というお決まりの文句を発して膝に手をつく。
雨はさっきより少しずつではあるが、確実に強くなってきていた。
まだ心臓がドキドキしている。
生まれてこのかた不良に絡まれた事など無かった。
絡まれるような性格でもなかったし、興味もなかったのだ。
初めての経験に少し恐怖を感じ、
なんとか振り切った(というか最初から相手は追いかけてきていない)ところで、
気がつくと星太は如月駅、即ち、あの場所にたどり着いていた。
少しあの時の唇の感触を思い出したが、すぐに我に返り、再び目を瞑って走り出した。
その時星太は、どうして校門前であの男がわざわざ自分を探していたのか、考える余地もなかった。
『ピンポーン』
優衣の家に着く頃には、星太は雨でビショビショになっていた。
だが星太は息をつく間もなくインターホンを鳴らす。
息を整え、戸が開くのを待つ。
出てきたのは、星太が会いたくて、会って話がしたくて探していた優衣本人だった。
「優衣…。」
思わず笑みがこぼれた。
「星太…!あんた…!!」
優衣は驚きよりも呆れの方で口をぱくぱくさせていた。
「…言いたい事が…あるんだ!!」
星太は真剣な目つきになると、ジッと優衣の目をみつめた。
「ご……。」
「ちょ…!ちょっと待って!!」
優衣はそう言うと、サッと家の中へ駆けていった。
星太は一句目を遮られ、唖然としていた。
少しすると、星太の顔に暖かいものが投げられてきた。…タオルだった。
「早くそれで体拭きな!!そんで、早く入って!!」
優衣は手招きすると、すぐ家の中へ戻っていった。
星太は言われるままにタオルを手に持ったまま玄関まであがっていった。
「あーもうビショビショ。シャワー浴びてきて!お風呂も入ってるから!」
「…え…いやでも…俺んちもすぐそこだし…。」
「いいから!早く!!」
優衣は無理矢理星太の背中を押して風呂場まで連れて行った。
星太は何がなんだか分からないままシャワーを借り、湯船に浸かった。
星太には、今の優衣の心情が全くと言っていいほど読み取れなかった。
思わず呟いた。
「俺…どうするべきなんだろ…。」