05:「いくら後悔したって後の祭り。」
「……ん、なるほどな。」
飛風が親指の爪を軽く噛みながらうなづく。
「で、いろいろ悪い事が重なって、しょげてるわけだ。」
星太はうつむいたまま黙ってうなづいた。
「美人だったんだろ?うーわいいなー。喜べばいいじゃん。」
能天気にはしゃいでいる篤史の頭をため息まじりに飛風がスパンと叩く。
「…まぁ確かに一理あるとは思うよ。相手が少なからず美人だっただけマシじゃん。
これが一般的に言われる『ブス』だったらショックももっとでかかっただろ。」
もう星太はまるで死者のように微動だにしなかった。
「…考えてみなよ。いくら後悔したって後の祭り。
こういてる間にもお前を待ってる人が居るじゃん。
いくら申し訳ないと思ったって、前に進まなきゃ事は悪い方に進んでくばっかだぜ?」
大きくため息をついたあと、飛風はジッと星太をみつめながら言った。
星太が少なからず反応したのを見て、
飛風は表情を変えずに星太に背を向けた。もう教室に人は残っていない。
「篤史、行くよ。」
それだけ言って飛風は一度も振り返る事無く教室から去っていった。
篤史は飛風と星太を交互に見ながらも、結局走って飛風の後を追っていった。
星太は誰もいなくなった教室で一人、少しだけ顔を上げた。その顔には再び生気が戻っていた。
「優衣…。」
そうつぶやいてから、数秒後。突然星太は席を立ち、鞄をひったくって教室を後にした。
ただ、廊下を走った。星太の中では「後悔」より「贖罪」に近い感情の方が大きくなっていた。
ー 優衣に…今日の事を……全てを…話そう…!
その想いだけが、星太を動かす唯一のエネルギーだった。
嫌われるかもしれない、「別れる」じゃ済まない何かが起こるかもしれない。
でも星太は一度も立ち止まらずに下駄箱まで駆けてきた。
靴を押し込んで再び走る。
目指すは優衣の家。
星太はそこまで走り続けるつもりだった。
だが、校門にボサボサ頭の男がいるのをみつけて、少しスピードが落ちた。
男はキョロキョロしていたが、星太をみつけると手招きをした。
「お……いたいた。ちょっと悪いけど顔貸してくれない?」
男はそばかすだらけの顔でニヤッと笑った。